表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

秘密を見ないで(シェーラの話1)



 空からドラゴンが地面へと近づいている。ドラゴンの大きさは人が一人二人乗れそうなくらい。ちょうどそのドラゴンの背中にはゴーグルをはめた一人の青年が乗っていた。

 草木がドラゴンが作る風に激しく波打ち、やがてまた穏やかな風景に戻った。

 地面に無事着地したドラゴンの背中から、青年が颯爽と降りてくる。

「ふぅ。やっと着いた。今回の配達は長かったなぁ」

 ゴーグルを額にずらし、道の向こうに見える懐かしき市門に囲まれた都市を見つめた。

「さぁて、こっからは歩いていかないとな~」

 都市に入るには、一度門をくぐらなければならない。ドラゴンは門に入ったら、青年が所属する運び屋ギルドに預ける予定だった。

 ドラゴンをよしよしと撫でくり回し、青年とドラゴンにニッコリ笑い会う。


 一通りじゃれ合いも終わると、青年の脳裏に少年がよぎる。

『グレアム! おかえり!!』

 彼、グレアムはアンドレアの養い子オルヴァが突進するように抱きつく姿が思い浮かんだ。


(オルヴァとも久々だなぁ!)


 グレアムはこの都市に滞在する際、幼なじみで靴屋を営むアンドレアの家に居候させてもらっている。


 やがて、グレアムはもう一人、アンドレアの姿も浮かんだ。

 アンドレアの方は少し片眉を上げると、ほんの少し頬をゆるませるに違いない。


「へへっ。さぁ、いっくぞ~~~!」

 グレアムは二人との再会が何よりも楽しみに、足取り軽く、住み慣れた都市の街を目指し始めた。



 ◇



「ゴホゴホっ」

 私は咳をして鼻をすすった。

 次の一瞬、寒気に襲われ、ぶるりと身を震わせる。

「あれれ、シェーラちゃん。もしかして風邪?」

 お隣さんで友達のオルヴァくんが、私を心配そうにうかがって言った。

「うん、そうみたい…」

 教室の自分の席に座ったまま、私はオルヴァくんの言葉に返事した。オルヴァは今、私の席と、目の前の席であるベルンの間の立っていた。


 教室では、オルヴァ、ベルン、私ことシェーラの順番に席が続いていた。その縁もあって、私はこの学校に転校してからオルヴァくんとベルンくんと仲良くさせて貰っている。


(最初は不安だったけど、お友達が出来て良かったなぁ)


 特にオルヴァくんは登下校も一緒のことが多く、私にとって一番の友達だ。

 だけど、オルヴァくんには私よりも一番な友達がいる。それがベルンくん。


 ちらりとベルンの方を見ると、彼は一人黙々と読書をしていた。集中しているみたいなので、邪魔は出来ないと、私はすぐに視線をずらした。

 けれど、オルヴァはベルンの背中に向かって話しかける。

「ねぇ。ベルン~。シェーラちゃん風邪だって~」

「ふーん」とベルンが気のない返事する。

 オルヴァはベルンが本を読んでいようと気にすることなく話しかけている。そんな遠慮がない姿を見ると、私はちょっぴり寂しい気持ちになった。


(いいなぁ……)


 私は、すっかり打ち解けあった友達がいたことがない。いつもどこか一線を引いてしまう。


 そんなことを考えてると「ほら」というベルンの声が聞こえてきた。

「のど飴、ちょうど持ってたからやる」

 とベルンは私に飴を差し出した。

「あ、ありがとう……」

 私は少しびっくりして飴を受け取る。なんとなくベルンが飴を持っているイメージがなく、意外だった。

「ベルン。そんな気のきいたことしてどうしたの。のど飴なんてもってるなんて!」

 とオルヴァが大げさに言うと、ベルンはこちら一瞥し、

「はぁ……。俺ものどの調子が悪いんだよ。昨日の雨のせいだな」

 と言った。


 私は相づちを打って彼に同意した。私も風邪を引いたのは、昨日帰りに突然雨が降ったからだ。

 最近、だんだんと冬に近づき、肌寒い。急いで体を暖めたものの、今回は体に影響が出てしまったのだった。

 今日の教室では、私と同じように体調を崩した子たちがちらほらいた。


「ええ~~~。僕も濡れちゃったけど、風邪ひかなかったけどなぁ」

 とオルヴァくんが言うと、ベルンはぼそりと呟く。「バカは風邪ひかないって言うしな」

 私は思わず笑ってしまいそうになり、すぐに口元を押さえた。

 オルヴァをバカだと思ってはいないけれど、ベルンの発言はタイミングが良すぎたのだ。


「ベルン? 今、聞き捨てならないことを言ったよねぇ?」

 呟きをしっかり聞き取ったオルヴァがじろりとベルンを見下ろす。

「さぁ? 空耳じゃねーの」

 オルヴァが睨む中、ベルンは涼しい顔で鼻をならして、読書を再開する。

 私はそんな二人のやり取りにクスリと笑った。



 授業が始まると、私の頭はだんだんとぼんやりしてきて、体が辛くなってきた。

(どうしよ……なんか、体おかしいかも…………)

 私は必死にノートを取る。この間のテストの点数は良くなかったし、しっかり日々勉強したいと思っていたが、体が思うようにいかなかった。

 とにかく早く時間が流れて休み時間を待ち望んでいた。

 やっとチャイムがなったとき、私はほっと安堵のため息をついた。これで楽な姿勢がとれる。

 授業を終えるとオルヴァが私のもとに話しかけに来てくれたのだが、彼は私を見てすぐ眉尻を落とした。

「シェーラちゃん、大丈夫?」とオルヴァ。

「え?」と私。

「なんだか顔色が……。。もしかして風邪悪化してる?」

「……………………うん。そうかも……」と私はしばらく考えて頷いた。確かに体が変だ。

「ええ! あ、もしかして熱とかある?」

 とオルヴァはひどく心配そうにして、私の額に手をあて、自分の額と熱を比べた。

 

(えっ……)


 私は突然のことに体が固まる。今までそこそこ距離は近かったものの、こうして体温をはっきり感じたことは無かった。

 私はなんだか恥ずかしくなって顔が赤くなっていった。

 オルヴァの手のひらから伝わる熱は熱い。それに他人に触れられているというのに、安心感があって気持ち良い。なんでなんだろう……?

「シェーラちゃん! 熱ある! 保健室すぐ行かないと!」

 と体温をはかるため顔を伏せ目を瞑っていたオルヴァがバッと顔を上げ、私たちは視線を交わした。

 すると、オルヴァも普段よりずっと近い距離にようやく気づいたのか、動きが静止し、茹でタコのようにみるみる赤面し、どか~んと頭上に湯気が噴火した。

 オルヴァは慌てて両手を天井に上げ、一、二歩後ずさる。

「ご、ごめん。ごめん」とオルヴァがわたわたとなぜか謝ってくる。

「うぇ。え、そんな謝るようなことしてないよ。オルヴァくん」と私は目をぐるぐるさせながら答える。


 そんな私とオルヴァのやり取りをベルンは一人冷めた様子で見ていた。やがて、彼は深々とため息をついてから口を開いた。

「オルヴァ。保健室つれてってやれ。もうすぐ次のチャイムが鳴るから、先生には俺が事情を言っておく」

「ベッベルンッ」とオルヴァがびっくりする。

「ほら行ってこい」とベルン。

 淡々と指示をするベルンに促され、私はオルヴァと一緒に保健室に向かうことになった。


 廊下の歩いてる間、さっきのやり取りもあってギクシャクしたけれど、話しているだんだんお互いいつもの調子に戻っていく。

 保健室にたどり着くと、先生の姿はどこにも無かった。保健室の先生は今、どこかに出かけているようだ。

 仕方がないので、無断でベッドに寝かせてもらうことにした。

「ありがとうオルヴァくん。私、一人で大丈夫」

「そお? じゃあ、僕、行くね?」

 心配そうな表情をしているオルヴァと別れ、一人になった私は、ベッドへともぐり込み、すやすやと夢の中へと沈んでいった。




 どのくらい時間が経ったのだろう。私は夢から目を覚まし、ゆっくりと瞼をあける。

 一瞬、ここはどこだろうと思ったが、頭がすっきりしてくると、ここが保健室であることを思い出した。

 大きな欠伸をこぼし、目をこする。眠ったおかげか、少し体調が回復した気がする。

 そんなことを考えながら起きあがると、ひらひらと自分の手元に白い羽根が舞い降りてきて、ぎょっとする。羽根を手に取り、しばらく唖然とし、ハッと自分の背中に視線を向けた。


(う、うそぉっ!?)


 私の背中に大きな片翼の翼が生えている。

 それは私にとって辛いことを思い出させるものだった。


(油断して魔法が解けちゃったの!? 早くもとに戻さなきゃっ)


 私は翼を消すため、祈りを捧げる。この翼は生まれ持って授かったもので、翼の生えた人間は”翼人”と呼ばれる。ほとんどの”翼人”は地上ではなく、上空の雲の中にある島で暮らしている。

 かつて私もその、上空の島で暮らしていた。

 だが、今は地上だ。地上の人間は翼人を珍しがり、狩って売買することもあるという。その危険性から私は常に魔法を施し、翼を消していた。

「うう~~~~。あれ? あれ??」

 私は涙目になる。どうしても翼を消すことが出来ない。

 こんなの誰かに見られたら! 私は急激に不安に襲われた。



 そのとき保健室のドアが開くのが分かった。

「あれ、ベッドのカーテンが引いてる……」

 と保健室の男の先生が呟く声が聞こえてきた。

「誰か来てるのか~?」

 先生が少しずつこちらに近づいてくる。

 私はどうしていいか分からなくて体が凍った。このままじゃこの姿を見られてしまう――――!

 声を出すことも出来ず、ぎゅっと目を瞑った刹那、また保健室が開く音が響いた。

「先生」と誰かが入ってくる。

「ん? どうした?」

「足が……」

「あ~。こんなに血が出ちゃって……」

 ガソゴソと先生は作業を始めている。どうやらほかの生徒の怪我を見ているようだ。これでしばらく時間は稼げそうだ。私は少しほっとする。緊張がゆるんだおかげか、再び祈りを捧げると、背中の翼は消し去ることが出来た。

 その後、保険の先生に事情を話すと、私は早退することとなった。

 荷物を取りに教室に戻ったとき、移動教室だったのか、誰もいなかった。オルヴァとベルンに挨拶できないのは残念と思いつつ、私は岐路についたのだった。



 ◇



 次の日、私は学校を休んだ。

 一日、自室のベッドに眠っていると、体調はすっかり良くなってきた。

 学校の授業が終わるころには、私は元の調子を取り戻していた。

 今日は家族以外誰とも会わず、一日を終えるかと思ったら、午後、学校を終えたオルヴァがウチにやってきた。

 オルヴァは今日の学校で出た課題を持ってきてくれたのだ。

 父も母も仕事をしていたため、玄関に出たのは私だった。

 玄関の戸を開けると、学校帰りのオルヴァが立っていた。

「オルヴァくん!」

「シェーラちゃん! もう体は大丈夫?」

「うん。明日は学校行けそう」

「そっか~」

 私たちはにこりと笑いあう。

 それからオルヴァから課題をもらい、少しだけ立ち話を楽しんだ。

「実はね……うちにグレアムが帰ってきたんだ!」とオルヴァが元気いっぱいに言う。

「グレアム? ってオルヴァくんが前に言ってた同居人の?」

「うん! そう! 配達の仕事から帰ってきたの!」


(オルヴァくん。すっごく嬉しそう……!)


 彼にとってグレアムとは家族みたいなものなのだろう。

 嬉しそうな彼の姿に私は自然と頬が綻んだ。


 そろそろ立ち話も終えて、オルヴァが「じゃあまた明日」と言ったそのとき、私は鼻をひくひくとさせた。

 そして考える間もなく次の瞬間、私は口元を多い盛大に「くしゅんっ!」とくしゃみをしていた。


 同時にバッと背中から何かが広がる音がした。


「え……?」とオルヴァの声がする。


 私はハッとして顔を上げる。

 すると、目を丸くして突っ立つオルヴァと目があった。

 私たちの間に、ひらひらと白い羽根が舞い落ちる。


(あ……)


 私はサーと血の気がひいて、みるみる青ざめていく。

 なんでよりにもよって今なのだ。体調が回復して油断していた。昨日、保健室でも不意打ちで翼が出ていたというのに!


「いっ……いやぁっ」

 気がつくと私はそう言って、二階の自分の自室へと駆け込んでいた。閉めた自分の部屋のドアにもたれ掛かり、ずるずると床に尻餅をつく。


(どうして……よりにもよって…………オルヴァくんに)


 私は背中の翼を見た。

 片翼の翼。

 醜い醜い私の姿をよりにもよって、オルヴァくんに………………!

 

「うっううう~~~~っ」

 床にうずくまり、嗚咽を漏らす。


 私はポロポロと涙が止めどなく流れた。

 悲しい。悲しい。悲しい。

 一番の友達に見られたくない姿を見られてしまった。

 押さえきれない心の痛みに私はどうしようもできなくて、激しい感情の渦に、押し流されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ