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武装妖精社  作者: 鉄野たらこ
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第一話

勅使河原真琴は今、ドキドキしていた。

こんなに胸が高鳴ったのは、もしかして初めてかもしれない。


手のひらに握られたのは、ソフトボール大の卵にしか見えない何かだった。ズッシリとした重みを感じる。

ウズラの卵についている模様のようなものまである、楕円形の卵。

しかしこれは、秋葉原にあるガチャガチャを回したら出て来たのだ。


卵は、大きな白いプラスチックの容器に入って出て来た。

そのプラスチック容器には開け口が無かった。

どこから開けたら良いのかわからないのでそのまま持ち帰ったら、いつの間にか容器にはグルリと切れ目が入っていた。

開けてみたら、「1分間、両手の中で暖めてあげてください」と言う注意書きが入った紙と、大きめの卵が出て来たのであった。


自室の椅子に座り勉強机に向かって、今、真琴は両手で卵を温めていた。

1分くらいたったかな?

何か生まれてくるのかしら?

でも、本当に?

などと、思考はグルグル回っている。


ピキッ、その時卵にヒビが入った。

あ、生まれる。

震え始めた卵を手に、真琴の胸は更に高鳴った。

体中から汗は出てくるし、息は過呼吸気味、もう、吐きそうなくらいだ。


いきなり卵はパカーっと2つに割れ、同時に卵の中がまばゆく光った。

一瞬視力を奪われる。

あっ、と思ったら割れた卵の中から、体を丸めて横になっている幼児のような生き物が現れた。

同時に、卵の殻は形を変え、小さなコップ(直径1.5㎝くらい)と銀色の皿(直径8㎝程度)、

そして各辺20㎝程度の灰色と言うにはやや黒い石の台、厚みは7ミリ程度であろうか。

これらのものに卵の殻の形が変わった。


その上に幼児のようなものが乗っているのだ。髪の毛は金色で肩に届くまでの長さだ。肌の色は白い。

幼児は、薄緑色で半透明の服に包まれていた。ワンピースの服だろう。

背中に小さな羽が生えているのがわかる。

羽の形は丸く、小さく透明だ。

どうやって、服の上に羽がついているのだろう…。


これは天使なのだろうか?それとも妖精?

羽が少し震えている。

幼児のような生き物は、呼吸しているように体がゆっくり動いている。


真琴は、手のひらに現れたそれらを、そうっと机の上に置いた。

すると、体を丸めていた幼児の目がパッチリ開き、丸めた体を伸ばして起き上がった。

手に紙を持っている。それを真琴に差し出した。


「この子は妖精です。名前を付けてあげてください」それだけが書かれていた。

名前、名前をつければいいのね、真琴はその妖精の子供を見つめて考えた。

「ローリー、あなたの名前はローリーがいいわ」

妖精の幼児は、パーっと顔を輝かせて笑った。


目は青なのね、顔つきは西洋人形のよう、そしてとても可愛かった。

指を差し出すと、ローリーは両手で握ってくる。

小さな小さな指が、真琴の指をつかむ。

可愛いわ、とっても可愛いわ!

真琴はその指で、ローリーの頬をそっと撫でた。

柔らかく、ふわふわの頬、そして生きていることを感じさせる暖かさ。

何もかもが可愛らしかった。

何が嬉しいのか、ローリーはニコニコしている。だが、声を出したりはしていない。


でも、私にこの妖精の子供が育てられるだろうか?まだ私は中学2年なのに。

真琴はローリーを撫でながら、そう思った。


差し出された紙をもう一度見ると、書かれていた言葉が変わっていた。


「次のアドレスにアクセスしてください。http//busouyousei.com/」

「管理番号2x12xxxxxxxxxx +あなたの誕生日」

「こちらに、妖精ローリーの育て方が記載されています。武装妖精社」

などと書かれていた。


さっそく真琴はノートパソコンを開いた。

でも、いったいどうしてこんなことになったのかしら…。

真琴は思った。



事の発端は真琴の想い人、クラスメイトで幼なじみの川田達也君が「今日秋葉原に行こうぜ」と友人達に言っていたので、

「私も行きたい」と言ってついてきたのだ。

他の男子には話しかけにくかったが、古くからの顔馴染みで、席も隣である達也君には気易く声をかけられる。

秋葉原に行くのは真琴も含めて5人位のメンバーになった。

彼らの話題に、なんとなく相づちを打ちながら、真琴も秋葉原にやって来た。

もうすぐ発売のゲームの予約をしたかったのだ。


秋葉原には、チラシをまくスカートの短いメイドさん達がズラリと通りに並び、中学生男子達はちょっと鼻の下を伸ばしていた。

私にも、ああいった仕事は出来るのだろうか?

人見知りの真琴には、ハードルが高そうなお仕事の気がする。

だが、メイド姿の彼女らはとても可愛らしく、真琴はちょっと憧れるものがあった。

真琴は、可愛らしいものが大好きなのだ。

メイド服を着て、チラシをまく自分の姿を想像してみた。

いいかもしれない。

だが、質問されたり、何か話しかけられたりしたら、あたふたしてしまうだろう。


達也君も嬉しそうにメイドからチラシを受け取っていた。

彼が喜ぶなら、アリかもしれない。真琴はそう思った。

大人になるまでに、コミュ障を直そう、真琴はそう決心するのだった。


さて、何くれと無く達也が世話を焼いてくれたので、無事ゲームの予約も済んだ。

その後、男子達がフィギュアのガチャガチャを回したいと言い出したのだ。

何でも精巧な異世界生物のフィギュアが出るらしい。

ネットでも話題になっているとのことだった。


そのガチャガチャは、秋葉原の少し外れにある神社とビルの間にある、小さな空き地にポツンと立っていた。

一個だけ立っているのは、何とも不思議な感じがしたが、秋葉原的にはそれもアリなのかもしれなかった。


真琴は、達也君がガチャを回すのを見ていた。

彼は、ゴブリンを引き当てたらしい。ゴブリンは、棍棒を持ち、粗末な衣服を身にまとっていた。

どう猛ながら、滑稽な姿のゴブリンのフィギュアは、とても精巧な物であり、今にも動き出しそうに見えた。

しかしゴブリンは、彼的には外れらしく、ガッカリしていた。

そして、達也君が真琴もガチャを回すといいのに的な視線を送ってきたので、真琴も回すことにしたのだ。


そのガチャガチャは、一回500円と真琴のお財布的には厳しい値段だったが、達也君の期待に応えたく、思い切って500円玉を投入して回してみたのであった。


出て来たカプセルは、彼らの出したものと違い、二つに割ることが出来ない物だった。

「おい貸してみろ」達也君はそう言って真琴から受け取ったカプセルを割ろうとしたが、開ける事が出来なかった。

さすがに道路に叩き付けてまでカプセルを開けようとは思わず、「家に帰って開けてみるからいい」と受け取り、持ち帰ったのであった。



さて、それが先ほどまでの事。

今、真琴は「武装妖精社」のサイトを見ていた。

ガチャガチャを回すと出てくるフィギュアの写真が沢山並んでいる。

達也君の引き当てたゴブリンも載っていた。

他にも恐ろしげな姿をしたオークや、ちょっと可愛い感じのスライム、露出過多にも思えるセイレーンなどもあった。

男子は、ああいうのが欲しいんだろうなぁと思う。

だが、その何処にも生きた妖精が出てくるとは書かれていなかった。


サイトの端に、「管理者コード」と言う欄があり、空白のスペースが入力を促すように点滅していた。

コレだ!と思った。

真琴は、先ほどローリーから差し出された紙に書かれた管理番号を打ち込んでみた。

英数字の長いパスワードを間違い無く打ち込んだあと、真琴は迷っていた。

私の誕生日…西暦から打てばいいのだろうか、それとも年月日だけを打ち込めばいいのだろうか?

これだけ長いパスワードを要求されるのだから、西暦も一緒に打ってみよう。

間違えたらやり直せばいい。


真琴が最後の数字を打ち込んでリターンキーを押したとき、武装妖精社のサイトは新しいページを表示した。

「やった!」

そこには、妖精の育て方が書いてあったのだ。


「ようこそ選ばれし者よ」

「妖精はその資格を持った選ばれたものの元に訪れます」

「最初に、妖精の名付け親になってください」

ここまでは真琴の進んできた道であった。


「妖精と共に現れたカップに妖精の食料が一日一回満たされます。それを食べさせてください」

「水や、他の食料は取らせなくても問題ありませんが、食べさせてもまた問題ありません」

「妖精と共に現れた銀色の皿はトイレです。そこに排泄するよう躾けてください」

「妖精の服や靴などの装備は脱がすことが出来ます。適時入浴などをさせてください」

「妖精には、数日に一回陽の光を当ててください。妖精が喜びます」

「妖精は成長と共に言葉を覚えます。色々話しかけてあげてください」

「妖精のカップは、60日間満たされます」


60日!

60回しかカップは満たされないのか。

それ以降はどうしたらいいのか…。

人間の食べ物をあげれば、妖精は生きてゆけるのだろうか?


真琴と、この不思議な妖精ローリーとの生活はこのようにして始まったのであった。




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