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占い




 窓がガタガタ揺れている。今日は風が一段と強い。

 教室の窓を見ると、天気はすごく良いものの、空にある雲の流れが早かった。

 強風のお陰で、学校のついたとき、みんな髪はボサボサだった。ついでに朝に教室にやってきた先生もボサボサだった。

 休み時間、僕の後ろの席のベルンは、今日も読書をしている。

「ベルン。僕、なんとかあの一巻、読み終わったよ。今日、図書館行って二巻借りなきゃ。ベルンも一緒に図書館行く?」

 と僕はベルンに話しかける。

「悪い。今日は早く帰らないと。母さん忙しいらしくて、弟の面倒をみないといけないんだ」

 ベルンは本から一瞬目を離して言う。

「そっか。ルイスは可愛いから、一人にしたら誘拐されちゃうかもしれないもんね」

「おいおい、そんな誘拐されるわけないだろ。……と言いたいところだが、子供の行方不明事件は意外とあるんだよな……」

「え! じょ、冗談のつもりだったんだけど!」

「この街にも闇は潜んでいるからな……」

「ええええ!!!」

 なにそれ怖い! と僕は青ざめ、自分をぎゅっと抱きしめる。

 ベルンは冗談でしたなんて言うこともなく、そのまままた読書に勤しむ。

 彼のその態度で、誘拐があることが事実であることを再認識し、僕はぞっとした。


(そうだよね。いくら僕の周りが平和といっても、いつまでも平和ってわけじゃないかもしれないもんね……)


 やっぱり子供は家族のもとにいなきゃ。ベルンの弟ルイスが、お父さんお母さんベルンと離ればなれなんて嫌だもん。


 と考えてから、ふと気づく。


(でも、僕ってお父さんもお母さんもいないけど、アンドレアとグレアムがいるから寂しくないなぁ)


 もし家族として自分の家を当てはめるとしたら、アンドレアとグレアム、どちらが父で母なのか……。


「う~~~ん。やっぱりアンドレアがお父さん? いやでもなぁお母さんかなぁ?」

「何を言っているんだ、お前は…」とベルンは僕の呟きで読書に集中出来ないのか、口を開く。

「考えてたんだ。アンドレアとグレアム、どっちがお父さんかお母さんか」

「なんだそれ」

「どっちなんだろう……」

 腕を組み、頭を悩ませていると、ベルンは小さく嘆息した。

 そしてベルンはあきれ混じりに、

「別にどっちだっていいだろ。お前んとこは、それで家族なんだからさ」

 ベルンの言葉に僕はしばらく瞼を瞬かせ、胸に手をあて、首を傾げた。


(あれれ。なんか胸にジーンときた)


 なんだか目頭が熱い。自分は思ってたより周りと違い、親がいないことを気にしてたのか、という自覚と、僕の家族を肯定してもらえた嬉しさが交差して、涙が出てきそうになっている。


 だが、ぼくはぐっと泣きそうになるのを我慢した。

「ベルン。今なんか、僕、お前を抱きしめたい!」と熱く両手を広げる。

「やめろ、気持ち悪い」

 ベルンは本当に嫌そうに顔を歪ませた。


 そのとき「きゃ~~すご~~い! 当たってるぅ~~~!!」

 という女の子たちの歓声が聞こえてきた。

 僕らはその声につられ、視線を向けると、女子たちが沢山、一つの席に集まっていた。その中にはシェーラも含まれていた。

「なんだろね。あれ」と僕。

「さぁ?」とアンドレア。

 二人で首を傾げていると、女の子たちがシェーラの名前を呼び始めた。

「次はシェーラちゃんだね。シェーラちゃん、シェーラちゃん。何を占ってもらう?」

 とおしゃべりな同級生の女の子が、集団をしきり、シェーラを椅子に座らせた。

 シェーラは皆の輪に入ってみたものの、いまいち集団行動が苦手らしく、困惑した様子で、何を言うか迷っている。だが、彼女は必死に頭を巡らし、「ええと……。じゃあ、今日の運勢を」などと絞り出していた。

 そして、集団は静まり、カードを切る音が響いてくる。



 僕と一緒に集団を観察していたベルンは、頬杖をつき、

「占いか……。トランプ占いかタロット占いでもしてるんだな。あれは」

「へぇ~。占いなんてやったことないなぁ」と僕は返す。

「そういや俺の名前って占い師が決めたんだって」

「そうなの?」

「母さんは占い結構信じてんだよな。長年通ってるよ」

「ふ~~~ん」


 そんなとりとめのない話をしていると、シェーラが集団から離脱し、こちらに戻ってきた。

 ベルンの後ろの席にシェーラは座り、小さく嘆息する。

 僕は席を立って、シェーラちゃんに近づき、

「シェーラちゃん。さっき占い見てもらってたの?」

 と聞いてみた。

 すると、シェーラはコクリと頷いた。

「うん。アルマちゃんがね、タロットカードで占いできるって盛り上がってて」

「そうなんだ! 僕も占ってもらおっかなぁ」と僕は言ってみたものの、さすがに女の子の集団に入れる気がしなかった。

「私、今日の運勢見てもらったんだけど、今日は最悪なんだって。当たらないといいなぁ…」

「そうなんだ。でも、当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦って言うし」

「でもアルマちゃんの占いは、結構当たるんだって……」

「……」

 シェーラは少し元気が無くなってしまっていた。たかが占いだが、いざ言われるとなんだか気にしなってしまうものなんだろう。


 僕はそんな彼女をどうにかしたくて、別の話題を振ってみることにした。

「ねね。シェーラちゃん。僕、今日、帰りに図書館に寄っていこうと思うんだけど、シェーラちゃんも一緒にいかない?」

「図書館……? 学校のじゃなくて?」

「うん。街の図書館だよ。街で一番大きな図書館」

「あ、そういえばお母さんが行ったって言ってた。図書館かぁ。まだ行ったことないなぁ」

「じゃあ、行こうよシェーラちゃん。いっぱい本があるよ」

「本かー……」

 とシェーラは図書館を想像し、だんだんいつものシェーラに戻ってきた。

「うん。行く。オルヴァくん、連れてってくれる?」

「もっちろん!」

 僕が二カッと笑うと、シェーラもつられて微笑んだ。


 それから僕は学校が終わるまで、落ち着かなかった。シェーラとはお隣同士なこともあって登下校は一緒になることも多い。二人っきりになることもたびたびあるものの、目的の先には、誰かが合流する。

 だけど、今回の目的は図書館に二人で行くこと。

 誰かが途中で間に入ったりしないのだ!


(これって……図書館デート!? な~~~んちゃって!!)


 僕は一人浮かれていた。

 シェーラのこととなると、どうしても舞い上がってしまうのだ。

 しかし、そんな僕の興奮をよそに、強風は鉛色の雲を運んでいた。

 午後、学校が終わる頃には、強い風とともに、バケツをひっくり返したような雨が降っていた。

 僕とシェーラは教室の窓から雨を眺めている。

「今日、図書館いかない方がいいよ……。オルヴァくん、本、返却するんだよね。本ぬれちゃうよ……」

「そうだね……。今日は帰ろうか……」と僕は内心がっかりする。

「うん。そうしよ……」

 シェーラと僕の二人は、脳裏に占いの結果が思い浮かんでいた。

 彼女の結果は”最悪”だった。


(でもでも僕も”最悪”だよ。シェーラちゃんと図書館デート~~~~っ)


 天気のせいでチャンスを逃したことに、僕は落胆した。

 僕は雨で濡れないよう、図書館の本は学校に置いていくことにした。最低限の教材を鞄にしまい、ベルンとシェーラと僕で教室から出て行く。

 皆、学校に置きっぱなしになっている傘があるので、それを差して、下校する。

 ベルンとは途中で分かれ、僕とシェーラちゃんの二人っきりになった。

 シェーラちゃんと何かお話をしながら帰りたいが、強風が僕らの会話を(さえぎ)る。傘を吹き飛ばされないよう、風向きを意識して、軽く押すように前に進む。

 まったく天気というのは気まぐれだ。毎日が晴れだったらどんなにいいか。

「風、強いね。オルヴァくん。雨も強いし!」

「ね~~~。早く家に帰りたいや」

 僕らはそんなことを必死に歩きながら、話したそのときである。


 走ってきた馬車が僕らの横を通り過ぎたのだが、水たまりに車輪がつっこんだのだ。

 バシャーンッと水が横からシェーラと僕のもとに飛んでくる。


 僕らは固まった。あれだけ傘で濡れないよう、がんばって学校から歩いてきたのに、びしょびしょになってしまったのだ。


 馬車は何事も無かったかのように走り去って消えていく。

 僕らがびっしょり濡れてしまったことなんか、馬車の人は気づきもしてないだろう。


(はぁ~~~~~。さくあくぅ~~~~~~~)

 僕の気持ちはすっかりヘコんでしまった。今日は最悪の一日、と大きな大きな溜息を吐こうとした刹那、シェーラの声が聞こえてきた。


「あっはははははは!」

 と彼女は腹を抱え、笑っている。

 僕はびっくりとして目を白黒させる。

「本当に占い通り”最悪”だ。すごい当たってる。ははははっ」

 彼女はびしょびしょになった自分を見て、また笑う。どうやらシェーラはショックを通り過ぎて笑ってしまっているようだ。

 シェーラは笑いすぎて目に涙が溜まって、それを拭った。

 そんな彼女を見ていると、僕もだんだん可笑しくなってきた。

「ははっ。ホントだ。すごいね。占い!」と僕。

「明日みんなに報告しなきゃ。ふふっ」

 シェーラと僕の笑いはしばらく続いた。笑いが止まっても、また思い出して笑っていた。



 ◇



 家につくと、びしょぬれの僕を見たアンドレアが慌てふためいた。

「早く体を拭け。あっためないと、風邪引いちまう」

 風呂を焚くから待ってろ! とアンドレアは僕に拭くものを渡して、浴室に向かって飛び出していった。

 僕は体をせっせと拭きながら、にっこりと風呂が焚けるのを待っていたのだった。




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