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輝く者と陰る者(陽/陰)

私達を助けてくれた警察の方は天ノ宮サリアさんという方で、紗凪ちゃん曰く美人さんです。(陽守芽依)


長距離走のタイムを計っている途中で街に飛び出したので体操服で廊下に立たされてしまいました。(亘理紗凪)

 八ツ森警察の特殊部隊に席を置く金髪碧眼の女性は先程の不良少年と目にリボンを巻いた少女の事を思い出していた。覆面パトカーの後部座席に腕を組んで座る天ノ宮サリアが運転手を勤める黒スーツ姿にサングラスといった出で立ちの警官に尋ねる。

 「一つ聞いていいか?」

 「なんなりと、サリアお嬢さん」

 「先程、ナイフで刺されそうになった体操服姿の中学生を銀髪の少女が身を挺して庇おうとした」

 「はい。遠巻きにですがその様に我々も見えていました」

 サングラスの男がバックミラー越しに、金色の髪を垂らす少女の姿を確認する。

 「盲目の少女が、しかも目に包帯を巻いた人間が視認する事無く、ナイフを構える少年の進路に飛び出すことは物理的に可能か?」

 眉を潜め、人差し指を眉間に当て目を瞑る黄金の少女。

 「私達なら可能かも知れませんが、ただの人間には難しいでしょうね。ただ五感のうち、その中の一つが使えない場合において他の器官がそれを補うように発達するケースは幾つもありますが。もしかしたらあの銀髪の女の子は聴覚を頼りに進み出たのかもしれませんね」

 目を見開いた少女が何かを思いついたようにその目を見開く。

 「盲目の剣客の様なものか。もしくは何かしらの超能力の持ち主なのかも知れないな。さすがジャパニーズ。さすが侍の国だな」

 「……それにしても珍しいですね。お嬢様が他の人間に興味を示すなんて」

 「とんだ言いようだな。いや、少女のあの言葉が気になってな」

 「言葉?」

 「私やお前達の事が輝いて視えると言っていた」

 「黒服の俺達はどうかは分かりませんが、お嬢様なら確かに輝いて見えますよ?」

 照れた表情を咳払いで誤魔化し、金髪の少女が続ける。

 「偶然とは思えないんだよ。もしかしたら彼女は本当に見えているのかも知れない」

 「まさか。ありえませんよ。それこそイレギュラーな存在になってしまいます」

 呆れる男達を余所に天ノ宮サリアは何か予兆めいたものを感じずにはいられなかった。

 「向こう側から彼女を見てみるのもいいかも知れないな」

 小さく囁くその声に同席している男達は気付かない。

 「ところで、お父様はどんな用件で私を署に呼び出したのだ?」

 助手席に座る似たような出で立ちの若い男がそれに答える。

 「最近、奴らの動きが活発になってきてるんすよ」

 「外道の者達か。ランクは?」

 「精々B~Cの間ってとこです。ただ、どうやらこの町に集まって来ているようで」

 「この町にか?」

 「はい。私達の網にあいつらが引っかかる頻度が徐々に上がってきているんですよ」

 「ランクBまでなら放っておいても害は無いが、危険因子は摘んでおくにこした事はないか」

 「はい。恐らく父上もそのつもりかと」

 「そうだろうな」

 そう一人納得した様に頷くと、腰のホルダーに収めている黒い自動式拳銃のグロッグ17を二丁取り出すとその状態を確認する。

 天ノ宮サリアを乗せる車に仲間からの無線が飛び込んでくる。

 「こちら監視者ウォッチャー。先程、木漏日町木漏日小学校付近で微少な干渉波を確認。覚醒体への前兆かも知れない。こちらで引き続き発生源を調べるが、追ってそちらも現場への調査を要請する」

 一度、後部座席に座る金髪の少女の確認をとった後一言「了解」とだけ運転手は短く呟いた。


 *


 僕がその手を伸ばして触れようとしても誰かがそれに気付く事は無い。

 暗いフィルター越しの世界はずっと日食が続いている様だった。


 記憶が抜け落ちたまま僕の意識は覚醒し、はっきりと現状を捉え始める。


 僕の体はまるで影法師の様で、誰かから切り離された影がそのまま彷徨っているみたいだ。自分の名前も過去も思い出せないけど、ひどく誰かを憎んでいた気がする。その気持ちが僕に向こう側に映る世界に執着させる。


 夜の闇が辺りを支配して、僕等の居る世界とあちら側が繋がった様な錯覚を覚える。僅かな記憶とそれを元に形を帯びて行く僕の感情。それが世界に干渉し、無個性だった僕の体が記憶の中の情景と結びついて輪郭が浮かび上がって来る。それは歪で変てこな形だけど紛れもない僕自身が生きた記憶の証だ。


 いつの間にか人型に準じた影法師の姿は形を変え、大好きだった古代生物を模した不思議な色合いで輝く甲殻と節々に分かれた体。そして特徴的な巨大な二本の触手に何でも砕けそうなギザギザの刃が口元を覆い尽くす。まるで巨大なエビやカニを彷彿とさせるのは、5億3千万年前、古生代カンブリア紀の最大にして最強の捕食者、アノマロカリスを彷彿とさせる。

 人だった名残の性か僕の姿は最終的に2足歩行可能な古代生物と化する。次々と付加されていく装飾になんだか僕は楽しくなってくる。

 そっか、こちらの世界は僕の望みを何でも叶えてくれる。思いが形を変えて世界に干渉するとそれらは確かに実態を持って姿を現す。

 でもそれはこちら側だけでの出来事だ。


 出来るならこの強靭な顎や触手、鋭利な節々が僕を虐めたあいつ等を切り刻む様を眺めたいのに。


 あれ?あいつらって誰の事だっけ?


 大きく不気味に姿を変えた僕の体は奇妙な色合いで輝きながら夜の海原を彷徨い歩く。遠くで僕の事を呼び続ける懐かしい声に導かれながら。


 また君と会って話がしたい。


 もう一度、あちら側の世界に孵りたい。


 そんな激情が僕の記憶を塗りつぶしていく中、向こう側の世界で僕と同じ様に足掻き苦しむ音が聞こえた。僕はその音に自然と引き付けられて、兇悪な形をした顎をその人間に向かって突き立てる。


 初めて僕が向こう側の人間に触れられた瞬間だった。


 狂気が交錯し、互いが互いの存在を認めあった時、思いが形を変えて世界に干渉しそこに亀裂が生まれた。


 僕は還るんだ。



 


私はこの時間は寝ています。(陽守芽依)


グフフッ……芽依お姉様の寝息……。(亘理紗凪)


(紗凪ちゃんの仕掛けた盗聴器はまだ見つかっていません。サリアさんに相談しないと

)(陽守芽依)

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