案件 紅葉②
バスツアーの朝。
あまり気が進まないなあ。しかし、引き受けてしまったからなあ。
俺は待ち合わせの新宿へ行った。朝の七時に集合とは……早すぎな気がするが、仕方がない。
「あ、木村さん。おはようございます」
「河田さん、おはようございます。私のことは『茜』って呼んでください。それと、敬語もやめましょう」
ああ、友達って設定だったな。
「じゃあいきましょ。河田くん」
河田くん!?いや、落ち着け、俺。友達のつもりなんだ。
早速俺達たバスに乗り込んだ。結構ツアーって人が集まるんだな。バスはほぼ満席だ。行き先は日光。まあ早めの紅葉は見られるだろう。
ほどなくバスは出発した。
「河田くん、日光は初めてじゃないよね」
「ああ、小学校の修学旅行以来かな」
「それなら楽しみね」
「茜さんは……」
「しっ、ちゃん付けにして」
はあ、前途多難だな。こんな会話が一日中続くのか。
「茜ちゃんはいつ以来?」
「高校の卒業旅行以来かな」
「へえ、そう」
「……」
「……」
まずい。会話が続かない。何か会話!
「どうして急に紅葉を見ようなんて言ったの?」
「だって彼が……紅葉なんて面倒くさいって……」
うっ、まずい方向へ。
「ひ、昼メシは何かなあ」
「山菜ご飯みたいよ」
「それは楽しみだね」
そこからはガイドさんの独壇場になった。さすがプロ。人を飽きさせないしゃべりだ。
そして、日光への途中。まずは、野菜の詰め放題だとか。紅葉に関係ないよな。
「河田くん!こんなに野菜が入ったわ!」
「本当だ。凄いね」
木村さんのビニール袋はパンパンだ。でも、朝よりも楽しそうだ。せっかくだ。俺も野菜をパンパンに詰めた。
「河田くんも凄い」
木村さんは笑いながら見ていた。
「せっかくだからな。たくさん詰めてみた」
「あははは!河田くん、面白い」
木村さんの笑った顔を初めて見たな。良かった。
そして、目的地の日光に到着。早速紅葉を見にぞろぞろと移動する。やっぱり東京と違って少し寒いな。
歩いているだけでも、あちこちが色づいていて綺麗だ。ようやく紅葉を見る目的の場所に着いた。そこには真っ赤に色づいた紅葉が、「見てよ」と言っているようだった。
「綺麗……」
木村さんの口から言葉が漏れた。
「……そうだね」
それからお昼に山菜ご飯を食べて帰った。
新宿へ到着して、仕事は完了だ。
「河田さん、今日はありがとうございました。紅葉も見られて、とても楽しかったです」
「それなら俺の方こそ、紅葉を見られて、清々しい気持ちになったよ」
そこで木村さんと別れて家に帰った。
森林浴っていうのかな。たまには自然の中に行くのもいいな。今回の依頼は少し得したかもしれないなあ。




