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陽守芽依(陽)

少し嫌な夢を見ました。


自室に差し込む朝陽の暖かさを肌に受けて私はその日も目覚めました。昨日は少し嫌な夢を見ていたらしく、長めの前髪が汗に濡れて額に張り付いていました。

芽依(めい)起きなさーい。7時半よ」

一階から洗い物をする母の声が聞こえてきて私は体勢を起こします。乱れた髪を軽く整えながら、立ち上がると手で壁をなぞりながら洋服ダンスの扉を開きます。

その中からハンガーを頼りにいつものお気に入りのデニムのワンピース選び、着替えを済ませます。


脱いだパジャマはなんとなく畳んで数歩下がって、ベッドの縁が足に触れると、その上にそっと少し畳んだ寝間着を置きます。

今年で 17歳になる私にも毎朝の義務ぐらいあります。

毎朝のお散歩とお昼にパンを食べる為に近所のパン屋さんに顔を出す義務です。

学習机の左側のコンポの上には、私が愛用しているMDウォークマンが置かれていて、恐らく黒色に近いコンパクトなヘッドフォンが繋がれたままになっています。

このMDウォークマンは母のお下がりで、今となっては少し珍しいタイプらしいですが、私はお気に入りのJPOPシンガーのSORAという方の曲が中でもお気に入りです。

元気が無い時、この唄に何度ともなく助けられてました。お気に入りのアーティストさんです。

私はその方の千年草という曲が特にお気に入りで、その軽やかだけどどこか切ないメロディを口遊みます。

扉付近にかけられた肩掛け鞄をかけ、母の居る一階へとゆっくりと手摺を頼りに降りていきます。

私自身が見えなくとも17歳の女の子には変わりありません。そのまま顔を洗う為に洗面所へと向かいます。頭の中では他に忘れ物が無いかとグルグル考えております。


きっちりと顔を柔らかなタオルに顔を埋めると玄関に続く通路から母の声が聞こえてきます。


「芽依?おはよう。母さん、会議の資料を用意しないといけなくなっちゃったから、先に出ても大丈夫かしら?」


私はしっかりと顔の水滴をふき取ると、お母さんに挨拶をかえします。


「お母さん、おはよう。うん。あとは大丈夫だよ。戸締りも任せて」


母が玄関先でヒールに履き替える音がする。私は母をお見送りする為に玄関に足を運ぶ。

「あら、見送りはいいのよ?あ、それより巻いてあげなくっちゃね」


「うん」


私はポケットに入れていた白いリボンを母に渡すと、くるりと背中を向ける。一人でも出来るんだけど、リボンを結ぶのは人にやって貰った方が楽なんだよね。スルスルとリボンが擦れ合い、たちまち私の両目瞼の上を通ってリボンが一周、私の頭に巻かれていく。


「よし、出来た!うんうん、可愛いわよ」


私は少し照れながらお礼を言う。


「ありがと、可愛くなんかないよ」


母が振り向いた私の額に軽くキスを浴びせる。


「気を付けてね。方角や場所が分からなくなったらすぐに周りの人に助けを求めるのよ?」


私は心配性の母を無理矢理玄関から押し出すと手を振って別れを済ます。


もう私は17歳。


一人で買い物ぐらい行けるってぱ。人の気配がしなくなった室内を見渡しながら私はしっかりと玄関の扉に鍵をかけて戸締りを行なう。これで悪い奴は入って来れないと思う。


あ、私と会うのが初めてのあなたに自己紹介しておこうかな? 私の名前は陽守芽依(ひもり めい)


散歩とパンを買いに行くことが義務の17歳の普通の女の子。


あとちょっと人と違うところは、目隠しする様に巻かれた白いリボンの下、両瞼の下に普通の人はあるはずの眼球が無い。


あと視覚障害の人が持つ白杖の代わりに指揮棒(タクト)が握られているの。それだけの事、たったそれだけの違い。


私は玄関を出て、明け始めた陽光を全身に浴びながら伸びをする。


「今日も一日の始まりだね。みんな、おはよーっ( ´ ▽ ` )」


反応が無いのは分かってるけど声に出して今日も挨拶。さて、私は粛々とお散歩という名の町内巡回を始めるとしますか。


今日はカレーパンな気分。

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