案件 一人息子①
トゥルルルル
「はい、『便利屋KAWATA』です」
『あの、黒木と申しますが、お願いしたいことがあるのですが……』
年上の女性だろうか。落ち着いた声の主は話し始めた。
『実は息子がおりまして、この春に一人暮らしを始めたんです。それで、この間行ってみたら、部屋が汚くて……。私が掃除しようとすると怒るんです。もう子供じゃないって……』
まさか掃除の依頼か?
「今回はどのようなご依頼でしょうか?」
『はい、その息子の部屋を片付けて欲しいんです』
「でも、息子さんはそれを望んでいらっしゃらないのではないのですか?」
『いえ、私に触られたくないだけで、同性の方なら大丈夫だと思います』
「ご依頼を受けることは可能ですが、息子さんが家に入れてくれなかったらどうしますか?」
『それは息子に伝えておきますから大丈夫です』
本当に大丈夫だろうか。一応保険はかけておくか。
「そうですか。息子さんはおいくつですか?それとどの程度の片付けが必要ですか?あともうひとつ、もし息子さんが私を拒んだ場合でも、出張費はいただくことになりますが……」
『わかりました。お金に関しては構いません。息子は大学一年生です。片付けですが、とりあえず、床が見えるようにお願いしたいです……』
それはつまり、足の踏み場もないということか……。
「部屋の広さはどのくらいですか?」
『1DKになります』
二部屋か……。
「今のお話しですと、三~四時間はかかると思いますが、一度伺って見積りを出しましょうか?」
『いえ、そのくらいでしたら構いません』
「でも、延長の可能性もありますが……」
『一~二時間増えても問題ありませんので、お願いします』
「わかりました。いつにしましょうか」
『出来れば早いうちに……』
「明後日の日曜日はいかがでしょうか。それとご本人にも立ち会ってもらいたいのですが。捨てるものと捨てないものの分別もありますし。それと、ごみが多く出るようなら、産業廃棄物の業者に来てもらって、それはまた別料金になりますが大丈夫でしょうか」
『わかりました。明後日で息子に伝えておきます。ごみは……結構出ると思います。それでもお願いします』
「ご都合の悪い場合は、明日までにご連絡ください」
『はい、よろしくお願いします』
ごみ屋敷の清掃か。いや、片付けと言ったな。とりあえず産業廃棄物の業者に連絡して、あとは、助手が欲しいな……。しかし、今からバイト募集してもなあ。
ピンポーン
「はい」
「河田さん、手伝いに来ましたよー」
「……石川さん、だから頼んでないって……」
いや、待てよ。この際バイトとして今回だけ雇うか。女性ならではの視点もあるかもしれない。
「河田さん?」
「石川さん、明後日空いてる?」
「空けます!河田さんからデートのお誘いだなんて……」
何でそうなる!?
「いや、仕事を手伝ってもらいたいんだ。もちろんバイト代も出すから」
「雇っていただけるんですか!?もちろんやらせてもらいます!」
「いや、とりあえず、単発の仕事なんで……」
「それでもいいです!どんな仕事ですか?」
「部屋の片付けだよ。女性目線でのアドバイスが欲しいんだ」
「任せてください!自分の部屋は汚いですが、人の家なら大丈夫です!」
えっ?その自信はどこから?しかも自分の部屋が汚い?これは人選ミスかも……。
「えーと、やっぱり石川さんはバイトには向かないかも……」
「大丈夫です!やらせてください!」
うーん、背に腹は変えられない。仕方がない。今回は石川さんに頼もう。




