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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第五章 北の大地と来訪者
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大移動

「兄さん」


「あぁ、そうだな、そろそろ始めよう」


フェリスの次を促す言葉に、ゲオルグは頷きながら答える。


そして、風魔法を行使して辺りに強風を吹かせた。当然、舞い散る埃や塵に集まっていた亜人達は腕で目を庇うような動作をする。そしてその間に土魔法を行使して、地中に隠していたニーナ、ケイル、そして警衛隊のメンツを地上に戻した。


手品のような登場劇。最初は地中に埋められると聞いて抵抗感を示した面々だが、人間に見られない一番簡単な方法がこれだったのだ。まさか視界にも入らない程の遠距離に隠れておかせる訳にもいかないし、かと言って総勢40名以上のフードで顔を隠した集団というのも少し嫌だったのだ。しかも警衛隊のメンツに至っては武装しているため、人間に無用な警戒心を抱かせる可能性もあった。


そう言った理由をしっかり説明して、渋々ながらも彼らは協力してくれた。まぁ、ゲオルグでも突然「地面に埋まっててくれ」などと言われたら正気を疑う。とは言え、これだけの人数を御して街まで安全に連れて行くのは中々難しい。ゲオルグの正体を見せた上でも、空に持ち上げられた際に狂乱されては手が届かない可能性もある。例え落ちても助け出す自信はあるが、万が一ということもある。前回程度ならば問題ないが、今回はその3倍以上。故に、移動の際には警衛隊を分散配置し、そう言った事態に備えて貰う事にしたのだ。ニーナとケイルはついでである。


「な……じゅ…獣人?」

「剣を持ってる…?」

「それにあの服と鎧…」

「あの二人はエルフだよね?」

「綺麗な服を着てる……」

「頬もやつれてないし…良い物食べてんのかな…」

「髪も綺麗……」


風が止み、再び目を開けると、そこには整然と並ぶ警衛隊の獣人達に二人のエルフ。我が目を疑うように瞬き、そんな声を口にする彼らの表情は、一様に驚きに満ちていた。


ゲオルグはその様子に満足そうな様子を見せ、そしてフードを取りながら話し出す。


「諸君、初めましてだな。俺はドラグニルのゲオルグ・スタンフォードだ」


その容姿と言葉にざわつく聴衆。


「後ろに控えているのは我らが街の住民達にして我が家族。そして諸君らの先達となる者達だ。諸君らはこれより、我らが街に暮らして貰いたい。そこには人間はいない。いるのは諸君らと同じ、つい最近まで人間達に不当に虐げられていた者達だけだ。そこで諸君らには、文字の読み書きと四則演算…足し算や引き算のことだな、これを学んでもらい、ゆくゆくは街の生産を、経済を、平和を支えて貰うようになる」


そう言うと、聞いていた者達は様々な反応を示した。


「嘘だ…」

「そんな良い話がある訳……」

「俺たちみたいな亜人だけの街…」

「で…でも本当だったら……」

「私たちが私たちで発展させる街?…」

「夢みたい…」


やはり、中には懐疑的なことを考える者もいた、しかし。


「嘘ではありませんよ」


「如何にも、我らこそがその証」


「今この場に居る我々は、皆ゲオルグ様にお救い頂き、こうして君らの前に堂々と立つことが出来ている」


「俺たちはあの街で、学を修めやりたい仕事をして一人の生きる者としての自由が与えられている」


「自由には義務が伴う、しかし、それと同時に権利を保有する。その最大の権利は、健康に、好きなものを好きと言い、嫌いなものは嫌いと言い、法に定められた範囲で自由に生きること。そして、我らの街では獣人であろうがエルフであろうがドワーフであろうが、傷つけることが禁じられている」


「それを犯すものは我ら警衛隊が捕え処罰することになるがな」


「この剣と鎧もゲオルグ様に賜りし物。我らを信じ、我らを助け、我らが忠義を疑わぬ、尊きお方だ」


「無理に信じろとは言いません。しかし、せめてその目で、耳で、確かめて欲しいのです」


「その後で、我らの言葉が偽りであったと言うのなら、この首を差し上げよう」


「どうか、我らと我らの主を、信じて欲しい」


現住民達による説得、少々、新興宗教のような気配を感じたが、ゲオルグは何も言わない。国家が興る理由として、そういった例はいくらでもあるし、実際に来てもらってしばらく生活して貰えれば、宗教的な集団ではないと理解して貰えるだろうと思ったからだ。


そして、やや間があってから。


「………俺は行く」

「…そうだ、な。ここに残ったってどうにもならないし」

「今より酷い生活なんて、そうそうないでしょ」

「希望があるなら…私はそれに賭けたい」

「亜人だけの街、私達の街…」

「それに、ドラグニルが俺たちを騙す意味がねぇ」

「だな、その気になれば問答無用に連れてかれてる」

「信じて…みよう?」


前向きな言葉。積極的に、とは言い難いが、それでもその言葉を引き出せたなら、それは大きな前進だった。


「諸君、意志が固まったなら、最早言葉は必要あるまい。これから諸君らを我らが街へ連れて行くが……止めはしない、行きたくない者があれば素直に言ってくれ。すまんが、近くの街などへ連れて行く余裕はないが、少なくとも今この場で自由にしてやろう」


ゲオルグのその言葉に、幸いなことに誰も立ち去りはしなかった。


「………あい分かった。では、これより街へ案内しよう」


そこで一度区切り、そして、いつものあのセリフ。


「さて諸君、空を飛んだことはあるか?」


その言葉に、フェリスは呆れ、現住民達は苦笑いを浮かべ、新たな住民候補たちは困惑の表情を浮かべる。


ゲオルグはそんな周囲の様子に満足気に頷き、そして魔法を行使するのだった。


相も変わらず、この瞬間だけは悪戯好きの悪童のような表情を浮かべるゲオルグ。しかし、毎度必ず成功するこの悪戯はゲオルグの特に好きなことである。これは、これから幾度も行われ、そしてガルディナの歴史書にも後々記載される、「ガルディナ王国始祖の奇跡の悪戯」などと呼ばれるようになる。


後世にすら残される悪戯は、今回も大成功を収めた。







ガルディナの街に、新たな息吹が訪れた日である。

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