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試験



 自由時間、僕は教室の自分の席で頭を抱えていた。

(うう~~~やばい~~~~~~っ)

 僕の手元にはテスト用紙があった。

 テスト期間があけて返ってきた点数の悪さに僕は、未来を悲観した。

(こんな点数見せたら、アンドレアに叱られる~~~~~っ)


 しばらくは隠せばいい。だけど、いつかはバレてしまう。

 アンドレアはこういうことはキチッとやらないと、すっごく怖いんだ。


 だったらきちんと勉強したらいいって?


「それが僕には難しいんだってば~~~~~~っ」

 と言って机に突っ伏すと、ちょうど真後ろの席の友人ベルンがあきれた様子で声をかけてきた。


「なに大きな声で独り言いってるんだよ。うるさいぞ、オルヴァ」とベルンは淡々と言う。

「ううっ。だって、だって、だって~~~~~」

 僕は涙まじりにベルンの方を振り返る。

 しかし、ベルンを見たとたん、彼は自分のような悩みとは無縁だと気づき、がくりとうな垂れた。ベルンは学年で一、二を争うほど頭が良いのだ。なんで勉強ができないのかがわからないようなやつなのである。



「ううっ。ベルンには僕の気持ちなんか分からないさ」と僕。

「は?」

 ベルンは訳も分からず、首を傾げた。

 


 僕は自分の手元の答案用紙に視線を戻した。

 再びため息をつくと、僕は答案用紙を机に仕舞おうとしたが、滑ってひらひらと床にゆっくりと落ちてしまった。

 慌てて追いかけるものの、残念なことに僕が拾う前に、別の人間が拾ってしまった。


「え……。十点とか、ダサッ」

 辛辣な女子の声に、心臓に冷たいナイフを突き刺されたかのような痛みに襲われた。僕は恐る恐る声を主に視線を向ける。

(ヒィッ)

 それは同じ教室で学ぶクラスメートの女の子アルマであった。

 アルマは占いが得意で女子に人気がある。しかし、僕にとっては大の苦手な女子であった。


「ア、アルマちゃん!」

 とアルマと立ち話をしていたらしいシェーラが、僕をちらちら見ながら、たしなめる。シェーラが僕に気を使っているのが痛いほど分かる。


(シェ…シェーラちゃん!!)


 シェーラの存在に僕の顔はサーッと青ざめた。


(なってこった、よりにもよってシェーラちゃんにテストの点数を~~~~~~~~!?)


 恥ずかしい点数を見られてしまい、僕は精気をなくして頭が真っ白になった。

 僕が意識が遠のいているそんな中、ベルンは何かカチンときたのか、椅子から立ち上がる。


「お前、勝手に人の答案見といて、偉そうだな」とベルンがアルマを見て発言した。どうやらベルンは僕をかばってくれてるらしい。

「あ? なによ。答案用紙の方から私の方にきたの。間違えないでくれる?」とアルマは応戦する。

「人の気持ちぐらい分からないのか?」

「なにそれ。あんたにだけは言われたくないんだけど」

 バチバチとやり合うベルンとアルマに、僕はハッと意識を取り戻し、二人の中を慌てて取り持つ。シェーラもまた僕と一緒に場を和ませそうとしていた。

 どうやらベルンとアルマの相性は最悪のようだ。


 やがてアルマの方から「ふんっ。気分が悪いわ」と自分の席へと戻っていった。


 ふぅ……と僕とシェーラは一息をつく。

 ベルンはまだ尾を引いているのか、むすっとしていた。

「なんか、あいつ生意気」とベルン。


(向こうもそう思ってると思うけど……)

 とオルヴァは思ったが、それ口には出さず、なんだかんだ受け取った答案用紙をそそくさと机にしまった。

「ベルン……。ありがと」

 とオルヴァがそっと白い歯を見せると、ベルンは鼻をならしてそっぽをむいた。



 ◇



 学校からの帰り道、オルヴァは橋の上から川を眺めていた。欄干にもたれ掛かり、ため息をつく。ベルンは一人図書館に寄ると去っていき、シェーラは放課後の掃除当番で帰る時間が違ったため、今日の下校は一人きり。

 シェーラを待つことだって出来たが、今日はそんな気分になれなかった。


 シェーラにテストの点数を見られたこと、アルマに「ダサッ」と言われたこと、これからアンドレアに勉強しろと叱られること、この三つがグルグルと頭を駆けめぐり、深い深いため息がついたのだった。


「あ~あ。テストなんて無くなっちゃえばいいのに……」

 と呟いたそのとき、ぴんっ! とひらめいた。


 僕はガソゴソと鞄から答案用紙を取り出した。


「よ~し。これを飛ばして無くしちゃえばいいんだ。うんうん。風に飛ばされちゃったことにしちゃえば、証拠隠滅!」

 僕は大きく腕を振り、川に向かって答案用紙を飛ばした――――……のだが、すぐにくるりと(ひるがえ)り、僕の顔面にびたっと張り付いた。


 紙を取り、僕はそれをじっと見つめる。


 ふと脳裏のベルンの姿が思い浮かぶ。

『現実と向き合えってことだろ』と想像のベルンが僕に言う。


「…………はぁ」


 僕は答案用紙を鞄に仕舞い、とぼとぼと帰路につく。

 その夜、養い親であるアンドレアにテストを見せると、想像通り、こっぴどく叱られたのだった。


 ◇



 昨日のことで朝から気分はブルーである。

 学校なんて無くなればいい。だけど、学校にはベルンがいるし、何よりシェーラちゃんに会える。

 そう思うものの、いまいち気力なく玄関を出た。

 少し歩くと、お隣さんでもあるシェーラとばったり出くわした。

「おはよ。オルヴァくん」

 シェーラが微笑を浮かべ、挨拶してくれた。

 その笑顔に僕の心は浄化されていく。

「おはよう。シェーラちゃん……」

 彼女の笑顔が心底染みる。僕は少しだけ元気になってきたような気がした。

 しばらく二人で歩いていると、シェーラが話を振ってくる。

「あのね。オルヴァくん。お友達って……」

 とまで言って、シェーラはもじもじ恥ずかしそうに視線を地面に向けた。

「ん?」と僕は首を傾げる。

「えっと、その、ね。お父さんとお母さんがね。お友達と試験前に一緒に勉強したりしたって言っててね」

「う、うん……」と僕は相づちをうつ。

「だから、あのね。私もお勉強、苦手だから、次の試験のときは、一緒に勉強しない?」

「え……」と僕は瞼を大きく見開いた。


 シェーラが首を傾げる。「私となんて、いや、かな?」


(はぁ~~~~~~~~~~~!!!!! そんなわけないじゃん!!!!!!!!!)


 僕はすぐに頭を激しく上下に振って、同意した。


「ありがとう! シェーラちゃん! ぜひぜひ次はよろしくお願いします!」

「ホント! 良かった~~~。……実を言うとね、私もあんまり点数が良くないの。……前に住んでたところより、こっちの勉強は先をやってて、追いつけてなくて…………」

「そうなの?」と僕は瞼をパチクリする。

「うん。だからアルマちゃんが”ダサッ”って言ったとき、私もちょっぴり傷ついてたんだ。あ、これ誰にも内緒だよ」

「言わない言わない。絶対言わない」

 僕はニカッと笑い、前を向く。


 僕はシェーラちゃんとの試験勉強を想像し、自然と顔がゆるむ。

 試験なんて嫌だと思っていたけれど、これならむしろ楽しみになっちゃう!


 シェーラちゃんのおかげで僕のブルーな気分はすっかりどこかに吹き飛んでいた。



 のだが、次の試験前、試験勉強にベルンとアルマも参加することとなり、地獄の合宿が待ち受けているのだが、それはまた別のお話。

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