案件 ぎっくり腰
トゥルルル
「はい、河田です」
『あの、同じマンションの藤崎と申します。503号室です』
「はい、何かご依頼ですか?」
『実は、ぎっくり腰になってしまって……掃除とか身の回りのことをしてほしいんです』
「あの、失礼ですが、ご家族は?」
『男の一人暮らしでして……』
「わかりました。近いですし、とりあえず伺います」
『お願いします』
ぎっくり腰か。俺はなったことはないが、会社の先輩がなって会社を休んでいたな。そんなに辛いものなのだろうか。
503号室。ここか。
ピンポーン
「はい」
「河田です」
ガチャ
「どうぞ」
「失礼します」
藤崎さんはパジャマ姿だった。それに腰に白いものを巻いている。
「ああ、これですか?コルセットですよ」
「あ、そうなんですか。具合はいかがですか」
「いや、一昨日なってね、寝たきりなんだよ。ろくに物も食べてないし……」
え、料理か?あまり得意ではないのだが……。
「あと、掃除をしてほしいんですよね。ホコリがたまっちゃって」
いや、このホコリは昨日今日のものじゃないぞ。ずっと掃除してなかったんだな。
「あの、料理は得意ではないのですが……。掃除くらいはできますが、どうしますか?」
「パンとか買ってきてもらえますか?あと、掃除もお願いします」
「わかりました。そういうことでしたら引き受けます」
とりあえず、すぐに食べられるものを買ってきて、掃除をすればいいんだな。
「では、まず買い出しに行ってきます。掃除道具はありますか?」
「ああ、はい。一通りは」
「わかりました」
すぐに食べられるものか。卵料理くらいはできるからな。パンと卵とハムと……パンと……思い浮かばない。後は米と納豆と……うーんとりあえずはこれだけ買って、また買い足せばいいか。
「藤崎さん、買い物に行ってきましたよ。とりあえず、卵料理を作りますね。それとパンでいいですか?」
「ああ、助かるよ」
俺が食事の仕度をすると、藤崎さんはなんとかベッドから起き上がってきた。腰が曲がってる。辛そうだな。
「ああ、温かい食事はひさしぶりだよ」
「いえ、たいしたもの作れなくて……」
「充分だよ」
次は掃除か。少し片付けが必要だな。
「藤崎さん、本を本棚に並べていいですか?」
「ああ、頼むよ」
「藤崎さんは寝てていいですよ」
「そうさせてもらうよ」
本を片付ければ、掃除機をかけられそうだな。それにしても本が多いな。意外と力仕事だな。
はあ、疲れた。本を片付けるだけで一時間弱か。後は掃除機だな。
「藤崎さん、掃除機かけますよ」
「ああ、はい」
ん?掃除機の中のごみが一杯じゃないか!
「……藤崎さん、ごみ袋ありますか?」
「あ、ああ、そこの引き出しに」
相当掃除してなかったな。とりあえずごみを出して……。
ウィーン
「とりあえず、こんな感じでいかがでしょう」
「助かったよ。明後日またお願いできるかな?」
「ああ、買い出しですね。いいですよ」
こうして二週間弱、藤崎さんの家に通うことになった。その度に少しずつ片付けて、随分部屋が綺麗になった。藤崎さんも会社に行けるようになったし、うん、満足だ。こうして成果が目に見えるのは気持ちいいな。




