始まり始まり
「あ……?」
剣の欠片を捻じ込まれた直後、男は不思議そうに首を傾げているだけだったが、そのまま蹴り転がすと叫び声を上げながら床を転がり始めた。
「あああ!?痛い!!なんだこれは!!ぐあああ!!!!ぎいいいいい!!!!!!」
ヒイヒイと呻きながら床を転がり、欠片を取り出そうと傷口に手をやったので、僕はその手が傷口の欠片を取り出す前に踏み付けて欠片を奥へと押し込む。恐らく、欠片は内臓に達しただろう。
「やめろ!やめろQek!!何をしている!!俺はお前のお父様だぞ!!お前をここまで育て上げた偉大なる指導者だ!!」
僕の足首を掴んで傷口から払い除けようと手を伸ばすが、弱い。あまりにも、弱すぎる。
「やめろ!!やめろやめろやめろ!!痛いいいいいいい!!熱い!!ひいいいい!!」
男は子供のように泣きじゃくりながら腹の底から叫ぶ。顔を涙や涎で濡らし、醜く命乞いをする。
「助けてくれ、許してくれ!!全てお前達の為にやったやったんだ!!親から捨てられ先の無い哀れなお前達がこれから生きていくにはこうするしか無かったんだ!!お願いだ!!慈悲を……!!」
許すとは何の事だろう。
何を言っているのだろう。
慈悲とは何だろう。
「お父様」
僕の声に、男は安堵の笑顔を向けた。
「残念ながら、貴方は助からない。傷は深く達していますし、貴方の身体の中に入っている異物は人間の体には毒なのでしょう。だから、ここでお別れです」
僕の声に、男は笑顔を消した。
背を向けた僕に何か言葉にもならない喚き声が向けられるが、僕にとってそんな事はどうでも良かった。
ボロ切れのように床を転がる彼女を見る。目を閉じて浅く息をしている。壊れた人形よりも、もっと汚れて酷い状態だ。
「死んでしまうの?」
顔を覗き込んで問いかけると、彼女は薄く目を開いて唇を動かす。
【このくらいじゃ】
【しねないよ】
「そう」
僕の見た限りでは致命傷に見えるが、彼女は吸血鬼。このくらいじゃ死なないのだろう。
僕は彼女を肩に担ぐ。思っていたより随分と軽い。
「ここにいたら他の大人達が来てしまうから、外に出よう」
返事は聞こえない。その代わり、彼女が僕の服を弱々しく掴んだ。
僕は彼女を担いだまま吐瀉物を撒き散らす男の横を通り抜け、出口に向かう。
彼女がいつも通り抜けて来ていた、僕の房の窓を目指した。




