なんてことない日常会話。6
「にっいじっまくぅーん!」
「キモイ」
「ヒドイ!」
「いやだって、轟木が僕に君付けとか。何やらかしたの? これからやらかすの? 怒らないとは言わないから、正直に話してごらん?」
「やだえんちゃんこわい。聖母の微笑みで怒る宣言した上に脅してくるとかこわい」
「女じゃないし親でもないよ」
「でもさっちゃんのモンペじゃん」
「僕が妹に穿かれたいとでも?」
「いや衣服のモンペじゃなくてね? モンスターペアレントっつってね?」
「知ってる」
「ならなんで説明させたし」
「つい」
「つい?」
「ボケたくなって」
「許す」
「ありがと。で?」
「ん?」
「僕に何か用があったんじゃないの、ロッキー」
「そうだった! ちょっと新島さん聞いたわよ!」
「何で近所のおばちゃん風なの」
「ノリよ」
「ノリか」
「そうよ」
「そっか。で?」
「おっとそうだった! ちょっと新島さん聞いたわよ!」
「くり返し」
「天丼だ」
「おいしいよね」
「ああ、うまいな」
「僕は天丼ならエビフライはやっぱり外せないと思うんだけど、轟木は?」
「花形だもんなー。俺はかき揚げかなー」
「あ、それも良いね」
「だろう。枝豆が入ってると尚良しだ」
「色で枝豆が入ってると思って嬉々として食べたのに、実はグリーンピースだったら?」
「ギルティ」
「いきなりの真顔」
「それっくらいギルティなの! もう三日くらい親と口きかなかったし!」
「おお、すでに体験済みだった」
「おうよ。当時グリーンピース嫌いだったし」
「なのに枝豆は好きだったの?」
「枝豆をつまみにビールを飲んで、この一杯の為に生きている、と叫ぶのがぼくの将来の夢です」
「まじか」
「と、参観日用の作文に書いてリテイクくらった小学校時代の思い出」
「何してんのロッキー」
「それっくらい好きだったのー!」
「はいはい。で?」
「ん?」
「用事、あるんでしょ?」
「おっとそうだった! ちょっと新島さん」
「それはもう良い」
「えんちゃんがボケさせてくれないっ」
「よくさ、仏の顔も三度までって言うでしょ」
「よく言うかどうかは知らんが、言うな」
「悟りを開いた仏様でも四度めは無いんだから、凡俗な人間が三度も我慢してくれると思うなよって話、聞いた事ない?」
「おおう、ブラックえんちゃん降臨」
「黒くない」
「んじゃあ、眠い?」
「うん」
「昨日寝たのは?」
「三時くらい?」
「自業自得」
「大丈夫。明日は休みだから、あと数時間耐えればイケる」
「どこへだよ」
「夢の中へ?」
「自分でも分かってないんじゃん」
「しようがないよ。僕らはどこから来てどこへ行くのかとか、立派な哲学の難問だから」
「そうだな、アホな男子高校生には荷が重いな」
「アホなのはロッキーだけだけどね」
「痛いところをっ」
「いや奨学生の僕がアホだったらまずいでしょ」
「小学生のえんちゃんとか大丈夫? 可愛さのあまり誘拐とかされてない?」
「何の心配してるの」
「友人としてつい」
「それはありがとう」
「良いってことよ」
「ロッキーさあ」
「おう?」
「こんなあっさり話を逸らされてばっかりで、よく『新聞部を出し抜く男』なんて呼ばれてるよね」
「おおっと! いやこれはえんちゃんの誘導が巧みなんだって事にしとこうぜ!」
「しとこうって事は、自覚あるんだね」
「しとこうぜ!」
「うん、まあいいや」
「そもそもな、えんちゃんが話を逸らさないで聞いてくれたら何の問題もないんだよ?」
「逸らすつもりはなかったんだ。ただ」
「ただ?」
「思った事をそのまま言ってみたら全部轟木がのっかってくるから、面白くなって、つい」
「つい」
「てへぺろ」
「くっ、棒読みなのに可愛い!」
「だから、同じ男子高校生に可愛いとか言えるロッキーはおかしい」
「だから、そこはとりあえずウチのクラスで取った統計で、えんちゃんは可愛いって結果が出ただろ。満場一致で」
「僕は納得してない」
「んじゃーえんちゃん以外、満場一致」
「くっ」
「ちなみに新島が女なら彼女にしたわって意見も多数」
「そいつらの名前教えて」
「良いけど、何で?」
「万が一にも妹と出会う事がないように色々と」
「そういうトコがモンペだっての」
「失礼な。顔だけで恋人を選ぶような男はダメでしょ」
「おりょ、えんちゃんは一目惚れとか信じないタイプ?」
「それはその人の表情や動作に滲み出ている人間性に無意識下で惹かれたって可能性もあるから別に否定はしないよ。でもさっき轟木が言った意見は確実に顔だけしか見てない意見だから却下」
「おお、流れるような長々しい意見。眠気は?」
「どっか行った」
「分かった、モンペは訂正しよう」
「それはどうも」
「モンペっつーより過保護者だわ」
「何、かほごしゃって」
「過保護な保護者の略」
「あんまり略せてないけど」
「細けぇ事は気にすんな!」
「まあ、良いけど」
「あ、予鈴。席戻るわ」
「おー。結局用件聞いてないんだけど」
「それ全部えんちゃんのせいだから!」