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4.チュートリアル

 白いローブを纏った男は、テーブルの対面で両手を合わせ目を閉じた。聞き取れないほど小さな声で何やら呟いているのだが、その内容を知ることはできない。魔法の発動に必要な詠唱というものだろうかと思い、勝手に納得することにした。

 寺の住職も顔負けだと思うほど、それは途切れることがない。できること言えば、コントローラを離さずに白ローブの様子を観察することくらいだった。

 それから三分程度経過しただろうか。白ローブの男の両手が、淡く白い光に包まれ始めた。驚くことに、詠唱の開始から今の今まで呪文は一度たりとも途絶えていない。どんな肺活量だ、と普段ならツッコミを入れる場面だろう。しかし、今は白ローブの両手に魅入ってしまっていた。初めて目にする魔法の発動が目前にあるのだから、無理もなかった。


「繋ぐぞ」


 接続先は勿論、“魔導兵”だろう。現実のゲームで言えば、電源が投入されたという宣言に他ならない。

 白ローブは合わせていた両手のうち、右手をコントローラに、左手を目前にそれぞれかざした。掌から伸びた淡い光は、コントローラを捉え、そして目前にゆっくり拡散していく。そして、その次の瞬間だった。


「うおおっ!?」


 景色が、一転した。召喚された時よりも、それは明確だった。

 目の前には闇に包まれた森が広がり、鬱蒼とした雰囲気が漂っている。中天に輝く月が満ちているため、最低限の明かりは確保されているように感じた。思わず周囲を見渡そうと首を動かすが、風景に変化はない。


「忘れるな。その“こんとろーら”でなければ“魔導兵”は動かせない」


 白ローブの男の声に、ハッとする。

 映像があまりにも鮮明に、そして視界そのもの共有させられているがため、思わず首が動いてしまった。まるで、未熟なゲーマーがドライブゲームのカーブに挑む際、身体ごと曲がってしまうように。

 そんな自分が情けなくなったが、弱みを見せるのを良しとしないゲーマーの性だろうか。すぐさま強気な言葉を投げかけていた。


「って、どうやって動かすんだよ! 操作方法なんざ聞いてねぇよ!」


「君が得意な操作方法を思い浮かべろ」


 それをそのまま設定し固定する、と白ローブの男は答えた。

 得意な操作方法と言われて、顎に手を当てて思いを巡らせる。この“魔導兵”を操る視点は、一人称だ。いわゆるファーストパーソンシューター(FPS)に近い。操作キャラクターを俯瞰で見下ろすサードパーソンシューター(TPS)が一番得意なのだが、FPSも経験が全くない訳ではない。過去、最もやりこんだFPS、それもモンスターを狩る内容のタイトルの操作方法を思い出し、それぞれのキーがどの役割なのかをなぞるように思い浮かべる。


「こ、これでいいのか?」


「捉えた。今、命令系統は君が想像したとおりになっている」


 聞き返すより先に、コントローラを操作していた。

 左スティックを傾けると、“魔導兵”は移動を開始した。鎧の金具同士がカチャリカチャリと金属音を立てて動いているのが分かる。

 右スティックは向きの変更だ。視野だけを動かすと、“魔導兵”がその場で旋回しているのが分かった。

 人差し指が当たるボタンには攻撃が二種類割り当てられた。“魔導兵”はどうやら両手剣を持っているらしいく、押すボタンによって斬り方が異なるようだ。大剣の地金は真っ黒で、ひび割れのような隙間からは真っ赤な光が漏れ出しており、禍々しさを覚えた。

 他にも、スティックとボタンの組み合わせでショートダッシュやローリングもできるようだ。意外に機敏で、得物が両手剣であることを踏まえれば、敵の攻撃への対処法は防御ではなく回避がメインになるだろう。


「よし、“魔導兵”は無事に起動した。悪鬼の討伐へ向かおう」


 秘術の成功を喜ぶでもなく、白ローブは戦闘を促した。“魔導兵”の目線からでは見えないその声は、どこか焦っているようだった。二つの魔法の同時行使は、随分な負担なのだろうか。伝わってくる焦燥感は、今までの白ローブからは想像もつかないレベルのものだ。


「いやいや。ちょっと待てよ」


 だが、素直に受け入れられる提案ではなかった。白ローブの男が召喚で呼び出したゲーマーに対してどのように評価しているのかは分からないが、現状のまま悪鬼の打破など不可能だ。


「このままじゃ、まともに戦うなんてできねぇよ」


「……何故だ?」


 白ローブの感情が、さらにむき出しになった気がした。しかし、“魔導兵”の操作について任された以上、主導権はこちらにある。それに、そんな無茶な要求ではないだろうとの思い込みもあった。


「ゲームなんてやったことのないアンタには理解し辛いかもしれないが――」


 そう前置きをして、白ローブへの説明を始めた。

 まずは、この操作性への適応が必要であるということ。ゲームタイトルごと、操作にはそれぞれクセというものがある。

 この異世界で起動する“魔導兵”だが、そのスペックとクセを掴み切れていないのが本音だ。移動速度、ダッシュの速度、ローリングでの回避をした場合の移動距離、大剣での攻撃射程とその軌道、ジャンプ力の確認、等々。実際に討伐対象である悪鬼ばりに動く練習相手を用意してくれるのが最適だが、さすがにそれは高望みだろう。

 そこで、操作への習熟度を高めるため、三十分程度の自主的なチュートリアルを要求した。広場でも森の中でも構わないが、自由に操作を行い“魔導兵”を自在に動かすための練習時間だ。実戦で鍛えることが一番効率的だ、とも付け加えるのを忘れない。


「――そんなにも時間が必要なものなのか」


 白ローブの男から、明らかな落胆の声が漏れ出た。絶望と言っても差し支えないほどのものだ。

 一流の、それもゲームの神様に愛されているようなプロゲーマーならば話は別だったかもしれない。コントローラを握った瞬間にゲーム性を把握し、神業のようなプレイをやってのけるのだろう。

 だが、それは極々一部の例外であると言わざるを得ない。何度も練習を繰り返し、時に達人と呼ばれるプレイヤーの動画をネットで見て参考にし、勝てない敵に幾度となく挑戦し、打ち倒されながらゲームの腕は磨かれていくものだ。


「それに、失敗したらどうなる?」


 悪鬼に挑み、敗北を喫した場合の話だ。

 痛みを感じない“魔導兵”と言えど、物理的に破壊されてしまえば動くことはできないだろう。そうなった場合、果たしてゲームと同じくコンティニューなどできるものなのだろうか。


「新たな“魔導兵”を用意する。……それなりの時間は掛かるが。できる事ならば二体目以降は使いたくない」


「でもさ、それってヤバイんじゃねぇ?」


 合点が行かず、「何がだ」と気が抜けた声を出した白ローブの男を畳みかけるように言葉を続ける。


「自分が虫ケラだって見下してる連中が、“魔導兵”で逆襲してくる訳だよね。一度で仕留めそこなったら、逆ギレして村に殴り込んで来るんじゃねぇかな? 俺だったら間違いなくそうするけど」


 そうならない為にも、と言を押し通す。


「だから、この練習は勝利のために必須だ。いきなり悪鬼との実戦で確実に首を上げろなんて、ハードルが高すぎるぜ」


 ハードルの意味は分からないが、と白ローブは諦めたように答える。文脈からニュアンスだけは何とか伝わったらしい。


「村の被害を最小限に抑え込むため、必要ということか」


 そういうことだ、と首を縦に振った。白ローブの男がそれを見ているかは分からないが、こちらの意図は間違いなく伝わっていることだろう。

 暫しの沈黙が続いた。

 その間、勝手ではあるが“魔導兵”をあれこれ操作して感覚を掴む練習を自主的に行う。仮想世界のゲームとは違い実際の物理法則に従っているため、やはり操作に相当なクセがある。“魔導兵”そのもののパワーも相当なもので、大剣を繰り出すスピードは大したものだし、その反動を殺す膂力も凄まじい。ゲーム操作と車の運転が融合しているような、独特の操作感だった。


「分かった。君の要求を呑もう」


 苦渋に満ちた声が聞こえてきた。随分と決断に時間がかかったのは何故だろうか。


(要求っても、そんな大層な内容じゃないと思うんだけどなぁ)


 そう思いながらも、“魔導兵”の操作練習を続ける。白ローブの男の言動に引っかかりを覚えたのは確かだが、必要なものは必要なのだ。それに、わざわざ異世界くんだりまで来てFPSの魔物撃退ゲームをやらされている訳だから、立場はこちらの方が上だろう。


「だが、それならば制約がある。この“魔導兵”はもうそんなには動けない」


 まだ操作開始からそんなに時間は経っていないはずだった。多く見積もっても二十分程度だろう。


「え、起動時間に制限とかあんの?」


「最初に説明しただろう。鎧の内部に魔を満たすのだと」


 つまり、“魔導兵”は魔を消費して起動している。激しいアクションを起こせば魔の消費も比例して高まり、操ることのできる時間は目減りしてく。鎧への損傷も同じであるらしく、あまりにも広範囲にわたる損傷を受けると、そこからも魔は漏れ出していってしまうらしい。


「今回、この“魔導兵”を君の要求どおり自由に動かしてもらって構わない。その代わり、次に用意する二体目の“魔導兵”。これで決着をつけてくれ」


 暗に三体目はない、そう言われているのは気のせいではないだろう。それほどに白ローブの言葉は重い。何がそこまでこの男を沈ませているのか、それを知ろうとする心持ちはなかった。


「OKOK。で、この“魔導兵”はあとどんくらい動くもんなのよ?」


 白ローブの男には“魔導兵”の魔の残量がわかるらしい。時間の単位が地球と異世界で共通していなかったので多少の時間は掛かったが、やり取りの中で残された起動時間は二十分程度だと分かった。


 その与えられた時間の中、“魔導兵”はただ地球から来た男の感覚を養うためだけに、魔を燃やし尽くしながら、ただただ命令のとおり動き続けた。

ようやくゲームスタート、と思いきやチュートリアルです。

残り三話。どれだけ詰め込んであるんでしょう。

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