案件 死に目①
ピンポーン
「はい」
「あの、便利屋さんのチラシを見て来たんですが……」
「はい、中へどうぞ」
こざっぱりとした中年の男性だった。俺は男性を部屋に招き入れ、お茶を出した。
「河田と申します」
「今西です。よろしくお願いします」
「それで、どのようなご依頼でしょうか」
「実は犬のことなんです」
「犬ですか?迷子になったとか?」
「いえ、うちの犬は、長く生きました。このところ調子が悪くて、病院へも行ったのですが、寿命だろうと……。最期は看取ってやりたいのですが、仕事を休めないんです。それで、うちに居て、犬に何かあったら連絡して欲しいんです」
「あの、私は専門的なことはわかりませんので、容態が急変しても、わからないと思うのですが……」
「それは大丈夫です。猫が教えてくれます」
「猫……ですか?」
なんなんだ。よくわからない。今西さんははまた話し出した。
「うちには猫もいるんです。二匹は仲がよくて……だから異変を感じたら教えてくれるはずです」
これは……結構責任重大だな。しかし、専門の業者もいるはずだ。
「あの、ペットシッターというのがあると思うのですが、そちらの方が専門ですし、いかがですか?」
「はい、それも考えたんですが、近くのペットシッターは、ずっと居るのは難しいそうで……。あと、河田さんとお会いして、あなたなら大丈夫だと思いました」
どういう意味だ?
「大丈夫とは何がでしょうか?」
「はい、うちの猫は人見知りが激しいんです。実は以前ペットシッターさんに来てもらった時も、威嚇して側に近寄らせなかったんです」
「専門の方がそれでは、私には荷が勝ちすぎるかと……」
「ええ、ですから河田さんの雰囲気がいいんですよ。私の直感ですが、うちの猫も威嚇しないだろうと」
「えーと、もし威嚇したらどうします?」
「では、とりあえず、いらしていただけますか?」
「はあ」
行っても良いだろうか。なし崩し的に責任を押し付けられても困る。まあ、動物は嫌いじゃないが、それほど好かれる体質でもないから大丈夫かな。
とりあえず、今西さんの家へ行くことになった。
「ここです」
意外と近いな。
「ただいま」
誰の声もしない。
「あの、失礼ですが、ご家族の方は……」
「一人暮らしなんです」
2LDKの家の一番広いリビングに、犬と猫は寄り添っていた。
とても優しく静かな光景。
「桜、太郎の様子はどうだい?」
「みゃ」
猫が短く答えた。犬は寝ているようだ。俺もリビングに足を踏み入れた。すると、猫が俺をじっと見つめている。なんだか値踏みされているようだ。
少しして猫は、俺に興味を失ったかのように、目を閉じた。
「やっぱり!」
今西さんが嬉しそうに言った。
「桜が威嚇しないのは河田さんを認めた証拠です!ペットシッターの方にも威嚇したのに……。河田さん、引き受けてくださいませんか?」
「あの、もし連絡しても間に合わなかったらどうします?」
「それは……仕方のないことです。会社から帰るのにも時間はかかりますから。それで犬が亡くなったら、会社を休むつもりです」
「亡くなる前は休めないんですか?」
「いつ亡くなるかもわからないのに、休めません」
「そうですか……わかりました。引き受けます」
「ありがとうございます!」
なんだかこんなに仲の良い犬と猫を見たら、断れないな……。




