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宝石のゆりかご

「ん、ん〜ぅ…」


朝ベッドから起き上がる時と同じように、覚醒してすぐに伸びをすれば、その一瞬後にソレが出来る事はおかしいんじゃないかと思い出して、一気に目が覚めた。


よくある転生モノの話では、赤ん坊か幼児ぐらいの時に自我を取り戻すのが多いのに、大事な所だけは辛うじてシーツに隠されている自分の身体は、どう考えても思春期ほどの体格を持っていて。


シーツを体に巻きながらベッドから降りれば、ベッドだと思ったものは岩を切り出して彫刻を施したのだろう、石材製の寝台だった。


ぺたぺたと、素足でその場を探索するように歩いていけば、近くにある、これまた石材製の見事な彫刻で彩られたテーブルの上に、服らしきものが置いてあったので、誰の物かはわからないけれど、ありがたく着替えとして拝借する。


ボクサータイプのパンツに、タンクトップのような下着を身につけた所で、先程から感じていた違和感の正体がわかった…下品な話だが、この体には胸も竿も入れる場所も無いようだ。


異世界なら男でも女でもない性別があるのか、あるいはそもそもこの世界には性別という概念がないのか、理由はわからないけれど、自分としては、元々精神的にどちらとも言えない状態だったから、この感覚にさえ慣れてしまえば気にするほどの事でも無いような…?


原因はわかったので、そのまま気にする事なく服を着ていく。


テーブルの上に置いてあった白い服を広げると、ズボンは裾に少しだけ綺麗な刺繍が施されているシンプルなもので、上着はズボンと同じモチーフの刺繍がより広い範囲に施されているのがわかった。


アオザイに似た印象を受けるソレを着ると、不思議な事にぴったりと丁度いいサイズだったから、もしかすると元々自分のものなのかもしれない…。


服の下には、またもや同じ刺繍の入った布靴があって、それからほんのりと青い石が付いた、銀色のバングルが2つ。


それらも身につけた所で、髪を軽く手櫛で整える…太ももの半ばまで伸びたスーパーロングヘアには憧れた事もあったけど、実際になると結構頭が重くなるものなんだな…。


銀色に輝く髪の指通りは滑らかで、スルンと絡まる事なく抜けていったのには少し驚いたが、どうやらかなり頑固なストレートヘアらしく、くしゃっと握りこんでもすぐにストンと何事も無かったかのように真っ直ぐになってしまった。


この髪質なら、湿気で纏まらない、なんて事は無さそうだ…。


辺りを軽く見渡した所で、ほとんど明かりも無いのに、ある程度普通に見えている事もわかった。


明かりと言えるだろうモノは、土壁か岩壁かに生えているように見える水晶のような結晶体から発せられているモノだけで、その光は淡く、蝋燭や蛍火程度の明かりしか無いように思う。


それでもポツポツと街灯に照らされた、満月の夜の田舎道ぐらいには見えている気がする。


寝台のあった部屋は、どうやら扉で何処かに繋がっているらしく、一応部屋を見渡して何も忘れ物がない事を確認してから、その扉の向こうへと向かう。


「わぁ…!」


扉の向こうには、より多くの結晶体があって、更に湧き水が溜まっている泉のような場所と、湧き水を一度受けてから泉へと零す盆のようなものの中にも結晶体が生えていて、ひどく幻想的な景色だった。


透明度の高い湧き水なら飲んでも大丈夫かな、と水受けの盆に溜まっている水を掬って口に含めば、その水はほんのりと甘く、五臓六腑に染み渡るような、思わずため息が漏れてしまうような、とても美味しい水だった。


そのせいか、ついつい二度三度とおかわりをして喉を潤したけれど、仮にこの水が原因で具合を悪くしてしまっても、多分後悔はしないだろう。


それほど、その湧き水は美味しかったのだ。


喉が潤った所で、辺りを確認したけど、湧き水の泉と光る結晶体以外には特に何も無く、ぽっかりと結晶体が無い場所がふたつあっただけだった。


ひとつが先程自分がいた部屋へと繋がっているものだから、もうひとつはきっとまた別の部屋へと繋がっているのだろう。


そう思って、近付きその壁に手を置くと、


「え?」


ガコン!と音を立てて、壁が廻る。


想定外の事に前のめりに体勢を崩してしまったのを、咄嗟に前転するかのように受身を取る方向に持っていけたのは不幸中の幸いだったけど、無情にも今出てきた壁は閉じられてしまい。


「な…!?」


急いで確認しても、こちら側からはどうやったら開けられるのか想像も付かず、それでいてこちら側には明かりとなっていた光る結晶体も無いので、手触りだけでは仕掛けを見つける事は酷く難しく…。


軽く壁肌を二度三度探るように撫でた後、違和感が感じられなかったので、諦めて壁に背を向け、その先へと進む事にした。


暗い、洞窟のような道を、壁に手を添えながら歩いて行くと、不思議な事に、所々壁から音楽のようなものが聴こえてくる個所があって、異世界ではそんな事もあり得るんだなぁと、またひとつ、地球との差異を実感する。


途中何度か分かれ道もあったけど、その度に風が吹いてくる方へと進み、歩き続ける事どれほどだろうか…体感では通学の徒歩30分よりも長いような気がするけど、学校に行く時には音楽を聞きながら見知った道を歩くから、全く見知らぬ道を音楽も無く歩くのとでは体感も違うだろうし…。


それに、かなりの悪路を歩いているのにまだ疲れを感じて無いのだから、実際には体感よりもずっと短い時間なんだと思う。


洞窟の中を歩くなんてはじめてだから、きっと感覚が狂ってるんだな。


校外学習の山登りだって、5時間6時間は歩いた気がしたのに、実際には2時間ぐらいしか経ってなかったから、その時と同じで、今までに経験が無い事だから、実際以上に長い時間に感じているのかも知れない。


そう思いながらゆっくりと、しかし確実に足を進め続けた事は実を結び、道の先に光が見え…思わず足早になってしまう。


洞窟を出た所に広がっていたのは、見渡す限りの大森林だった。


日の高さは中天には僅かに届かず、そよそよと木の葉を揺らす風は、暖かな陽気に涼やかでいて爽やかな心地を運んでくる。


目を閉じれば数多の生き物たちが織りなす音が聴こえてきて、何処から確認すべきか悩ませてくれた。


これが、ツェルキエスタズ…女神ツェルキエスタが創造し、守護する世界…。


そこに一歩踏み出したのだという事を、ようやく実感した瞬間だった。

以上、第3話『宝石のゆりかご』でした!


アキラが元は男であったのか、女であったのかは特に決めていません。

肉体的には当然性別がありましたが、精神的には性自認が無いXジェンダー(いうならば、性別:自分)なので、男でも女でも無い、無性だと思われる体になってもあまり気にする事なく受け止めました。

こんな主人公でも良いと言ってくださる方は、どうぞこれからもお付き合いくださいませ。

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