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6.コンティニュー

 三回目となっても、そして急ぎと言えども、“魔導兵”の起動にはそれなりの時間が必要だった。術式は何一つ省略できず、それにかかる時間も同様らしい。


「っしゃ、行くぞ!」


 “魔導兵”との接続が完了し、三度視界が切り替った。操作によどみはなく、起動と同時に移動を開始する。

 方向感覚に自信はある方で、一度通った道は大抵覚えられる。それは“魔導兵”を通じて得た経験でも遺憾なく発揮され、迷うことなく悪鬼と交戦した広場へとひた走る。


「気を付けろ。どこで奴と遭遇するか分からない」


 分かってるよ、と白ローブに短く返事をしながらも、コントローラを操作する手は止まらない。


 “魔導兵”の起動準備の最中、白ローブからは二つ忠告を受けていた。


 一つ目は説明済みの事ではあったが、悪鬼は“魔導兵”の位置をある程度の距離から察知できるであろう、ということ。“魔導兵”の動力たる魔に反応するらしく、遠距離から場所を特定されてしまう。そうなれば、必然と一方的な攻撃に晒される事になる。しかも、その攻撃手段が二体目の“魔導兵”を制御不能に追いやった炎の吐息であったら、目も当てられない。文字通り、手も足も出ずに再びゲームオーバーだ。


 二つ目は、悪鬼の仕留め方だった。首を斬り落とし、その頭部の粉砕を求められたのである。白ローブ曰く、悪鬼は人ならざる種族ではあるが、人の形を成している以上、首を刎ねられては生きてはいられないとのことだ。自爆という厄介な手段を選択していたとしても、首さえ切り離してしまえばその惨劇を防ぐことができる。駄目押しに、その頭部を原型を留めない状態にすることができれば万全らしい。


 二つ目は兎も角、一つ目が問題だ。

 ファーストコンタクト――この三体目となる“魔導兵”にとっては――において、こちらは悪鬼の奇襲に対して成す術がない。悪鬼は“魔導兵”をサーチできるが、“魔導兵”は悪鬼を感知することができないのである。

 対策が必要だ、白ローブはそう言う。しかし、深慮を巡らす時間はない。大仕掛けどころか小細工を弄する余裕もなさそうだった。


(でもまぁ、そういう事だよな。多分)


 漠然とではあるが、対応策はあった。策というほどの内容か、と言われれば疑問は残る。それもそのはず、正確に言えば策ではないからだ。しかし、それでも空手の無策ではない。ならば試す価値は十分あるだろう。


「もう少しゆっくり移動したらどうだ。魔の消耗が早い」


「いいんだよ、これで」


 森の悪路を、大剣を背負った“魔導兵”はほぼトップスピードに近い速さで移動していた。これは、鎧の内部に蓄えられている魔の消費を早める行為に他ならない。悪鬼との戦闘にも、もちろん魔は消費する。目的地に到着してガス欠では、お話にならないという事だろう。白ローブが危惧する意図は、良く分かる。

 しかし、コントローラを握る側にはそれなり理由がある。この速度での移動こそ、悪鬼の打倒に必要である、そう判断しての行動だった。


 洞窟のある広場までの道程を、半分も過ぎただろうか。ここまで掛かった時間は、前回の半分どころか三分の一以下だろう。“魔導兵”の機動力は、恐ろしく高いものだった。


「おい、本当にこの速さを維持す――」


 白ローブから再度、不安の声が掛かった。まさにその時だった。右斜め前方から、炎の渦が襲い掛かってきた。燃え盛る炎の螺旋は、“魔導兵”に照準を定め放たれたものに違いない。そしてそれを吐き出したのは、疑うまでもなく件の悪鬼であったろう。

 しかし、全力疾走に専念する“魔導兵”に、その猛火はかすりもしなかった。それでも“魔導兵”を炎で呑もうと必死に狙いを修正しているのだろうが、それでも疾駆する“魔導兵”を捕らえることはできない。


「やーっぱりなぁ!!」


 悪鬼が吐き出したであろうの炎を振り切ると、思わず声を上げていた。相当なドヤ顔にもなっているだろうが、白ローブの男以外に観客はいない。気にすることではなかった。

 “魔導兵”を急停止させ、炎が飛んできた方を見やる。そこには高さ三メートルはあろう大岩があり、悪鬼はその陰からこちらを狙い撃ってきたのだろうと思われた。


「まさか、悪鬼と遭遇したのか? 無事なのか?」


「おう、ピンピンしてるぜ」


 悪鬼の奇襲は失敗に終わった。いや、終わらせてやった。


 用意した作戦は、実にシンプルであった。

 近距離用の高火力攻撃。二体目の“魔導兵”を一撃で葬り去った炎に対し、そうアタリをつけたのである。飛来する速度も火球の魔法ほどではなく、ホーミング性能も乏しいであろう、そういう推察だ。そして、それは的中していた。

 これに対して講じた作戦はただ一つ、「高速で移動し続ける」である。攻撃を一切捨て、移動だけに特化した“魔導兵”の速度であれば、まず命中しないであろうと思ったのだ。この作戦において炎が直撃する事態があるとすれば、“魔導兵”の真後ろから攻撃された場合のみ。“魔導兵”のスピードがどれだけ早いとはいえ、対抗馬が火炎の大渦では分が悪いだろう。

 だが、その心配もしていなかった。手負いだろうが瀕死だろうが、この道で遭遇する悪鬼には余裕がないはずだ。人語を介するとの触れ込みの悪鬼だが、あのケダモノじみた姿から鑑みれば、木陰に潜み“魔導兵”をやり過ごした後、背後から攻撃する、などという業をやってのけるとは思えなかった。


 しかし、代償がなかった訳ではない。白ローブが警告を発するほどに、“魔導兵”の魔は消費されてしまっている。必要な三つの工程、距離を詰める、首を刎ねる、頭部を破壊しつくす、これらをこなすだけの余力があるのかは、正直分からなかった。


 改めて、悪鬼が潜むであろう大岩を見る。悪鬼の姿を確認した訳ではないが、その陰に隠れていることに疑いの余地はない。

 ここで、“魔導兵”に背負っていた大剣を手に取らせ、岩へ向かって直ちに突進させる。まずは、悪鬼を岩陰から引きずり出さなくてはならない。悪鬼は、こちらの姿を見なくとも魔を感知することはできる。奴にプレッシャーを与えるには、走って接近するだけで十分だった。


「そら、おいでなすった!」


 岩陰から、赤い巨躯が飛び出してきた。左腕を失い、肩口には深い傷を負い、それぞれから黒い滴らせている。先の“魔導兵”が放った最後の一撃も命中していたらしく、山羊のような角の間からは大量の出血があった。一部頭蓋までを砕いたのか、脳漿のようなものまで姿を覗かせていた。

 そのような手負いの状態であるにも関わらず、悪鬼は戦意を失ってはいなかった。迫りくる“魔導兵”に対し、大口を開け炎を吐き出そうとする。


 しかし、岩で姿を隠すことを止めたその時から、主導権は“魔導兵”にあった。

 既に悪鬼の顔面に対して、襲い掛かるものがあった。黒く、長く、そして不気味な赤い光を秘めたそれは、大きく開いた悪鬼の口に吸いこまれていった。


「グェプァァッ!」


 悪鬼が、液体混じりに短い断末魔を上げた。“魔導兵”が投擲した大剣が、寸分の狂いもなく悪鬼に突き刺さったのだ。幅広の刀身が悪鬼の後頭部から姿を現し、悪鬼の頭部を顎の関節部から二分している。


「やったぜ!」


 すべて思惑通りに事が運び、思わずガッツポーズをしていた。大剣の間合いに入る前に炎を吐いてくるのは織り込み済みであるし、一発で“魔導兵”を仕留められない火球を放ってくることもないだろうと予想していた。ならば、モグラ叩きの要領で、悪鬼の姿を発見次第、大剣を投げつけることでリーチの差を埋めるしかない。予測の範疇で事を運ばせられたことに、安堵のため息が漏れていた。


「仕留めたのか?」


「後始末だろ。分かってるよ」


 白ローブの男の一歩先を行く答えを返しながら、“魔導兵”の操作に意識を戻す。


 そこから先は、淡々とした処理だった。

 頭部を両断された悪鬼は夥しい体液を垂れ流すだけの存在と成り下がり、ぴくりとも動かない。両手剣を拾うと、改めて胴から首を刎ね飛ばした。しかる後に、大剣の刀身を利用して頭部を滅多打ちしていく。ゲームならば死体蹴りと呼ばれる行為に当たるのだろう、普段は積極的にやらない行為ではあるが、クリア条件として提示されているのだからやむを得ない。


 数分後、目の前には頭部をミンチにされ、血の海に沈む悪鬼の姿がそこにあった。


「よくやってくれた……!」


 作業の完了を聞き、白ローブは震えた声で謝意を伝えてきた。

 小さな村、それでもそこに住む者にとっては人生のすべてが詰まった村だ。その村に迫った未曾有の危機、それが除去された。言葉にし難い喜びが、そこにはあるのだろう。


「“魔導兵”をここまで戻してくれ。約束を果たそう」


 白ローブの声に、身体が弛緩していくのが分かった。白ローブとの約束と言えば、一つしかない。最初にそれを要求した時、取り付く島もなく却下されたのは印象に深い。あれから半日と経っていないだろうが、その約束が守られるとなると、急に達成感が沸いてきた。


 白ローブとの約束。すなわち、地球に帰れるのだ。


ミッションコンプリート。

ゲーム下手の自分には初見2コンクリアとか夢もいいところですが。


残りは二話です。よろしくお願いします。

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