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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第一章 新生ドラグニルと運命の出会い
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初会話(物理)

暴力的シーンはサクッと終わります

男たちは戸惑う。


目の前にただ佇んでいるだけの一人の男に。


いざ村を襲い、金を奪い食糧を漁り女を犯そうと意気込んでいたのに、物陰からひょっこりと現れたたった一人の男に手が出せずにいる。


その理由は簡単だ。



銀髪碧眼。



月明かりの下でもはっきりと見えるその容姿が、男たちの動きを止めている。


この世界の人間なら誰しも知る、お伽噺のような実話、それに出てくる名高い英雄にして気高き種族、ドラグニル。竜の血脈、実在する神話、生きた伝説。人が相対するなど烏滸がましく、目を合わせることすら無礼にあたる。


そんな数々の逸話と伝承がまことしやかに囁かれ、一生に一度会えたなら、その後の人生は豊かになるとすら言われている希少種。事実、ただでさえ数の少ないその種族は、人の立ち入れぬ危険な地域にしか住んでおらず、その姿を見ようと思ったならば、数多の魔物を斬り払い足元の不確かな危険地帯を踏み越え、幾日もの精神を擦り減らす日々を越えてゆかねばならない。


そんな、決して出会うことなどないだろうと思っていた存在が、今、目の前に居る。


何度も目を疑った。だが、何度確かめても変わらない。あの銀髪碧眼は、ドラグニル以外には有り得ない特徴だ。


「一度だけ警告するぞ、「ニンゲン」、大人しくこの場から失せろ。俺の手を煩わせるな」


あまりに傲岸不遜な物言い。だが、それが許されるのがこのドラグニルという種族。


男たちは、何も言うことも、動くことすらままならぬ状態で、固まっていた。












ゲオルグは、出来るだけ傲岸不遜な言い方を選んで警告した。


それが、この世界での人間とドラグニルの正しい立ち位置に基づく言い方であると知っているから。出来れば暴力沙汰は避けたい。それは、優しさや甘さではなく、ただ偏に面倒であり詰まらないからだ。


この人数差でも、否、たとえ100倍の人数差でも、ワンサイドゲームにしかならないと知っている。誠に腹立たしい事だが、人を殺すことに対する忌避感や嫌悪感も削り取られているらしいこの身ではあるが、ただの面倒事ならば出来れば避けたい、という思いは恐らく人間の頃からのものだ。


「どうした、返事も出来ないか、ならばせめて行動で示せ愚か者。失せるか殺されるか、簡単な二択だろう」


鼻で嘲笑するような物言いに、何人かの男が顔を紅潮させたのが分かった。


これが、人間の面倒なところだ。野生の動物や、あるいは高位種であるならば、彼我の実力差を感じた瞬間に行動に移す。本能に基づく、所謂「闘争か逃走か」と言われる二つのどちらかを選択する。だが人間は、無駄に考える。それは例えば打算であったり、何かを守ろうとするためだったり、或いは下らないプライドや名誉だとかに捕らわれてだったりと様々だが、ことドラグニルに対してそれがそもそもの失敗、間違いであるし、まして考えた末の行動までもが誤りであったならば、目も当てられない。


そう、目の前のこいつらのように。


「はったりだ………幻術か何かに決まってる」


「そ……そうだ…そうだ!!こんなところにドラグニルなんぞいる訳ねえんだ!」


「は!!脅かしやがって、よっぽど酷い目に遭いたいらしいな」


現実逃避、少なくとも、ゲオルグにはそうとしか見えなかった。


「そうか、抗うか、ならば是非もない。さっさと来い」


腰の剣は、無論抜くまでもない。男たちは全員が短剣や片手剣を手に持っているもとから、恐らく魔法を使える者もいないだろうと判断した故だ。


ゲオルグは右手で男たちを招くような動作をする。それが余計に癪に障ったのか、気勢を上げて突き進んでる人間の群れ。


そしてその群れの中心を、一陣の暴風が吹き荒れた。


言葉にすればそれだけだ、敢えて詳細に表現するならば、盗賊のど真ん中に飛び込んだゲオルグが、縦横無尽に拳を振るった、ただそれだけの事ではあるが、人の目には捉え切れぬ動きから繰り出された拳は最早凶器の域であり、その結果。


「………殺り過ぎちゃいました?」


ある者は首があらぬ方向を向き、ある者は口から血を流し、またある者は折れた剣の刃が首に突き刺さり………


生存者ゼロである。


「手加減とか、これまでの人生でしたことないし、そもそも喧嘩をろくにしたことないし………しょうがないよな」


そう自分に言い聞かせて納得する。そこに罪悪感や良心の呵責などがないことには気付けていないのが、唯一の救いか。


「こ………これは………」


ふとそんな声が聞こえて振り向くと、そこには壮年の男が顔を真っ青にして立っていた。いや、その男一人ではない、他にも何人かの男達と、少年とも言える者達が物陰から覗くようにこちらを見ている。


まあ、あれだけ騒いだのだ、然もありなん。


ゲオルグは体ごと向き直り。


「騒がせて済まん、俺はゲオルグ、ゲオルグ・スタンフォードという。ドラグニルと呼ばれる種族だ」


ゲオルグのその言葉に目を見開く者や、気を失ったように倒れこむ者を見て。


<あぁ、これミスったかも?>


などと一人、暢気に考えていたゲオルグだった。

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