休憩
自室の机に広げた宿題を前にして、僕は面倒くさくて、深いため息をついていた。
「あ~あ。勉強なんて無くなれば良いのに……」
そんなことを呟き、机に額をぶつける。
(ベルンだったら、こんなのちゃちゃ~っと解けちゃうんだろうな。くそ~)
そもそも頭の出来が違うのだ。こればっかりは努力では埋まらない気がする。
しかし、かといって僕自身、勉強が好きじゃないのだから、勉強が出来なくたって、別にどうだって良いはずだ。でも待てよ。勉強が出来たら、勉強を好きになるのかもしれない!
「ということは! 僕が勉強が好きじゃないのは、勉強が出来ないからなんだ!」
そりゃあ宿題進まないよね!! と納得して満面の笑みを浮かべ、一気にがくっとうなだれた。
再び深いため息をついたところで、ひとまず休憩を入れようと、僕は二階の自室を飛び出した。一階のリビングに移動すると、ちょうどアンドレアがコーヒーをカップに入れようとしていた。
「ね~ね~。アンドレア。僕も飲んで良い?」
「ん? いいけど。苦いぞ?」
「ブラックでは飲まないよ。え~~と、ミルクと砂糖はっと」
と僕が台所に向かおうとしていると、アンドレアに引き留められる。
「砂糖はあるけど、ミルクはないぞ」
「え!! ミ、ミルクない!?」
僕はアンドレアの発言に振りかぶり、がくりと両肩を落とした。
ブラックコーヒーは苦手だけど、ミルクと砂糖を入れたコーヒーは結構好きなのだ。
「はぁ~。じゃあお茶にするかぁ」
と僕はコーヒーを諦めることにした。
お茶を入れて戻ってくると、アンドレアはまったりリビングのテーブルでコーヒーをすすっている。
僕はアンドレアの向かい側に座るため回り込もうとしたそのとき、凄まじい唸り声が聞こえてきた。
僕はビックリして声のする方に視線を向ける。お茶の入ったカップを無意識にテーブルに置いて、窓へと近づく。
「猫か……」とアンドレアが座ったまま窓の方を見てぽつりと呟く。
どうやら外で猫が二匹、縄張り争いで、威嚇しあっているらしい。
激しい声につられ、僕は窓から外を覗くが、猫たちの姿は陰に隠れ、どこにも見えない。
大きな鳴き声、喧嘩で争う音が、辺りに響きわたる。
なかなかの激しい戦いだ…。
やがて決着がついたのか、鳴き声は聞こえなくなった。
「すごかったね…」
と僕は振り返りアンドレアの元へと戻っていく。
僕はまだ猫が気にかかっていたのか窓から視線をそらさず、手探りでカップを掴むと、一口ごくりと飲んだ。
とたん口の中に苦い酸味のきいたコーヒーの味が広がり、カッと目を見開いた。
「……っ!?」
手元のカップを見ると、アンドレアが飲んでいたコーヒーではないか!
「にっっが~~~~~」
僕は盛大に顔をゆがませ、ぺっぺっと舌を出す。
そんな僕を見てアンドレアは瞼を瞬かせ、「何やってんだよ」とクスリと笑った。
ちゃんと見ていなかったので、カップを間違えてしまったらしい。僕はすぐに自分が入れたお茶の方を掴むと、それをゴクゴクと飲んで、苦みを消した。
アンドレアはそんな僕をやれやれと肩を竦め、またコーヒーを飲む。
そして僕は盛大に溜息をついた。
一息ついて宿題に取りかかろうと思っていたが、なんだが今日は調子が良くない。お茶と間違えてブラックコーヒーを飲んでしまうとは……不覚!
もしかしたら今は宿題をやるべきときではないのかもしれない。僕はそう思って、いったん宿題を後回しにする事に決めた。
(よし。夕飯のあとにやろ!)
しかし、夕食後は眠くなり、結局宿題をやり忘れることになるのだが、それは今のところは置いておこう。
完全に休憩モードになった僕は思ったことを自然と口に出していた。「今はどんな猫がうちを縄張りにしているんだろう?」
「ああ。前はおっきなボス猫がいたけど、最近、見かけねーな」とアンドレア。
「ねぇ~。猫も大変だなぁ」
そんなことを話しながら、僕らの時間はゆっくりに流れるのだった。




