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吸血姫異聞  作者: 染井めそ
一章:転生
5/13

予感

夢を見ていた気がする。

誰かに抱き締められる。

暖かくて、

柔らかい、

夢。










不意に、目が覚めた。

1番最初に知覚したのは鳴り響くアラームの音。それが頭の中を激しく揺さぶる。真っ白な視界。それに酷い頭痛だ。吐き気もする。

徐々に視界が鮮明になる。いつもの房の天井が見えた。


アラームが鳴り響く。


僕は勢いよく飛び起き、大きくふらつきながらもなんとか立ち上がった。

緊急警報アラームの音はけんきゅうじょ全体に鳴り響いている。これが意味する事は一つ。

“敵”だ。

“敵”が現れたのだ。

房から飛び出す。既に周りの房に被験体達はいない。僕が意識を失っている間に全員出払ったのだろう。


『私が、助けてあげる』


嫌な予感がする。

一旦、僕の脳はその憶測を拒否した。

曖昧な予測に頼ってはならない。先ずは“敵”と味方、互いの戦力を確認する。それからお父様(father)の指示通り“敵”の殲滅。

大丈夫だ。僕にはできる。今までだってやってきたじゃないか。


なのに何で、こんなにも怖いんだろう。


僕は震える体に鞭打ちながら壁伝いに移動を開始した。











「あれ? ……もう起きたんだ」


「な、何をやっていた! 被験体Qek!」


嫌な予感は的中した。

それも最悪な形でだ。


血と臓物の生暖かい香りが鼻にこびりつく。真っ白で広いレクリエーションルームは真っ赤な血で染まっていた。床には血溜まりと被験体と今まで見た事も無かったお父様(father)以外の大人の死体が転がり、光を受けてテラテラと輝いている。

まだ生きている被験体達が壁際にいるお父様(father)を護るように一ヶ所に固まっていた。それに対峙するのは、1人の少女。ふわふわの金髪は血でべったりと張り付き、赤銅色の瞳は猟奇的に輝いている。僕の房に絵本を読みに来ていた少女だ。


いや、見間違いかもしれない。他人の空似かもしれない。その一瞬、僕は信じてもいなかった神様に祈る。「どうか彼女ではありませんように」と。


しかし


「シロちゃんはそこで待っててね。大丈夫! 私が絶対に助けてあげる!」


そう言って血に塗れながら微笑む少女は、間違いなく「きゅうけつき」と名乗った少女だった。


「Qek! 何をボサッとしている! そいつが“敵”だ!」


お父様(father)の声で我に返る。


そうだ。

僕の使命は“敵”を葬る事。


「早く殺せ! 心臓を刺し貫け! 首をはねろ!」


床に転がる被験体(したい)のまだ暖かな手から刃の厚いナイフを引き剥がす。


「はい、お父様(father)


僕の喉は、自分でも驚く程に冷静に声を吐き出した。


「シロちゃん……。そっか、そうだよね。うん、しょうがないよね」


少女は寂しそうに笑うと、足を揃えて僕に向かって頭を下げた。


「殺しちゃったらごめんね?」


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