歓喜
ずっと昔から殺せと言われて来た。
それが僕の、僕らの役目なんだと。
だから、僕にはこの感情がわからない。
故に僕は君を殺す事でしかこの感情を確かめる方法が無い。
「早く仕留めろ!」
「がんばれ!Qek!負けるな!Qek!」
「殺せ!」
「殺せ!殺せ!」
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
異常な程の沢山の応援。いや、命令。
謎の襲撃者からの恐怖から一転、それを殺せるかもしれない僕は、彼等にとって正義のヒーローにでも見えた事だろう。
だが、僕にとってその声援はただの騒音でしかなかった。
彼女は僕の意思で殺す。兄弟もお父様も知った事か。この感情も、この衝動も、今はなにもわからないけど、おまえらなんかに渡したくない。
これはぼくのものだ
「……ふふ」
その時、僕の攻撃を躱した彼女が笑った。
「シロちゃんもそんな顔するんだね」
額から流れる血を拭いながら彼女が言う。その顔はとても嬉しそうで、名前の分からない僕の感情はただ激しく暴れまわり大きくなるばかりだった。
「分かったよ、シロちゃん。君をちゃんと見てあげる。君をちゃんと殺してあげる。その心ごと、その想いごと、バラバラにして、全部呑み込んで、私のものにしてあげる」
その言葉に、僕は心の底からぶるりと震えた。
彼女が、僕を、僕だけを見てくれた。
僕の心を、想いを、呑み込んでくれる。
少女が目を閉じると、彼女の流した血が尾を引きながら目の前に集まり始める。
それは赤黒い結晶となり、横に長く長く伸びてゆく。
彼女の身長と同じ程度の長さの血の結晶が。
……いや、黒曜石を荒く整えて作ったような剣がそこには在った。
「さあ、シロちゃん、覚悟はいい?」
少女が黒い剣を掴むと、パラパラと乾いた黒い血のかけらが剥がれ落ちる。
「行くよ、ヒスイ」
そう言って血払いのように剣を振って構える。
黒いかけらが剥がれた後には緑色の輝きを放つ美しい宝石のような剣が現れた。
僕はその美しく鋭い殺気を受け、震えながらナイフを構えた。