案件 騒音②
俺はとりあえず、パソコンをネット接続してもらうことにした。
「あの、接続しました」
「では、私が触ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
俺は、某有名ショッピングサイトへアクセスした。「ジョイントマット」で検索するとたくさん出てきた。でも、販売店が違うだけで、大体売られているのは同じようなものだった。友人宅にあったジョイントマットは三十センチの大きさだったが、今は四十五センチのものが主流のようだ。
俺は楠川さんに向かって、パソコンの画面を見せながら言った。
「大体このようなものが多いようですが、いかがですか?」
「こんなものがあるんですね。色違いのものを交互に張るのはおしゃれでいいかもしれません」
「そうですね。こちらですと、滑らないようになっているようですし、お子さんにも良いかもしれませんね」
「防音はどうなんでしょう?」
「そうですね……。こちらだと一センチ以上あるから良いかもしれませんね」
「えっ、どっちがいいんですか?」
「……それは楠川さんに決めていただかないと……こちらが押し付けるわけにはいきませんし」
「……河田さんが決めてください」
「いえ、そういうわけにはいきません!」
まずい流れだな。責任を全て押し付けられても困る。
「とにかく、苦情がこないようにしてほしいんてす」
「……私が決めては、後でトラブルに……」
「文句は言いませんから!とにかく一週間以内にお願いします!」
仕方がない。自分では決められないようだし、時間もないしな。
「では、防音性を重視した、こちらにしましょう。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
ジョイントマットを十二畳分購入して、今日は終わりだ。早ければ明後日には届くだろう。
「マットが届いたら、ご連絡ください。張りに来ますから」
「はい、わかりました」
俺は家に帰り、考え込んでしまった。あれで本当に良かっただろうか。もし難くせをつけられたら、どうするか。それにしても十二畳か。結構時間かかるよな。バイトを募集してみるか。
早速俺は、バイト募集のチラシを作った。あとは、ポスティングして……。
ピンポーン
「はい」
「河田さん、手伝いにきましたよー」
「……石川さん……」
何故こんなにタイミング良く現れるんだ……。仕方がない。今回の依頼も急を要する。石川さんに手伝ってもらうか……。
「河田さん?どうかしました?」
「石川さん、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど」
「はい!やります!」
「まだ説明してないよ」
俺は、楠川さんの家にジョイントマットを敷く話をした。もちろん苦情のことは内緒で。石川さんから承諾を取り付けた俺は、二日後、楠川さんに呼ばれてマットを張りに行った。
なんとか二時間で張り終え、自宅へ戻った。
十日後。
ピンポーン
「はい」
「あ、こんにちは」
「え、楠川さん?どうされました?」
まさか気に入らなかったからとか?
「あの、お礼を……」
「お礼……ですか?」
「はい、下の階の方にマットを敷いた話をしまして、改めて謝りに行ったんです。そうしたら、騒音もなくなって、自分も言い過ぎたと仰ってくださって」
「そうですか。それは良かったですね」
「これも河田さんのおかげです。本当にありがとうございました。これ、私が作ったケーキなんですけど、よろしかったら……」
「ありがとうございます。いただきます」
こうして楠川さんは帰って行った。
誰かに感謝されるっていいな。俺がケーキを持って感慨にふけっていたときだった。
ピンポーン
「河田さん、手伝いにきましたよー」
「……石川さん……ケーキ食べる?」
「えっ、どうしたんですか?」
「楠川さんにもらったんだよ。君も手伝ってくれたし、一緒に食べようか」
「はい!」
なんだか、石川さんがうちのバイトに思えてきたな。俺は石川さんとケーキを食べながら思ったのだった。




