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1.召喚

「よくぞ我が召喚に応じた、指揮者よ」


 目を開けた途端、声が聞こえてきた。いつ目を閉じたかも憶えていない。ふと気がつけば、という表現がしっくりと来る。

 咄嗟に周囲を見渡す。ついさっきと景色がまるで違う。


「ふぇっ!?」


 自分でも情けないと思う声が溢れ出すほど、狼狽していた。

 ここは、室内だった。見た事がない、薄暗い部屋。

 高原リゾート地のログハウスの一部屋といった具合ではあるが、造りが所々荒い。部屋を照らしているのは電気ではなくランプの灯火だ。窓の外はただただ黒いという事は、真夜中の時分といったところだろうか。


「……どこだよ、ここ」


 現状と記憶に、かなりの食い違いがあった。

 先ほどまでアパートの一室で、発売されたばかりのゲームに興じていたはずだ。テーブルには炭酸飲料とポテトチップを用意し、徹夜で遊び倒す覚悟でコントローラを握っていたはずなのに、その全てがこの場にない。

 部屋の様子も様変わりしてしまっている。文明が後退してしまったような気がしてならない。


「ここは、ラメル大陸」


 機械的な声は、背後から聞こえてきた。

 振り返れば、真っ白なローブに身を包んだ人間が立っている。フードを深く被っており、その素顔を伺うことはできない。銀色の髪が少しばかり飛び出しているが、声の質と上背の高さから男に違いないだろう。


「ラメル大陸?」


 男の声を、反芻していた。だが、義務教育から大学の講義に至るまでの記憶を辿っても、そんな名前を聞いた例はなかった。


「指揮者よ。ここはそなたがいた場所とは異なる世界。私が君をこの場に呼び出したのだ」


 白いローブの男は淡々と、それもごく当たり前であろうという口調で喋った。

 だが、何を言っているのだろうか。さっぱり理解できない。理解できる要素がない。


「頭大丈夫か、てめえ」


「至って正常だ」


「ここが日本じゃない? お前が俺を呼び出した? 意味分かんねぇよ!」


 暴力沙汰とは縁がない人生を送ってきたが、思わず白ローブに詰め寄りその襟首を掴み上げていた。しかし悲しいかな、ろくに鍛えてもいない腕力では、相手を微塵たりとも動かすことができていない。


「落ち着け」


 感情を全く表に出さない白ローブの男に、苛立ちが募るだけだった。

 それでも何とか情報を整理しようと試みる。

 いけ好かない相手の襟を掴むことができる。こちらの言葉に思い通りの応答を返さない相手だ。この都合の悪さを鑑みるに、どうやら夢ではないらしい。もし夢であれば、好みの姿形をした女性がとびきりの笑顔で耳障りの良い言葉を並べてくれる事だろう。だが、現実はそう甘くなさそうだ。

 深呼吸をひとつ、ゆっくりと行う。改めて白ローブに対峙すると、ストレートに要求を叩きつける。


「俺を元の家へ戻せ」


「断る」


 取り付くしまも無いとはこのことだ。あまりの返事の早さに頭を垂れる暇もない。

 無意識の内に、もう一度深呼吸をしていた。

 思考を切り替えることにする。要求が通らないのであれば、情報だ。


「理由はなんだ? しがない学生の俺なんかを、わざわざ別世界から呼び出す理由なんかないだろ」


 冷静に考えても、要因が見当たらない。

 勉強に運動、何をやらせても平均点。見た目も普通、人生において目立った功績もなければ失敗もない。人間偏差値五十というに相応しい男を、わざわざ異世界に召喚する理由などあるのだろうか。


「理由は、ある」


 白ローブの男はこれまでの口調を崩さず、短く答えた。先ほどからの無機質な受け答えの応酬に、この白いローブの男には感情がないのだろうか、という疑問が頭を過ぎる。


「これで我が村を救って欲しいのだ」


 言いながら、ローブの裾から黒い物体を取り出すと、それをこちらに差し出してきた。それを目にした瞬間、思わず驚嘆の声が漏れだす。ランプの灯しかない薄暗い部屋だ、最初は見間違いかと思った。だが、見間違う筈もない。それは、とてもよく見慣れたものだったからだ。


 白ローブの男がこちらに渡そうしているそれは、どこからどう見てもゲームのコントローラだった。

前作を放り投げて二年、一つでも完結したものを書こうと思い執筆しました。

流行りの異世界ものを書いたつもりですが、話として成立しているかどうか不安です。

読んでいただければ幸いです。

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