案件 恋人②
これは打ち合わせが必要だな。
「それで、どういった服装なのか、あと恋人として出るには、それ相応のことを教えて頂きたいのですが」
「そうですね。私の友人も行くので、私と親密になってください!」
「……」
それは何かが違うぞ。気を付けなければ!
「そういうことではなくて、どこで出会ったかとか、そういった内容を決めておかないと」
「え?あ、そうですね。じゃあ、電車の中で痴漢から助けてもらったっていうのはどうでしょう!?お互いに一目惚れです。素敵……」
「……」
自分の世界に入ってしまったな。夢見る女性……いや男なんだな。
「……まあ、それでいいのなら……それに最近出会ったことにすれば、お互いをあまり知らなくても支障はありませんからね」
「あ、一つ決めておかないと」
「何ですか?」
「私は下です」
ぶほっ
俺は思わずお茶を吹いてしまった。
「だ、大丈夫ですか?でも、大事なことなので……。私は受け身で、河田さんは上っていうことで……」
それが大事なことなのか?よくわからないが、話を合わせるしかないだろう。
「……それで服装はどうすればいいですか?」
「河田さんはスーツで来てくだされば大丈夫です」
「わかりました」
「待ち合わせて、手を繋いで行きましょうね!きゃっ、恥ずかしい~」
いや、恥ずかしいならしなくてもいいのでは?
「それは必要なことですか?」
「恋人同士ですよ!必要です!」
何やら胡散臭いが、関わったことのない世界だ。言うことを聞いておくしかないだろう。
「わかりました。では、明日待ち合わせましょう」
「はい!楽しみにしています!あ、私のことは薫子と呼んでください」
「……偽名ですよね」
「ペンネームのようなものです」
そして翌日、俺はスーツを着て待ち合わせ場所である駅へ行った。すると、人混みの中、一番目立っている男がいた。女装した薫子である。周囲の人たちがひそひそと話しているのが聞こえてきた。
「やだあ、あれって男よね」
「うわあ、よく恥ずかしくないよね」
薫子を笑い者にして立ち去る人たち。俺はムッとした。自分の好きな格好をしているだけじゃないか。俺は薫子に向かって声をかけた。
「薫子さん、待たせて悪かったね」
「河田さん!」
「さあ、行こうか」
俺は薫子に手を差し出した。薫子はそっと手を添えてきた。
「え~、男同士のカップル?」
後ろでひそひそと声が聞こえる。心持ち、薫子が下を向いた。
「あんなの気にすることないよ。誰かに迷惑かけてる訳じゃないんだから」
「河田さん……」
そして、パーティー会場に到着し、無事に仕事を終えた。
「じゃあ、薫子さん、お元気で」
「河田さん、私、河田さんが好きです!」
「……ごめん。俺にはそっちの趣味はないから」
「……わかってます。でも、駅で言ってくれたこと、本当に嬉しかった」
「当然のことを言っただけですよ。これからきっといい出会いがありますよ」
「……そうですね。今日は本当にありがとうございました」
こうして俺は家路に着いた。なんとか仕事はこなせたかな。でも、同性同士のカップルってあんなにいるんだな。何はともあれ、無事に終わって良かった。




