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闇の中で輝く貴女(陰)

異形なる闇の怪物に形を変えていく私の身体と共に記憶が不鮮明になっていく。


あぁ、やっと、やっと帰られる。


そう感じた時、鋭い女性の声が聞こえた。


暗い霧がかった世界に一際不思議な色合いで光を帯びた丸い仮面を付けた女性が私の前に現れたのだ。


「ダメ!越えてはいけない!」


その警告と共に棒切れの様だった私の腕が変化し、丸太の様に膨れ上がっていた私の光の世界に伸ばした太い腕がその女性によって両断されてしまう。


痛みを感じた様な気がするが、痛覚すら私には無い。それは私の中の記憶の欠片がそれを思い出させたのだろう。


突然ふわりと現れた不思議な輝きを帯びる仮面の女性。色彩の無い世界にあって輝く彼女の髪は深い紫色の光を放ち、どこか古めかしい中世のゴシック衣装の様な衣服に身を包んでいた。


彼女の優しい声が私の心に流れ込んでくる。


「今ならまだ間に合う。お願い、引き返して?」


私の数十倍に膨れ上がった体に、彼女の手にする長い槍、その刃先は何かの結晶体で出来ているように思えた。


彼女の帯びる光が輝きを増しながら私の大きくなった体に槍をめり込ませ、その痛みに私は泣き叫びながら片方しか無くなった左手を彼女に伸ばした。


「お願い、今はまだ孵らないで」


槍を離した彼女の右手がそっと私の顔に触れ、その手に不思議な色合いの輝きが収束してまるで結晶化していく様に何かを形どる。


それは彼女の着用している仮面によく似たモノ。


「もう、大丈夫。これで力は抑えられるはずです」


私の顔に装着された仮面は、まるで最初からそこにあったかの様にぴたりと馴染み、そして私の拡がり続けていた膨張した心と体を優しく抑えてくれている様だった。その後、私はどうやら気を失った様だ。意識と無意識の間がひどく曖昧な存在ではあるが。


夢を見た。


この黒い霧で出来た身体になってから初めて見る夢。


それは私が人間だった頃の色彩豊かな記憶。生きていた頃の記憶。そうか……私は死んでしまったのか。


私が目を覚ますと、私を助けてくれた深紫色の髪に顔を仮面で覆った女性が灯火のついた錫杖を私の傍で掲げ続けてくれていた。


その不思議な優しい灯火の色を私はこの先も忘れないだろう。


私はその日から仮面を付けた黒い亡霊としてその薄暗い世界で生きていく事になった。その後、彼女は私と同じ様な境遇の者を助ける為に姿を消す。


時間の感覚が曖昧なその世界において、どれぐらいの時が流れただろうか。


気がつくとしばらく彼女のあの不思議な色彩の輝きをみかけていない。


私は急に不安にかられ、頼りない足でその世界を歩き出した。黒く斜のかかったフィルター越しに見える世界は、生者の光溢れる世界をなぞる様に創られている。私は決して触れることの出来ない雑多な人混みを掻き分けながら仮面の彼女を探し続けた。


そして私は見つけたのだ。


あの不思議な色合いで闇の中で輝く彼女を。その灯火を。


どういう訳かその見つけた灯火は小さな女の子に宿っている様だった。


向こう側の世界とこちら側の世界の住人同士が互いに認識する事は出来無いはずの世界。その世界において仮面の彼女と同じ輝きをその両目に持つ小さな女の子は、光輝く世界から薄暗い霧の世界に居る私の事を只々じっと見つめ返してくる。


私を助けてくれた彼女と同じ輝きを持つ女の子。君なら消えた彼女の行く先を知っているのかな?

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