お散歩コース。(陽)
今日のコースはアマチュアコース。
私は登り始めた太陽の光を浴びながら上機嫌に鼻歌を口遊む。それは大好きなシンガーの唄。
私は日課のお散歩を始める。5月の春先、まだまだ、初々しい学生達が登校する話し声が聞こえてくる。私まで楽しい気分になって心がウキウキしてしまう。ただ、その会話の中に入れないのは少し残念だけどね。
私のお散歩コースは、自宅から木漏日中学校の通学路を横切って、公園を兼ねた空き地に寄り道した後、中継地点であるパン屋さんの「しょぱん」に寄って目的のブツ(原材料:小麦粉)を入手したあと、八ツ森市を小さく一周する様に帰路につく。
お昼ご飯はお腹が空いたらその場で買ったパンを食べる。あ、いつも携帯している空色の小さな水筒を忘れてしまっている事に今気付いた。どうしよ。少し歩いてしまったよ。
通学路を歩く学生の声に紛れて私の名前を呼ぶ声がする。私は見えないのに辺りをキョロキョロと見回す。
「お姉様ーっ!芽依お姉様っ!こっちです!11時の方向から、中学二年に上がったばかりの亘理紗凪が駆け寄って、芽依お姉様に抱き付いてきますよー!」
あ、この元気の良い女の子の声はお友達の紗凪ちゃんだ。妹では無い。親切な進行方向行動提示は、目の無い私に対する気遣いから来ている。気を使わなくていいのにと何度言っても健気に私への気配りを欠かさない健康的な女の子。顔は見た事無いけど、多分可愛い。ピンクの小さなリボンを側頭部に着用しているそうだ。
「紗凪ちゃん、おはよう」
私は紗凪ちゃんに抱きつかれないように右手に握った指揮棒をピッと前に突き出す。足音が止まった事から立ち止まってくれたみたい。
「お姉様!何故抱き締めさせてくれないのですか?!」
私は口をへの字に曲げてクレームを申し立てる。
「昨日、私に抱き付いて時間を浪費してしまった結果、紗凪ちゃんと一緒に登校しているそちらの女の子まで巻き添え遅刻したでしょ?」
紗凪ちゃんは昨日、私に構いすぎて友達の女の子を巻き添えにして学校に遅刻してしまった。由々しき事態。
「たはは……さすがお姉様!全てお見通しですね」
紗凪ちゃんが私の近くで立ち止まる気配がして私は一安心する。
「亘理紗凪、お姉様の言いつけ通り学校に行って参ります」
「うん。いってらっしゃい。そちらのお友達も紗凪ちゃんをよろしくね」
私が手を振ると少し戸惑うようにその子は私に短い返事を返してくれる。
「は、はい。それでは失礼し、ます」
私から離れていく紗凪ちゃんの達の方からヒソヒソ話が聞こえてくる。目が悪い人は耳が良いから気を付けてね?目の見えない侍は特に注意だよ?
「ねぇ、紗凪?」
「何?巴ちゃん?」
「あの人、リボンを目に巻きつけてるから目は見えないんだよね?」
「うん」
「さっきね、こっち見て手を振ったの。なんだか怖くて」
「そうかな?」
「そうだよっ!まだこっち見てくるから早く行こ?」
いけないいけない。私は慌てて顔を伏せる。
「巴ちゃん、お姉様の悪口は許さないよ?」
「ごめんごめん、違くて。ほら遅刻しちゃうよ?」
「お姉様〜っ!道中お気をつけを!もしもの時は必ず私が駆け付けますからねーっ!」
私は少し呆れたようにその声の聞こえる方にぎこちなく手を振り返す。
紗凪ちゃんとは1年前に私のお散歩コースでたまたま出会った女の子だ。その当時は中学に上がったばかりで大人しい子だったけど、今ではすっかり頼もしくなって、色々助けて貰ってしまう。私を守る為だと言って、通信教育で格闘技も習得してしまうすごい女の子。私の髪は何故だか銀髪でその所為でよく目立つらしく、時々、興味を持たれてしまって絡まれる時があるのだけど、そんな時、どこからともなく現れて武力行使という名の正当防衛で私を助けてくれる用心棒みたいな女の子。
さてと、こうして突っ立っていても仕方ないのでお散歩再開。私はゆっくりと公園目指して歩くのです。です。←誤字じゃ無いからね。
やっぱりチョココルネが食べたい。