演習(ヴァイアラン)
今度はサブキャラの話です。
そしてアヴァランチが帰投した後、演習が開始された。
「vaialn system auto green line」
カタパルトから射出される。轟、と風を切る音。
どうやら、また俺は戦うことになるようだ。ふいに、死んでいったかつての仲間が見えた。
頭を振るい、幻想を消す。不本意ながら、また俺は戦場に立つ。
「敵を確認――ヴァイアラン、作戦開始」
頭の中が、その一言で変わる。かつての感覚。
ライフルを形成し、一呼吸おいてから――狙撃!
奴が笑っているのが見える。そして――察する。奴は、戦いを楽しむ、下衆だと。そして、思う。あの男のようだとも。
ビットを形成。まとめて襲わせる。それでも奴は余裕綽綽の態度を崩さず、そのすべてを、破壊し――さらには反撃までする。
「なかなか面白いじゃないか、ヴァイアラン!ネタは尽きてないよねぇ?」
ライフル、そしてビット。その弾丸が、迫る――!
さすがに、撃ち落とすのはきつい――回避するしか――
ザシュンッ!
右足にワイヤーが突き刺さる。と同時に足に鉄条網が巻き付き、機動性を奪われる。
「ち、この程度かよ。つまんねぇ」
弾丸が迫る――だが驚くほど俺は冷静だった。まず弾丸をそらし、致命傷を避ける。
そして両脚をナイフで叩き斬る。スラスターを吹かしつつも両足を形成。
「いいじゃないか、さすがだ。だが――」
言葉を切る。何をするつもりだ――?
「死ぬまでの時間が伸びただけだっ!」
スラスターの光で奴の姿が消える――これは奴のパーソナリティか?
まあ――ここで死ぬようじゃ、元兵士としては失格だろうな。
その軌道を読み切り、銃弾を放つ。明滅するマズルフラッシュ。反動と、その光が、感覚を研ぎ澄ます。背後に気配。ビットを展開。
「ちっ――やっぱりかよ!」
そういいながらも彼は、ビットを形成し、反撃する。その戦闘スタイルも奴に似ている。隙があるようでない、そんなスタイル。
再び加速し迫り来る――だが。やはり一直線すぎる。フェイントも何もない。
「vaialan system auto personal open」
装甲を輝かせる。パーソナリティ展開、武装を一気に形成する。翼状に広げられたユニットから次々に銃弾が吐き出される。
「さて――少々乱暴なパーティーになるなッ!」
銃弾がめちゃくちゃなリズムを刻む。その嵐の前に、彼はじりじりと距離を開けていく。さあ――ここからが正念場。
頭を切り替える。サイトの中央に、彼をとらえる。あえて、少しだけ逸らす。
狙撃。マズルフラッシュが一つ。
彼が回避を試みるが――パッと赤が咲く。そして、そこからありえないことが起こる。銃弾が彼の体を這うように動く。そして、装甲を――固める。
「なあッ――!」
腕を縫い付ける。さあ、どうするよ?
第二射。さらに連射。次々に装甲を無力化していく。
だが。
「まだ終わらんよッ!」
威勢のいい声とともに、彼は、自身のシステムを解除し、もう一度展開してくる。
やはりか。ちっ――仕方ない。パーソナリティの展開が終了する。一挙に疲労がたまり、汗が噴き出す。
「どうした?」
笑いながらもそういう。まずい。このタイミングでは、システムを解除できない。
光が迫る。まともに食らう。血が噴き出る。このままでは――やられる――?
なわけあるか。加速し、あえて接近する。そして、残り少ないナノマシンでナイフを形成。
「読み切った。チェックメイト、だ」
ナイフを投げるモーション。だが本当の狙いは。
「ぐはあっ! 何をした?」
奴のコアにビットが突き刺さる。そして、それが変形する。奴の体を覆い、内側から無骨な金属片が突き出す。俺の切り札。限界まで圧縮したナノマシンでビットを形成し、パーソナリティと同じような効果をもたらす。その一撃必殺が命中したというのに、彼は、まだ瞳に狂気を宿し、必死に足掻く。無理やり体の浸食された部分を切り、再度形成する。
「ちいっ――!」
「ほざけ。てめぇなんざに――殺されてたまるかああぁぁぁっっ!」
絶叫。――生への執着。
その声は、俺の頭には届いていない。俺の頭には、かつての戦友たちと、そして憎むべきあの男の姿だけが写っていた。
その姿と、奴が重なる。最後の一発を――放つ。
「ぐううっ――! まだ、まだ終われない。こんなとこで俺はああっ!」
直も加速し、迫る。なんてタフなんだ。賭けに出るしかない。
「vaialan system auto peronal limit over」
制限を解放し、一気にナノマシンを回復させる。疲労で意識が朦朧とするが、気にしない。
頭を振るい、気を引き締める。
まだ、終わらない。昔の感触を手繰り寄せていく。
(くそ――明らかにあいつは強い。だが、やはり。あの男ほどじゃない。なら――こいつに負けるようじゃ――!)
重火器を構える。その先に、奴の足。スラスターだけを、見据える。
さあ――そろそろ終わりにしよう。
「これでえっ!」
放たれる銃弾。多数の重火器から放たれるそれは、狙い違わず、撃ち抜く。そして――関節を固め、スラスターの機能を停止させる。さらに追い打ちをかける。連射に次ぐ連射。身動きを取れなくする。
「vaialan system auto personal end」
パーソナリティがちょうど切れ、通常弾頭に戻る。そして、ナノマシンの回復も中断された。残量を確認するが、十分なだけ確保できない。ので――
重火器をすべて排除し、スラスターに変更。短刀を二本持ち――かける。
――あと三秒。
奴が、必死にもがく。――間に合うか――?
――あと二秒。
距離を縮め、間合いに入る。
――あと一秒。
刀を振るう。
――コンマゼロゼロ一秒。
――奴の機能が回復する。
キイイインッ!上がる火花。防がれたことに驚愕。だが、それだけじゃない。銃口が、暗くこちらを見つめ――ほぼゼロ距離で、放たれる。その銃弾を、弾く。そのままの勢いで、奴の体に一太刀。
「ぐはあっ!」
そして、ライフルを形成。吹き飛び、起き上がろうとする奴に向かって――放つ。
「死ね。この、狂人がッ!」
放たれる、最後の銃弾。突き刺さる。
「があああああッッ!」
断末魔。心に響くその声。罪悪感で心が満ちる。だが。こんなことは今までに何度もあった。それに比べたら――何の問題もない。
「お前ら――これで、いいのか? 力で、戦争を止めるのでよ……?」
心の中の彼らに問う。俺は、正しいか、と。だが、彼らは、何も返さない。
そして思う。俺は、力を振るうことしかできない。だから――その役目は、他の奴に任せる、と。
決意を固め、帰投する。その眼には、強い意志が灯っていた。