5.ファーストステージ、されどファイナルステージ
一体目の“魔導兵”を操作練習に使い潰してから、一時間程度のインターバルがあった。白ローブの男は一度退出し、暫く時間が掛かるからと休憩を促された。慣れない視覚と聴覚の共有に、身体は思いのほか疲労をため込んでいたらしい。硬い木製の椅子とテーブルであるにも関わらず、突っ伏して仮眠を取ってしまっていた。
背中を揺すられ目を覚ますと、そこには白ローブの男が戻ってきていた。寝惚け眼のせいだろうか、彼のローブに若干の解れと水分によるシミが増えているような気がした。
「膜を張り直す」
白ローブは懐中から小瓶を取り出すと、前回と同じようにシャボン玉を練り上げ始めた。まだ完全に覚醒していない意識の中、繰り返される光景をぼんやりと眺める。
「……またやんの、それ」
欠伸混じりに質問を吐き出すも、白ローブから返事はなかった。こういう場面の無言は肯定の意味だろうと勝手に解釈し、身体を背もたれに預けるよう座り直した。
ややあって、完成した朱色の線が幾本も浮かぶシャボン玉を、白ローブがこちらに近づけてきた。目を瞑れ、と言われたことを心の中で反芻すると、その目をゆっくりと閉じた。皮膚に何かが触れたような感覚は、相変わらずない。
「終わったよ」
淡々とした白ローブの言葉に、瞼を開く。これといった変化を感じられないのも、前回とまるで一緒だった。
「確認だ」
ここで初めて、一度目の“魔導兵”起動手順と異なることが起きた。白ローブの男が詠唱ではなく、厳しい口調で話しかけてきた。ようやくあれこれと感情のこもった台詞を言うようになったと思うが、険悪な雰囲気を漂わせるようなものが多いのは気のせいだろうか。
「改まって、何だよ」
負けず嫌いな性格が、思わず顔を覗かせてしまった。こういう場面において、少しばかり強めの言葉で応じてしまうのは悪癖だと自覚があった。
「二体目の“魔導兵”、これで最後にしてくれ……三体目、四体目の用意がない訳ではないが、それでもだ」
それは依頼や命令というよりも、懇願だった。同時に、その理由を話すことができないという拒絶の意思も同時に伝わってくる。フードの下にある顔は見えないが、喋る言葉は時として表情よりも雄弁に感情を語りかけるものだ。
「分かった分かった。何とかするよ」
それならば良い、と白ローブは軽く頷いた。そして、手を合わせると詠唱を開始する。
その間にテーブルの端に置いたコントローラを手繰り寄せると、ボタンを指で叩き、スティックを動かしながら、頭に思い浮かべた“魔導兵”の操作イメージを呼び覚ます。都合小一時間にも満たない時間でのチュートリアルではあったが、大分操作には慣れたつもりだ。
「繋ぐぞ」
一体目の時と全く同じ言葉の後、光を纏った白ローブの男の手がこちらにかざされた。二体目の“魔導兵”を起動するべく、同じ魔法が展開されるのだろう。
次の瞬間には、目に映るものすべてが切り替わっていた。
一体目の“魔導兵”で見たものと同じ風景が周囲に広がっている。違う点があるとすれば、月の輝きが失われ、陽光がうっすらと射し始めていることだろう。仮眠の間に、時刻は夜明け前まで進んでいたらしい。
「んで、悪鬼ってのはドコにいるんだ?」
こちらの問い掛けに、白ローブの男は心得た、と小さく返事をした。
白ローブのナビゲートに従い、新たな“魔導兵”を操り森を疾走する。夜の森に微かに響く虫の声を、“魔導兵”が移動する金属音が上書きしていく。
目的地までは、獣道に毛が生えた程度の悪路を進むしかなかった。背の低い木々の枝が“魔導兵”の外装をかすめ、鬱蒼と茂る草が絡みつく。整地などされていないため、地表に飛び出した木の根や、転がっている石つぶてすらも障害物となりえた。しかし、“魔導兵”を操作する者にとって、それらは苦にもならない。
枝が当たろうが痛みがある訳ではないし、魔法によるオートバランサーとでもいうべき機能が働いているのだろう、蹴躓いて転倒するようなこともなかった。
暗い道を十分程度進んだだろうか。突然森が開け、ちょっとした広場に出た。正面に断崖がそびえ、その中心付近に亀裂のようなものが縦に走っている。洞窟というよりはひび割れの隙間、といった方がしっくりくる。
「正面に洞窟のようなものが見えるか。それが奴のねぐらだ」
奴、とは言うまでもなく悪鬼のことだと知れた。
しかし、亀裂の内部に侵入する気にはなれなかった。“魔導兵”の得物は大剣である。対して亀裂の幅は、大人が二人並んで余裕をもって歩ける程には広い。荒事が不要ならば充分なスペースだと言えるのかもしれないが、この大剣を振り回すには圧倒的に空間が足りない。
どうにかして悪鬼を引きずり出さなくては。そう思案していると、ふいに白ローブから心を見透かしたような声がかかる。
「奴は“魔導兵”の魔に反応する。すぐに姿を見せるだろう」
「マジかよ、それは好都合だな」
思わず、乾いた唇を舌で舐めていた。
ついに、自分が異世界に召喚された原因ともいうべき相手とのご対面だ。初っ端のステージにラスボスがいるというのは、地球のゲームならば完全な敗北フラグである。負けることが前提のイベントバトルであることが大概だろう。
だが、この異世界においてはそんなものはない。全力で打ち倒し、さっさと地球に戻る切符を手にしなくてはならなかった。
コントローラから命令を飛ばし、“魔導兵”に大剣を構えさせる。右肩に大剣を担ぐようなその構えは、相手を一刀両断するためのものだ。
ふと、洞窟の方から足音がした。地響きなどという大層なものではないが、鈍く、そして低く響くそれは、相手がそれなりの巨躯であろうことを連想させる。そして、洞窟からのっそりと姿を現したそれを見て、思わず声が漏れていた。
「なるほど、こいつぁ悪鬼だ……」
二メートルを超える高さに異様に発達した筋肉、その肌の色は焼けた鉄のように赤黒い。手足は爬虫類のような鱗に覆われ、それらから伸びる爪は異様に長い。あの屈強な肉体から繰り出される爪の一撃は、下手な刃物よりも切れ味を発揮しそうだった。
そして何より、その風貌がいただけない。雄山羊のように湾曲した角を二本生やし、切れ長の目にはめ込まれた瞳はサファイアのように蒼い。表情は憤怒に満ち満ちており、大きく裂けた口からは何本もの牙を覗かせ、敵意を隠そうともしていなかった。
コントローラを握る手が、震えていた。恐怖が心に染み出してくる。
「呑まれるな。君が直接対峙している訳ではないのだ」
状況を察したのか、白ローブの男からアドバイスが飛んでくる。なまじ実際の映像を共有しているが故の錯覚だが、この悪鬼と相対しているのはあくまで“魔導兵”だ。“魔導兵”のメリットは、操縦者には痛みも死に至る危険もないということを忘れてしまっていた。
「そうだった」
一気に冷静さを取り戻せた、そんな気がした。震えも収まっている。
「グガアアアアアアァァァァァ!!」
“魔導兵”を排除するべく、悪鬼は天を仰ぎおぞましい雄叫びを上げ威嚇をしてきた。生身でこれを聞かされたのなら、思わず逃げ出してしまうだろう。下手をすれば腰を抜かして歩くことすらままならない状況に陥るかもしれない。
しかし、“魔導兵”を操る者に限って、それはない。ゲームのサウンドエフェクトだと割り切ってしまえば、「まぁ、こんなものか」としか感じなかった。
むしろ、雄叫びを上げきるまで動かないのであれば、それはチャンスだった。大剣を担いだままの“魔導兵”を、悪鬼目掛けてダッシュさせる。人の何倍ものスピードで地面を蹴る“魔導兵”に、悪鬼は完全に虚を突かれたようだった。
「これでも喰らえ、この糞山羊が!」
絶好のタイミングで、大剣を真っ直ぐに振り下ろす。“魔導兵”で武器を扱うのは初めてだが、手ごたえはあった。これで決着がついたか、とも思ったが、それは流石に甘い考えだと知れた。
既に悪鬼の姿はなかった。視界にあるのは、唐竹割りに繰り出した大剣が地面を深々と抉るさまと、その一撃が斬り落としたであろう悪鬼の左腕だ。小刻みに痙攣しながら、切断面からドロリとした黒い体液が漏れだしている。
「やっべぇ!」
咄嗟に“魔導兵”を後方へ飛び退かせる。大剣を引き抜きながらも機敏な動きを見せる“魔導兵”の鼻先を、赤黒い塊が掠めていった。悪鬼が弾丸のようなタックルを仕掛けてきたのだが、それを寸でのところで避けたのである。
「攻撃モーションの硬直を狙うなんて基本だもんな」
“魔導兵”を更に後退させ、悪鬼との距離を取った。不意打ちは成功、成果は相手の腕一本だ。ファーストアタックとしては上出来だろう。
再び、悪鬼と相対する状況になった。左腕を失い、そこから大量の血――と思われる黒い何か――を垂れ流しながらも、悪鬼は息を乱していなかった。まるで、痛みなど感じてはいないと言わんばかりに。
奇襲はもうできないだろうと思い、“魔導兵”に大剣を中段に構えさせた。人間の筋力ではこの重さの大剣で構えを取ること自体に意味を見いだせないだろうが、“魔導兵”は別だ。大剣を棒切れのように軽々と扱えるのだから、あらゆる状況に対応しやすいこの構えがベストだろう。
そんな“魔導兵”を見て、悪鬼は口の端を吊り上げたように見えた。悪鬼は荒々しく地面を蹴ると、その巨躯から思えないほどの身軽さで後方に跳躍した。悪鬼と“魔導兵”の距離はさらに広がり、二十メートルにもなっただろうか。
嫌な感じがした。同時に、攻撃よりも回避を意識しようと決心する。
相手に逃げる気配はない。左腕を失ったことにより戦意を喪失したのなら、こちらに開き直ることなどせず、一目散に逃げ出すはずだ。ならば、この距離から攻撃する手段を持っているのではないか、という推測が成り立つ。
そして、その推測は当たってしまった。
悪鬼はこちらに残った右手をかざすと、火球を生成した。大きさはサッカーボールほどもあるだろうか。激しく燃え盛るそれを、悪鬼は“魔導兵”に向け放ってきた。
「悪鬼っつーより悪魔じゃねーか!」
文句を垂れながらも、“魔導兵”に回避行動を取らせる。しかし、悪鬼が放ったのは、ただの火球ではない。魔法だったのだろう。直線的な軌道が変化し、“魔導兵”を追尾してきたのである。
直撃の有無は、確認できなかった。コントローラで操作しているとはいえ、遠隔で“魔導兵”を操るゲームのようなものだとはいえ、行っている行為はゲームではない。ヒットポイントを示すゲージもなければ、“魔導兵”に残された魔の残量を視認することもできない。痛みも衝撃もないのだから、ダメージを受けたかどうかを知る術はなかった。
「糞山羊の分際で生意気なんだよ!」
遠距離攻撃を持たない“魔導兵”なのだから、悪鬼との距離を詰めねばならなかった。今の間合いを維持してしまうと、火球の魔法で一方的にいたぶられるだけだ。すぐに走り出せる体勢を整えようとするが、再び悪鬼が放った火球が襲い来る。続けて回避行動を取るものの、このまま回避一辺倒を強要される状況は好ましくなかった。悪鬼は必ず調子に乗ることだろう。
そして、その不安は的中する。悪鬼は立て続けに火球を放ってきた。悪鬼の憤怒一色だった顔が歪んで見えるのは、炎による熱のせいだけではないだろう。本能以外に感情を持ち合わせているのかは疑問だが、それは嘲笑にも見えた。
安全な距離から遠慮なく繰り出される魔法の連続攻撃など避けきれるものではない。ならばどうするか。
「まずいな、どこからか魔が漏れ出している」
「んな事ぁ分かってるよ!」
白ローブの報告など、最早耳に入っていなかった。あれだけの数の火球、いわばホーミング性能を備えた小型ミサイルの乱射である。俊敏に回避を行う“魔導兵”といえど、破損が生じていない訳がない。
「どうする気だ? もうそんなに時間はない」
「冷や水ぶっかけてやんだよ!」
タイムリミットは近いらしい。ならば早急に決着をつけなけばならない。
タイミングを見計らい、“魔導兵”を横方向の回避行動から縦方向の移動へ切り替える。被弾を覚悟で距離を詰めるしかない、そういう判断からだった。
次の瞬間、視界が炎に包まれた。火球が、“魔導兵”の頭部を直撃したのだ。しかし、その状況を鑑みる事なく、“魔導兵”を悪鬼に向けて走らせる。ダッシュの速度に衰えはない。さっきの被弾は、致命的なものではなかったようだ。
次いで来る火球を前転で掻い潜り、さらにその次を大剣で受け止めた。大剣に衝突した火球は霧散したかのように見えたが、細かい火の玉となって“魔導兵”に突き刺さる。この数秒で受けたダメージは相当なものだろう。
「だけど追いついたぜ、このチキン野郎!」
目前には、更なる火球を繰り出そうとする悪鬼の姿があった。しかし、この距離は“魔導兵”の射程でもある。火球はまだ完全に出現してはいない。斬撃を繰り出すことに迷いはなかった。
“魔導兵”に両手で大剣を握り直させると、即座に袈裟斬りを見舞った。悪鬼は攻撃手段を魔法から肉体を用いたものに切り替えようとしたのだろう、残された右腕を振り上げようとしていた。だが、あまりに遅い。悪鬼の抵抗が成るよりも早く、“魔導兵”の大剣が悪鬼の左肩を捉えていた。
「グギィィィェェェァァァァアアアアア!」
醜い悲鳴じみた叫びが、悪鬼の牙の隙間から溢れ出す。
鉄塊が、赤黒い表皮に喰らいついていた。しかし、両断には至らない。見れば、大剣と肩口の間に悪鬼の右手が挟まっていた。右腕による攻撃が間に合わないと悟るや、咄嗟にガードを固めたのだろう。爪が刀身に絡みつき、“魔導兵”の斬撃に対し必死の抵抗をしている。
「このままぶった斬ってやる!」
鍔迫り合いのようなこの状況に、思わず攻撃ボタンを連打していた。こういう場合、大抵はボタン連打で相手を押し込めるのがセオリーだと思ったからだ。
果たして、“魔導兵”は大剣を握る手に力を漲らせ、その刃を力任せに悪鬼の肉体へ喰い込ませていく。カバーに入った右腕ごと斬り落とさんばかりの力技である。さしもの悪鬼もバランスを失い、背中から大地に倒れ込んだ。
「こいつで終わりだ!」
ダウンした相手への追撃を行うべく、速やかに“魔導兵”へコマンドを送る。“魔導兵”は得物を構え直すと、大きく真上に振りかぶった。このまま一刀両断にしてやれば、さしのも悪鬼といえど絶命に至らしめる事ができるだろう。
悪鬼の肉体どころか、その下にある大地をも打ち砕かんばかりの勢いで、“魔導兵”は大剣を振り下ろした。刃が空気を裂き、ヒュンと風切り音が生じる。
勝利を確信した瞬間だった。
しかし次の瞬間、目の前が業火に包まれたと思うと、目に映る風景が一変した。いや、戻ってしまっていた。
それはつまり、“魔導兵”が機能を停止し、接続が失われたことを意味していた。
「おい、どうなっている!?」
術式が途切れたことを白ローブも察知したのだろう。荒々しく椅子から立ち上がると、テーブルに両手を叩きつけながら詰問してくる。
「野郎、隠し玉を持ってやがった……」
思わず天井を仰いでしまっていた。
最後の大火が原因で、“魔導兵”は倒されてしまった。“魔導兵”を通して見た光景は、大口を開ける悪鬼の貌だ。いわゆる炎の吐息という奴だろうか。その威力は火球の比ではなかったのだろう、“魔導兵”の活動をあっさりと停止せしめたのだ。
「……倒せたのか?」
「分かんねぇよ!」
苛立ちを隠せない。最後の最後で気を抜いた自分が許せなかった。
先制攻撃に成功し調子に乗った挙句、相手の攻撃パターンが一つしかないと思い込んだ結果がこの状況だ。普通のゲームであれば敗北と判定され即時ゲームオーバーだろう。
だが、“魔導兵”は異世界とはいえ実在する。所持していた大剣も例外ではない。つまり、大剣による追撃が成功した可能性もあるということだ。本来あるべき威力ではないにせよ、あの勢いで振り下ろした大剣が完全に停止することなどあり得まい。
「良くて相討ち、だな。下手すりゃまだ生きてるかもしれねぇ……」
白ローブに悪鬼との闘いの流れを一通り説明し、答えとも言えない答えを伝えた。悪鬼が生命活動を終えたその瞬間を、確認することが出来ていない。嘘でも「勝った、安心しろ」などとは言えなかった。
「……そうか」
左手で右ひじ掴み、右手を額に当てると、白ローブは押し黙ってしまった。何かを思い悩んでいるのは明らかだが、その態度には余裕が全く感じられない。片足は小刻みに床を叩き、焦燥感が見て取れる。
「悪かったな、中途半端な結果で」
コントローラをテーブルに置きながら、悪態をついた。白ローブの態度が、こちらに対する失望に見えてしまったからだ。期待に応えられなかった悔しさを素直に認められるほど、大人にはなりきれていない。
白ローブの沈黙はいつまでも続くかと思うほど深いものだったが、それは不意に破られた。
「――君の話から察するに、悪鬼は火の魔力を操ることに長けている。これは間違いない」
「あんだけ火の玉を飛ばして来るんだ、そりゃそうだろ」
おまけに赤く灼けたような皮膚をしている。しいて言えば目が青かったが、それも今思えば高温の炎のような輝きだった。ガスの火が揺らめいているような、そんなイメージである。
「奴が完全に死んだのならば、何ら問題はない。問題があるとすれば、“魔導兵”の装甲を焼き尽くすような炎を操る悪鬼が、手負いもしくは瀕死の状態にあった場合だ。前者であれば、さっきの君の言葉通り、間違いなくこの村に襲来し、すべてを焼き尽くそうとするだろう」
“魔導兵”の操作練習の際に言った内容を、白ローブはしっかりと覚えていた。それは、決して許されないはずの失敗を犯してしまったことを責められているようにも聞こえた。
「後者が問題だ。それなりの深手を負わせ、放っておいても死に至る。そんな状態が一番危険だと言えるだろう。最悪――」
一つ小さく息を吸うと、白ローブは絞り出すように声を出した。
「――村全域どころか、その何倍もの土地を焼き払うほどの自爆を起こす可能性がある」
白ローブ曰く、肉体そのものを魔と化すことができれば、得られる魔は莫大な量になるという。魔に近しい存在であろう悪鬼がその肉体を魔へと変換した場合、どれだけの魔が生じるかは想像もつかないらしい。しかも、その魔の性質は炎に親和性がある。どれだけの規模の爆発が起きるか、全く予測がつかないらしかった。
「マジかよ! やべえじゃん、それ……」
それはつまり、この白ローブの部屋にまで危害が及ぶということだ。“魔導兵”で討伐すれば安全だという前提が崩れてしまっては、落ち着いてはいられなかった。
悪鬼が死んでいれば、これらの予想はすべて杞憂に終わる。“魔導兵”と相討ちに終わり、今頃その躯を野に晒していれば何に問題もありはしない。無事にハッピーエンドだ。
しかし、生きていたとしたら。悪鬼が手負いにせよ瀕死にせよ、全力で止めを刺しに行かなくてはならない。それをしなければ村が灰燼に帰すだろう。
悪鬼の様子を見に行く、などと悠長なことをやっている時間はない。最悪のケースを想定して動かなければ間に合わない、とも思う。
そんな心持ちが伝わったのか、すでに決心がついていたのか。白ローブの男は、至って冷静に宣言した。
「――やむを得ん。三体目の“魔導兵”を急ぎ準備しよう」
今までと比べて随分と詰め込んでしまいました。
分割しようかと思ったのですが、中途半端になりそうなので開き直ってそのまま。
残り三話、よろしくお願いします。




