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マグ・メグ・メル

わいわい、ガヤガヤ…


「安いにゃ安いにゃあ!西の湖の採れたて新鮮にゃお魚!お安くにゃってるにゃあん!」


「焼きたてのブレはいかがですか〜?ハネイを織り込んだあまぁいのから、ご飯にぴったりのヴィセプラートまで、美味しいブレはいかがですか〜?」


「レプラコーンの靴屋は良い靴屋〜、足にぴったり、長持ちするし〜、歩き移動の疲れを減らす〜!ブラウニーの服屋は良い服屋〜、仕立てしっかり、長持ちするし〜、暑さ寒さは通さない〜!」


「ねぇねぇ聞いた?ヴァンパイアの侯爵さまの話!」


石畳の道、道の向こうには白亜の城。


ちょうど城までの距離の半分くらいの所には大きな噴水があって、その周りにいろんな種類のヒトが座っていた。


道の両脇には様々な店が並んでいて、声をあげて呼び込みをしている様子は、上野のアメ横を思い出させる。


店の大半は淡い色合いのレンガや石材で出来ていたり、漆喰のようなものが上塗りされているようで、結構しっかりとした作りのようだ。


しかし、高さはさほどでもなく、窓を数えて見れば、高い建物でも精々が三階建てに屋根裏部屋も使えるほどだろう。


屋根の上は瓦を使っている店が多いようだが、稀に屋上庭園なのか、あるいはそういう種類の屋根があるのか、蔦植物のようなモノに覆われていたり、シバザクラのように花を咲かせている屋根があって、雨漏りしないのか、少し気になってしまって。


時々二階へと続く階段があったりするが、その階段は大きな蔦を縒り合わせたようにして出来ている上に、どうやら植物としてもまだ生きているようで、花を咲かせているモノまであった。


所々店の向こう側で桜のようにも見える大きな樹が枝を伸ばしているのも見え、風に誘われたのか、様々な色の花びらが、空に大地にと踊っていた。


空を飛べる種類の妖精たちは、自分のような背の高いものとぶつからない程度の高さを飛んでいて。


また、疲れた時には思いおもいに店の屋根の上やら樹の枝にやら腰掛けて休んでいるようだった。


ゲームでよく見かけるような、完全に植物だけで出来た街でもなく、ヨーロッパで見かけそうな石造りがメインの街並でもなく、そのふたつが繊細なバランスでもって融合された街が、マグ・メグ・メルだった。


もしかして夜になったら明かりが灯るのだろうかと思わせる、スズランのような背の高い植物が等間隔に植わっていて。


ウツボカズラだったか、大きな口を開けて虫を取る植物の、そこそこ大きなモノも等間隔にあるけど、食べ終わった後のゴミだかを入れてる所を見るに、もしかしてゴミ箱なんだろうか?


右を向いても、左を向いても、それこそ前だけを見ていても、気になるモノが多すぎて、どんなモノなのか今すぐ確認しに行きたくて、ウズウズしてしまう。


多分その気にならなくても、この大通りを探検したり調べたりするだけで、3日は潰せそうだな!なんて思うけれど、残念ながら今日はその為に来たわけではないので、我慢するしかない…。


これほどきょろきょろと周りを見ていても、幸運な事にまだガヴスグリンさんとは逸れていないし、このままちゃんと後を追いかけていこう。


そう思って、やや大きな通りとの交差点でもある、噴水の所まで来た時だった。


噴水の底のキラキラ綺麗に輝くモノはなんだろう?と少し気を逸らしてしまった瞬間、


急に左側、視界の外から何かに勢いよくぶつかられ、踏みとどまる事も出来ずに身体が傾いていくのを感じ。


せめて自分は周りを巻き込むまいと、人気の無い方へと倒れようとして、そこで人気がない方は噴水の方だった事に気づけば良かったのに。


「あ!?」


バッシャーンッ!!


「れしぃぃぃ〜っ!!?」


続いてそのまま突っ込んで来そうになった、勢いよくぶつかって来たモノは、慌てて自分が捕まえたから噴水に突っ込む事は無かったけれど。


膝から下は辛うじて噴水の淵に引っかかっているのに、太ももの半ばから腰にかけては水に浸かって、リカバリーが間に合わずにボウル状の部分から溢れる水のカーテンを頭から被ったせいで髪からは水が滴り…。


それでも、幼子のような見た目の下手人が濡れずに済んだ事に、ホッとする自分が居て。


「ふみゃああ!?ごめんなさいれし〜!ごめんなさいれしぃ〜!?お怪我らいじょーぶれしかぁぁ!!?」


泣き声をあげる下手人…下手妖精?を、噴水の淵に座らせて、こんだけ濡れたら今更膝下が濡れても大して変わりないだろうと、靴だけは脱いで立ち上がれば、下手妖精は大きな目から更に大きな涙を零していて。


上着の裾だけは絞ってから、ピンクのツインテールな下手妖精に、慰めるように笑顔を向けた。


「キミこそ怪我はない?受け止めるの多分間に合ったから、キミは濡れなかったと思うんだけど…大丈夫だった?」


「だ、大丈夫れし!」


「そう…なら良かった。せっかくの可愛いお洋服、濡れちゃったら悲しいもんね?自分も濡れちゃっただけで、怪我とかは無いから、気にしなくて良いよ?でも、今度からはもうちょっと気をつけてね?」


「は、はいれし!」


流石にこんな事があってはガヴスグリンさんを見失ってしまうのも仕方ないけど、なるべく早く合流した方が良さそうだよなぁ…。


ぽんぽんと下手妖精の頭を右手で軽く撫でてから、左手で靴を持つと、そのまま歩けそうだし、と裸足のまま歩き出して。


「あ、あのお礼!じゃない、お詫びはどうすればいいれしか…!?」


後ろから聴こえてくる声に、ひらひらと右手を振るだけで答え。


「せ、せめてお名前ぇ〜!」


いや、この程度の事で名前を聞かれてもねぇ?


自分を含めた兄妹たちは、昔からこの程度のハプニングになら月一ぐらいで巻き込まれているし、別に特別な事でもなんでもないだろうに、どうしてこう毎度毎度名前を聞かれるのか…。


助けるつもりで助けたんでなく、結果的に助けた形になっただけなのに。


よくある事だし、別に気にする必要もないと思うんだけどなぁ。


水に濡れてしまった自分を見ても、妖精属のヒトたちは特に嫌な顔などせず、むしろイイコト思いついた!とでも言いたげに目を輝かせるヒトたちもいて。


城の方へと歩を進める自分の後ろから、バッシャーンッ!と誰かが噴水に飛び込んだような音が聴こえて、思わず苦笑が漏れてしまったのも仕方がない事だと思う。


噴水から城に続く方の大通りは、それ以前の大通りと比べると少しずつ賑やかさが落ち着きはじめ、城の真ん前まで来れば、喧騒は少し遠くに感じられた。


城の周りに堀がある、というよりは、湖を切り取って城の周りに持ってきてみた!といった方が近いんじゃないかと思うほど、堀は深く。


それでいて大通りの2倍くらいの幅もあり、水も澄んでいて中を泳ぐ魚たちや、揺蕩う水草の様子もよく見えた。


橋は途中に小さな石の塔のようなモノが左右にあって、塔から大通り、城から塔までと橋に繋がるチェーンの部分が違うので、多分橋は1つではなく、2つに分かれているのだろう。


映画なんかで馬で堀を跳び越える、なんてシーンもあった気がするが、これなら確かに塔の部分で引っかかって、城にまでは跳んでいけない気がするが…。


でも上空は普通に開かれているから、そっちからはご自由に侵入してくださいって感じだよね…。


一体どんな敵を想定して作られた城なんだろうか…と、つい、気になってしまった。


塔の所に立っている兵士と何やらガヴスグリンさんが話した後、兵士のひとりが敬礼をして城の中へと走っていったが、何かあったのだろうか?


一歩橋へと踏み出せば、しゃりん…しゃりん…と細やかに鈴の音のような音が聞こえてきて、ちょうど歩くのと同じタイミングで鳴っている事から、鶯張りみたいなものなのかも知れない。


その音で、誰かが来ているのがわかったようで、ガヴスグリンさんが振り向いた。


「おお!来たか、アキラ…ってアキラ、お前さん、濡れとるじゃないか!一体何が…!?」


「あ〜…勢いよくぶつかって来た子を支えきれずに、足を滑らせた結果、噴水に落ちた?みたいな??」


自分の格好を見た瞬間、心配そうに駆け寄って来たガヴスグリンさんに、少し照れくさくなって、視線が泳いでしまったけど…家族以外でも、こうやって心配されるのはなかなかに嬉しいものだなぁ。


「怪我は!?何処か痛めたりしてないか!?お前さんの事だから逸れはするだろうとは思っていたが、まさか噴水に落ちるとは…!」


「ん、大丈夫!濡れただけだから。」


ぺたぺたと触れる範囲に触れて怪我がないか確かめているガヴスグリンさんは、本当に心底心配してくれているようで…。


どこに触れても自分が痛がる素振りを見せなかった事で、ようやくある程度安心できたのか、ガヴスグリンさんは大きなため息を吐いて、無駄に強張っていた体から余計な力を抜けたようだった。


「はぁぁ…無事なら良い。あんまり心配かけさせんでくれ…」


「うん、なるべく気を付けとく。」


気を付けた所で、防げない事は防げないんだけどね?


ガヴスグリンさんの後ろにいる兵士さんが苦笑していたけれど、それは一体誰に対しての苦笑なのか。


自分に対してではない事を祈っておこう…。


疲れたような雰囲気を纏うガヴスグリンさんが城の方へと向き直れば、先程走って行った兵士がまた走って戻って来る所で。


「ガヴスグリン卿!妖精女王陛下はすぐにでもお会いしたい、との事です!」


数歩先に止まってすぐに敬礼し、そう告げた兵士はキラキラとした視線をこちらに向けていて。


しかし妖精女王って…まさか女王さまに会いに城に来たんじゃないよね…?


そうだとしたら、もう滴ってはいないとはいえ、濡れた格好の自分は不敬に値するんじゃないだろうか?


そうは思ってもこちらに一瞬視線を寄越した後、ガヴスグリンさんはもう一度ため息を吐き、


「まあ、このままでも大丈夫だろう…いや、むしろ逆にこの方が良い可能性もあるな…?よし、アキラ!このまま城に行くぞ!」


「え?ええぇ!?でも自分濡れて…!?」


「問題ない!むしろその方が尽くし癖の誤爆を抑えられる事をわしは期待しておく!!」


「尽くし癖!?尽くし癖ってナニ!?ねぇ!ちょっ!?ガヴスグリンさぁん!!?」


腰の引けてしまった自分を、引き摺るように手を引きながら歩き出したガヴスグリンさんは、まるで戦場にでも向かうかのように鬼気迫っていて。


一体どんなヒトなんだよ、妖精女王って!!?と恐れおののく事しか出来ず。


出来る事なら、今すぐに逃げ出したかったのは、言うまでもないだろう…。

以上、『マグ・メグ・メル』でした!


今週、来週とテスト期間ですので、更新が遅れるかもしれません。

勉強するよりは小説を書いていたいのですがね…。

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