案件 運動会
トゥルルル
「はい、河田です」
『あのう、便利屋さんですか?』
「はい。そうですよ。ご依頼でしょうか」
『おいくらくらいかかるのでしょうか』
「内容にもよりますが、一時間五千円いただいています」
『……そうですか……。あのう、割り引きとかって……』
割り引き!?何の!?
「……特にそういったものはありませんが……」
『……そうですか……あの、一時間半だと割り引きになりますか?』
どうしても割り引きしてほしいのか……。三十分なら一時間の半額でいいか。
「一時間半なら、七千五百円になりますが、内容はどういったものでしょうか?」
『場所取りです』
「場所取り……ですか?何のですか?」
『息子の運動会です。うち、母子家庭で、場所取りをしてくれる人がいないんです』
「そうですか。それならお引き受けしますよ」
『ありがとうございます!』
その人は鹿島さんと名乗った。運動会の日程、小学校のどの辺りに場所を取るかなどを話し合った。
今回は楽な仕事だな。俺はそう思っていた。
運動会当日、秋晴れのいい天気だ。運動会日和だな。さて、ビニールシートを持ってと。俺は目当ての小学校へと出掛けて行った。
まだ人もまばらだな。確かこの辺りの場所でいいんだよな。俺はビニールシートを広げて、そこに座った。鹿島さんが来るまであと一時間半か。本でも読んで待っていよう。
それから三十分、人がそれぞれ場所取りをし始めた。そんな時だった。
「あら~いい場所が空いてるわ~」
「あらあら本当ね」
「お兄さん、ここいいかしら~」
おばあさん二人が俺のビニールシートに入ってきた。えっ?俺が場所取りしてるのに?
「あ、あの、ここ人が来るんです」
「まあ~固いこと言わないで、いいじゃないの~」
いや、良くない!
「あの、ですから人が来るんです!」
俺はなんとか声を振り絞った。
「あらまあ、こんなに場所が空いてるのに?何人来るの?」
「えっ?えっと二人です……」
「あらあら、じゃあ半分は空くわよねえ」
「えっ、いや……」
「じゃあ、こっち半分もらうわね~」
ええっ!?こっちの意見は無視か!?
「いい場所が取れてよかったわね~」
「本当ね~」
鹿島さんになんて言い訳すればいいんだ……。
それから一時間後、鹿島さんがやって来た。
「河田さん、おはようございます」
「か、鹿島さん、おはようございます。あの、すみません」
「あら~お兄さんのところも来たのね。本当、お兄さんが場所とっておいてくれて助かったわ~」
「……鹿島さん、そういうことです……」
俺は申し訳なくて項垂れた。
「わかりました。いいですよ。ところで、割り引きになります?」
まだ割り引きにこだわっていたのか!しかし、きちんと場所取りが出来なかったのだから、割り引きも仕方がないかもしれないな……。
「……一時間分でいいですよ」
「ありがとうございます!」
はあ、仕方がないとはいえ、あのおばあさんたちの強さを見習わなければいけないな。




