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「おや?もうこんな時間が経ってしまいましたか」
「もうってまだそんなに経ってないだろ」
実際そんな時間は経っておらず、まだ話し始めてから10分も経っていなかった。
「いきなり言われても決められないでしょうから、1週間以内にその名刺に私の連絡先が書いてあるのでそこにお返事をください。
返事が無ければ了承していただいたと判断しますのでおねがいします。では、私はこの後予定があるのでそろそろ帰らせてもらいますね」
「ちょ、ちょっとまってくれ!」
最後の言葉を無視してさよならと言うと神崎はそのまま足を止めることなく帰って行った。
寒空の元には冬夜と彼の名刺だけが残される。
「まったくなんだったんだ?いきなりきたかと思うと勝手に帰りやがって……」
ふともらった名刺に目をやるといい返事を期待してますよと一言添えられた横に神崎の電話番号が書かれていた。
わざわざ名刺にこんな事まで書いているところを見る限り、転校の話が学園に来たのはここ数日のことでは無さそうだ。
ぼーっと名刺を眺めていると強い風が吹く。
「うー寒い、やっぱこの時期は冷えるな。いい加減家に入ろう」
ただいま、と言って家に入ると迷わず自室に向かっていく。
いまはこの家には冬夜を除いて誰もいない。
姉はもちろん行方不明だし、両親は冬夜の小さい頃に海外出張に行ってるらしくどこで何をしているかはわからなかった。
ただ、親名義で定期的にお金が振り込まれてくるのでどこかには居るはずである。
唯一真冬からは連絡が来るがこちらからは連絡ができないので、家族全員ほぼ音信普通なのだ。
「1週間以内にいい返事ね……姉さんが何を考えてこんなことをしたのかわからないけど、俺やっぱり無理だったよ……」
窓を開け空を見るとふとつぶやく。
冬の寒さはまるでこれから起こることの厳しさを表しているようだ。
「ようやくつかんだ足取りなんだ。絶対に姉さんに会いに行ってやるからな」
リビングまで駆け下りていくと迷うことなく電話を手に取り神崎のところへ連絡した。
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