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すべてが嫌になったとき  作者: ひろせ ゆい
2/2

夕日が背中を引っ張ってくる 2

朝8時。本当に月曜日というのは億劫だ。こんな冬場に教室の廊下側の席というのも辛い。誰かが扉を開ける度に風が吹き込んで来る。僕が席についてからしばらくして、その扉はゆっくり開いた。

「おはおは。」

扉の隙間から顔を出したのは結だった。ほぼ毎日挨拶の仕方が違うのはもう慣れっこだ。

「ああ、...おはよ。」

だるそうに僕が返すと、結は僕の席の前に立ち止まって、目を大きくして言った。

「ねぇ、ねえ、挨拶ってなんだと思う。」

おはようと来たらおはようと返すものだと思うけれど、普通。返答するに値する答えが無いので黙っていると、彼女は動かしたくて仕方がなかったのであろう唇から大きく息を吸いこんで楽しそうにに言った。

「なんだろうね。でも私は大事なものだと思うんよ。」

彼女はしばらく僕の反応を観察したかと思えば、僕が何かを適当に答える前に、今日の授業の時間割りに話題を切り替えてきた。その間彼女は一切表情を変えないものだから、本当に、やりにくい。

結とよく話すようになって、家が近いからという理由で毎日一緒に帰るようになって、かれこれ3ヶ月経つのだが、彼女の考えていることが未だに全然掴めない。実はさっきの一言は、僕がちゃんと挨拶を返さなかったことにたいしての諭しだったりして。いや、それはないだろうけど。

「杉浦くん聞いてる?昨日

あんま寝てないんじゃないの。...じゃあ、また後でね。」

あっ...と少し声が出た。ついついぼーっとしていたみたいだ。やはり結は最後まで顔色を一つも変えず、ずっとにこにこしたまま自分の席に向かって歩いていく。


彼女の言葉はいつも含蓄がある。これ以外の言葉を当てはめるのは難しいけれど、変な敬意は取り払って言ってしまえば、よくわからない。彼女はまさしく異星人のような存在だ。いつだって彼女が話す言葉はただ僕の耳に入るだけだ。でも彼女との会話が面倒だとか、彼女を嫌うような気持ちもない。そう、だからあいつは「変な奴」。俺の友達とかではなく、ましてやガールフレンドでもない。そうだとしたら、やっぱり彼女はおれの、「変な奴」。そんな変な奴と毎日一緒にいる自分もどうかと思うが。

くだらない考え事をしている間にも、教室は朝の賑わいを増してゆく。結と話していて気づかなかったが、隣の席の人も登校してきていたようだ。

「挨拶は大事だと思うんよ」

そう言った結の顔が一瞬浮かんだけれど、今僕には隣の席に座っているあの女性に挨拶する理由がないのだ。彼女はたった今教室に入ってきたわけでもないし、今挨拶しても、きっと自分が呼ばれていると気づかないはずだ。まあ、適当なことを並べても、人付き合いが苦手なことが本当の理由なのだけれど。





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