僕を呼ぶ声(陰)
誰かが僕の事を呼ぶ声がする。
薄暗い霧の中で誰かの強い思いに惹きつけられて僕はここにいる。
辺りを見渡すと遊具の少ない、空き地ばかりが目立つ公園。
なんでこんなところに引き寄せられてきたんだろう。
僕を呼ぶのは誰?
君が呼んでいる僕は誰?
そして僕の事を優しく撫でてくれた不思議な色合いで輝くあなたは誰?
でも眼下に地面にひたすら棒で丸い紋章を描き刻んでいる子供はどこかで見た事がある顔だ。
闇の中を彷徨っていた僕の身体はまるで影法師のようで頼りない。吹けば消えてしまいそうだ。
ある日からかその少年の刻む紋章に光が宿り出した。その光はこちら側の世界にまで届いているようで目を細めないと眩しすぎて直視出来なかった。
この光が僕をここに呼び寄せたのかも知れない。この少年の右手の甲には、地面に刻んでいる紋章とは少し違うタイプの紋が刻まれている。そこから力が湧きだしているのかも知れない。
けど、僕の身体は自由の利かない木偶の身体。そして日に日に蘇ってくるあちら側の世界で受けた数々の屈辱。
僕は死んでいる。
いや、自分の意思を持って死んだんだっけ?いや、なんか違う気もする。
元々生きていた理由も不明確でぼんやり生きていた気がする。それが苦痛に変わったのは何気無いクラスメイトの思いつきだった。
最初は単なる思いつきだったのかも知れないけど、いつも無口な僕にクラスでも人気のある中心人物達が、一人読書に打ち込む僕を目障りに思ったのか僕をいないものとして扱うようになった。
そんなのすぐにバレそうなものだけど、そいつはズル賢くて上手く先生にはばれずに僕だけを周りの人間と一緒になって無視し続けた。
僕は居ない人間。
ならもうそれでいいじゃないか。
僕は特に気にせず、学校で今まで通りに静かに暮らした。一人で居ることに慣れている僕は別にそれでよかった。
そんな僕の態度が気に食わなかったのか、名前も思い出せないクラスの人気者は僕を複数の仲間で取り囲んで殴る蹴るの容赦の無い暴行を加えてきた。僕の教科書や靴、机もめちゃくちゃにされた。
それでも僕は耐え続けた。
なんで耐えられなくなって死んだんだっけ?
思い出せない。
僕の眼の前で必死に魔法陣を描いている少年……確か名前は、久瀬浩樹君だったと思う。その子も本や図鑑が好きでよく情報交換をしていた。実質的に学校では彼一人が友達だった。クラスは違うけど彼が居てくれれば僕にはそれで充分だった。
彼と友達になったキッカケは……なんだっけ?なんでだろう、少しずつ蘇っていく記憶。けど、やっぱり所々抜けがある。
肝心な何か。
とても大切な何かを思い出したい。
ねぇ?
教えてくれませんか?
そこのあなた?