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展望台




 学校が終わると、僕はベルンとシェーラの二人に話しかけた。

「ねぇねぇ。今日、どっか寄り道しようよ!」

 僕の提案に二人は了承し、僕らは学校帰り、家に帰る前にちょっぴりどこかに行くことになった。

 さて、どこに行こうか。僕らは歩きながら適当に話し合い、シェーラの「クレープ食べたい」という意見が採用されたのだった。


 公園を抜けて歩いていき、小さな広場に出ると、クレープ屋さんの屋台を見つけた。


「ここ? シェーラちゃんが気になってたクレープ屋さん」

 と僕は屋台を指さす。

 シェーラは頷き、「この間見つけて……。でも一人で買い食いは苦手で……」と照れくさそうに言った。

 屋台にはお兄さんが一人、暇そうに立っている。人通りはほとんどないため、お客さんも一人もいない状態だ。

 これならすぐに作って食べられる。

 僕らは何の気兼ねもなく、クレープ屋さんに近づいて、メニューを眺める。

 種類はなかなか沢山ある。どれを食べようか……。

「おかず系かスイーツか……。僕はやっぱりスイーツかなぁ」

 と僕は値段が割高でないクリームたっぷりのクレープを選ぶ。

 みんな、午後だからか、シェーラもベルンも甘い方を選択していた。

 クレープ屋さんに三人分を頼み、店の端でワクワクしながら待つ。さっきまで欠伸をこぼして暇をつぶしていた店のお兄さんは注文が入るとテキパキと作り、あっという間に三人分のクレープが出来上がった。

 僕らを目をキラキラさせて、それを受け取り、近くのベンチへと向かう。

 シェーラ、僕、ベルンの順番で、同じベンチに座り、クレープにかじり付いた。

「ん~~~~! おいしいね」と僕は頬を紅潮させる。

「本当だね」とシェーラも嬉しそうに同意する。

 ベルンはそんな二人を横目に見て無言だったが、表情は柔らかい。


「シェーラちゃんが教えてくれなかったら、クレープ屋さん知らなかったなぁ」と僕。

「私もオルヴァくんとベルンくんがいなかったら勇気なくて買えなかったよ」とシェーラ。

 ベルンは黙々とクレープの味を楽しんでいる。


 クレープを食べ終わると、僕らはベンチから立ち、歩き出した。

「おととい夜にお客さんが来たんだ。旅の途中でお金をスられたらしくて困ってて……」

 と僕が昨日の朝食を共にしたバートと、アンドレアとグレアムの知り合いらしいディノの二人組の旅人の話をしながら、岐路につく。

 そのとき、僕は不意に横から風を感じ、立ち止まった。

 急に足を止めた僕に、ベルンとシェーラが振り返り、僕の名前を呼ぶ。

 僕は風を吹き抜けてきた細い路地を見つめ、指をさした。

「そういえばこの路地、通ったことないんだよね……」

 という僕の言葉に二人はきょとんとして、薄暗い路地を見つめる。住宅に挟まれた細道は、一体どこまで続いているのか、ここからは見えない。

「ちょっと行ってみない?」

 僕が二人に提案してみると、ベルンは片眉を上げ「どうせただの道だろ」と言った。

「家と家の隙間道ってだけ。道の先は何にもないに決まってる。ほら行くぞ」

 とベルンは路地に興味がないのか、先に歩き出す。

 しかし、僕は好奇心を刺激され、もうこの路地を通ることに決めていた。

「いいじゃん別に。何もなくたってさ」

 僕は瞳を輝かせ、勝手に進路を路地へと変更する。

「オルヴァくん? そっちに行くの??」と様子を見ていたシェーラが慌てて後ろから追いかけてくる。

 ベルンは立ち止まって僕の背中を、眉間にシワを寄せて見つめていたが、やがて深々と嘆息して、僕らを追いかけて路地へと入った。

 路地は家と家の裏口同士になっているものの、出入り口としてあまり利用していないのか、こちらの通路で人とすれ違うことは無かった。しかし、建物の中からは人々の生活音が聞こえてきている。

 道はまっすぐだが、坂なため階段になっている。


 途中、猫が階段の真ん中で堂々とお昼寝をしており、僕ら三人は立ち止まって、猫を眺めた。

「猫かわいいね」とシェーラが微笑む。

「うん」と僕もシェーラに同意する。

「……」ベルンは黙って猫を観察している。無表情だが、たぶん彼も猫が可愛くて目が離せなくなっているに違いない。


 少しして僕らはまた歩き出す。

 意外にも路地は長い。そのせいで僕は歩きながら、だんだん不安になってきた。初めての道というのは、土地勘があっても、なんだか心許ないものだ。

 そろそろ引き返した方がいいかなぁ、と考え始めた頃、路地を抜け、道が開けた。

(ここが路地の出口……)

 路地の先もまた、住宅街だったが、気になる建物を一つ見つけ、まじまじと見つめる。


 僕が見ていたのは五階建ての吹き抜けの展望台らしきもの。壁はなく、ほぼ骨組みだけで構成されている。

 この建物は遠目で見たとき、見慣れた景色としか思わなくて、特に気にしたことが無かったが、そういえば何故こんな住宅街の間に謎の五階建ての展望台があるのだろうか……。

「僕ここ初めて来た。ベルン、あの展望台、来たことある?」と僕。

「ない」とベルンは展望台を見上げて言う。

「シェーラちゃんは?」

 と僕はシェーラにも聞くと、シェーラはこんな建物の存在自体知らなかったと言った。

「せっかくだし登ってみるか…」

 と僕は展望台に向かう。ベルンもシェーラも異論はないのか、僕の後ろについてきた。


 展望台の階段を上がる。二階、三階、四階とそれぞれ妙に広い空間があり、なんだか不思議だ。そして最上階に到着する。

「わぁ……」と僕は瞳を輝かせる。

 周りに展望台より高い建物がないため、一望できて眺めはとても素晴らしい。

 思ってたより良い風景に僕らはしばらく目が釘付けになった。

 だがふと気になって、僕はベルンに尋ねていた。

「ねぇベルン。この展望台ってなに?」

「……さぁ。あるのが当たり前すぎて、これが何なのか考えたことも無かった」

「ベルンも? 僕もだよ」

 僕とベルンは腕を組み、互いに唸って考える。

 展望台だと言っているものの、そもそも展望台にしては広すぎるのではないか。何か公共の用途かとも考えるが、それにしては微妙な場所にあるような……。

「なんか意味があるんだよねぇ。これ」と僕は呟く。

 ベルンは「う~~~ん?」と眉間にシワを寄せた。



 シェーラは一人僕らから離れて、遠くの空を見渡している。上空には鳥が羽ばたき、通り過ぎる。シェーラはその鳥を追いかけるように手を伸ばし、ゆっくり歩き出した。

 彼女の長い髪が風の舞い波打つ。シェーラの澄んだ瞳には今、空と鳥しか映っていない。吸い込まれるように一歩一歩足を踏み出す。


 そのとき、僕はシェーラに気づき、ぎょっとした。

「シェーラちゃん! あぶないよ!!」

 僕は叫んだ。彼女は展望台の端に立っているではないか。手すりがないため、このまま進めば、真っ逆様だ。

 シェーラは僕の声でハッとして、立ち止まり、後ずさった。

 僕とベルンがシェーラのもとへ駆け寄る。

「ぼんやりしてんじゃねーよ」とベルンは小言を言い、僕は「あぶなかったね」と心配し、シェーラは「ごめんなさい」と身を縮ませる。

 シェーラは自分の背中を覗き、

「そうだった……。私……今は…………」

 彼女は寂しげに目を伏せ、また空を見る。そして、まぶしそうに羽ばたく鳥を見つめ、髪をそっと耳にかけた。




 ◇




 僕は夕飯を食べながら、今日の出来事をアンドレアに語った。

「アンドレアはあの展望台がなんなのか知ってる?」

「ああ。あれか。さぁ、分からん。俺がこの街に来るよりも前に建ってるみたいだし」

「え~~~。アンドレアも知らないかぁ」

「ま、必要かどうかよくわからんものなんて、街に一個はあるものさ」

「ふ~~~ん。そっかぁ」

 僕はアンドレアが作ってくれたご飯を食べながら、今日のことを振り返る。三人で路地を抜けると謎の展望台にたどり着いた。思い返すとこれはちょっとした冒険だったのではないか。


(クレープみんなで食べれたし……。シェーラちゃんもすっかり僕らに馴染んできたし……)


 寄り道して正解だったな。

 僕は自然と頬をゆるませ、思い出し笑いをするのだった。




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