案件 捜索②
その猫の名前は「梅」と言った。俺は猫の名前を呼びながら、探し始めた。
「梅、エサだぞ」
俺は近所の生け垣や茂みの中、公園の中などを歩いて探した。しかし、見当たらない。仕方がない。聞き込みをするか。俺は道行く人へ聞くことにした。犬の散歩中などのいかにも近所に住んでいそうな人へ聞いて行く。
「すみません、この辺りで、ピンクの首輪をした三毛猫を見ませんでしたか?」
俺は猫の写真を見せながら聞いていく。しかし、誰も知らないようだ。
これはかなりの重労働だな。俺が公園にまたやって来た時だった。
「あれ?河田さん?」
「石川さん、どうしたの?」
「河田さんのところへ行く途中だったんですよ。それなのに、外で会えるなんて……これはもう運命ですね!」
……何の?
「悪いけど、俺は忙しいから……」
「手伝いますよ」
……確かに人手は欲しい。どうするか……。
「河田さん、どうですか?」
「山岸さん、警察へは?」
「はい。今届けてきました。あの、その方は……?」
「ああ、彼女は……」
「河田さんの助手です!」
俺の言葉に被せるように、石川さんは言い切った。ああ、またか。また石川さんのペースに……。
「では、一緒に探して頂けるんですか?」
「?もちろんです」
「河田さん、何を探すんですか?」
石川さんが小声で聞いてきた。
「猫だよ」
こうして結局、石川さんも猫探しに加わることになった。
だんだんと陽が沈んでいく。
「今日はこれくらいにして、明日また探しましょうか」
俺の提案に首を振ったのが、山岸さんだ。
「いえ、猫は夜行性ですし、夜の方が活動するかもしれません。あっ、そうだ!猫の首輪に蛍光のネームプレートが着いています。それが光るかも!」
「わかりました。もう少し探してみます。山岸さんは家に帰って、少し休んだ方がいいですよ。顔色が悪いですし」
「……わかりました。河田さん、どうぞよろしくお願いします」
山岸さんは俺に深々と頭を下げて、帰って行った。
「河田さん、猫の写真を見せてください」
「ああ、これだよ。でも、夜になるし、石川さんは帰った方が……」
あ、でも、石川さんは滅茶苦茶強いんだった。
「私なら大丈夫ですよ」
そうだろうね。
「じゃあ、お願いするよ。網は俺が使うから、君はこのキャリーバッグとエサを持っていって。それと、名前は『梅』だから。後、見つけたら携帯電話に連絡してください」
「えっ、携帯電話の番号を教えてもらえるんですか!?」
しまった!そう言えば携帯電話の番号は教えてなかった。
石川さんは、目を輝かせて聞いてきた。背に腹は変えられない。俺は石川さんと携帯電話番号を教え合った。そして、これからまた猫の捜索開始だ。
「俺は道路の向こう側を探すから、石川さんはこちら側を探して」
「はい!」
それから猫の捜索活動が始まった。猫がいそうな茂みを探すが、中々見当たらない。と思った時、俺の携帯電話が震えた。
「はい」
『河田さん!見つけました!』
「えっ?今どこ?」
『北公園です』
「今から行くから、そこで待ってて」
『わかりました』
本当に見つかったならいいが、違っていたら……とりあえず、北公園へ行ってみよう。
俺が公園に着いた時、、ベンチに座った石川さんがいた。横にはキャリーバッグが置かれている。
「石川さん、猫は?」
「この中です」
石川さんはキャリーバッグを指さす。もう捕まえたっていうことか?
「間違いないの?」
「たぶん……」
いや、たぶんって……。野良猫かもしれないじゃないか。
「野良猫じゃないの?」」
「いえ、飼い猫だと思います」
「どうして?」
「キャリーバッグに自分から入ってきたんですよ」
なるほど。しかし、公園が暗いために、猫の判別がつかない。山岸さんに見てもらうしかないな。
俺と石川さんは、猫一匹を連れて山岸さんの家に行った。
「山岸さん、確認して欲しいのですが」
「梅!」
「みゃー」
山岸さんの声に応えるように、猫が鳴いた。
「うちの梅です!ありがとうございます!」
山岸さんは泣きながら、「梅、梅」と繰り返していた。
「なんてお礼を言ったら良いか……」
「いえ、仕事ですから」
「それでも、すぐに見つけてくださって、ありがとうございました」
俺は山岸さんから報酬を受け取り、家に帰った。そして、当然の如く石川さんが着いてきた。
「石川さん、今回はありがとう。助かったよ」
「いえ、私って動物に好かれるみたいで、野良猫とか寄ってくるんですよね。それが良かったみたいです」
へへっと笑いながら、舌をだす。しかし、そうなると、石川さんがいなかったら見つけ出すのは難しかったかもしれない。
石川さんをバイトとして雇うか……いやいや、簡単に決めてはいけない。そんなことを考えながら、俺は石川さんとお茶を飲んだのだった。




