国の宝、国の未来
ようやく復帰です。
お休みの間、感想を頂きましてありがとうございます。少しずつ返信させていただきます。
街で初の結婚式が行われはや一年近く、新住民を受け入れてからもう一年半にもなる。
街は、500を超える人口となったばかりの頃とは違った賑わいを見せていた。生活が落ち着き、食糧、衣服、医療、様々な面での進歩が見られ、今ではゲオルグが直接関わるような仕事も大分減った。
畑や果樹園は順調に拡大し、現在の人員では精一杯だろうという規模に。家畜も数が増え、今は羊の乳や牛の乳を使った乳製品の生産にも取り組み始め、馬も子供が出来、物資の移動には馬車を使うようにもなった。
そして衣服だが、これは素材自体は変化がないものの、森の中から手に入れた染料となる花などが今は栽培され、また職人達の技量も大分向上したため、今は個人が意識してお洒落を楽しむまでになった。まだ色自体はそう多くはない、赤、青、緑、黄色くらいだが、それでも素材の色一色よりはかなり進歩したと言えよう。
医療については、以前発足した医療研究会が様々な検証をした結果、人間と同じ要領の治療で亜人も治療が出来ると判明した段階で、正式に医院として活動を始めた。薬草なども医院の裏庭で栽培され、軽い怪我や風邪くらいではゲオルグを頼らなくなってきたところだ。
その他にも水産業では船の配備が増え、定置網などによりそれなりの漁獲高を上げ食卓に彩を増やしたり、鉄工業では産出した金や銀を使った細工、また、貨幣の製造も始まった。
結婚する者達も増え、最初の結婚式から今までで10組以上が式を挙げた。集会所と呼ばれていた建物は今や正式に婚礼場などと呼ばれ、教会ならば十字架などが掲げられているであろう場所には、竜の石像が建てられていた。
竜の前での誓いを破ればその吐息に灼かれて滅ぶ、などと言われているようだ。
断じてゲオルグは炎など吐けないが。
とにかくそうして、今この街は安定期に入ったとも言える状況である。そんな中、ゲオルグの元に嬉しい知らせが舞い込んできた。
「なに?産まれた?」
「はい、元気な男の子だそうです」
「そうか……それは目出度い。後で顔を出そう」
ルガとシェリルの間に子供が産まれたと、ニーナから教えられたのだ。
「フェリス、ここの視察が終わり次第、二人の元へ行くぞ」
「はい!!」
今二人は、鉄工業の中から分派した宝飾技術部門に顔を出していた。金や銀を用いた指輪、ネックレス、ブレスレットなどの製造をしている。これらはまだ街に流す訳にはいかないのであまり大量に作っても困る、という訳でもない。これらは次の取引に利用する手はずとなっており、馬車にして2台分ほどは製造しても構わない、と言ってある。
「それにしても……子供か…」
ゲオルグが感慨深く呟く。
「何か思う所でも?」
「いや、子供こそがこの街の未来、宝だ。だが今まではそれが居なかった、それに少々危機感を抱いたこともある。だが、今日ようやくそれが払拭されたんだ、嬉しく思いこそすれ、それ以外の思いなどあろうはずもない」
「左様にございましたか…」
「そっか……そうだよね。私も、早く二人の子供を見てみたいな」
ゲオルグの答えに、ニーナとフェリスがそれぞれ返す。そう、子供こそが将来のこの街を担う存在。今ここに居る者たちが切り開き、作り上げた物を更に豊かにし、発展させ、未来へと繋ぐ架け橋。それが、一人とは言え漸く産まれたのだ。
「我々の世代で産まれた子供達には、自らの夢を描いて貰いたい。誰かの語る夢に同調するのでなく、自分で描き自分で努力し自分で勝ち取った理想の自分になって貰いたい……」
「ゲオルグ様…」
「兄さん…」
ゲオルグの独白、それは、ともすれば自らを責めるような言い方である。
確かにここにいる者達は、以前と比べれば格段に良い生活を送っている。しかし、その裏でゲオルグは、自分の理想を築かんが為に、今居る者達に犠牲を強いているのではないかと思うことがない訳でもない。
「いかんな、少し湿っぽくなった。さぁ、さっさとここを見て回って子供を見に行こう」
そう振り返りながら言ったゲオルグの表情は、いつもと変わらぬ優しい笑顔だった。
「おぉ、これが二人の子供か」
「可愛いぃ……」
ゲオルグとフェリスは、視察を終えて早速ルガとシェリルの家に訪れていた。
「まだ生まれて間もないですから……あまり、刺激なさらないで下さいね?」
「ん、分かっているさ」
「う~ん……また今度、抱っこしにきてもいいかな?」
シェリルがやや興奮気味な二人を、苦笑しながらたしなめている。彼女自身もまだベッドから起き上がれないようだが、やはり母はいつの時代も強いものなのだろう。
「ゲオルグ様、俺はこの子に、ガルシェって名前を付けました」
「ガルシェ?…そうか、二人の名からか」
「えぇ、この子は俺たち二人の宝もんですからね。それに長男ってことはいつかこの家を守って貰わなきゃいけないですしな」
横に立ったルガが、表情を綻ばせながら我が子の名をゲオルグに教えた。その顔は先程から緩みっぱなしで締まりがないが、まぁ致し方ないことだろう。
「そうだな、この子は、いや、これからこの街に産まれてくるだろう子は全て、親の宝、皆の宝、この街の宝、そして未来だ。必ず守らねばならん。故に、何か問題があったなら迷わず俺に相談して構わん。いつでもとは言えないが、必ず力になろう」
「は……はい!!ありがとうございます!!」
「ん、では、そろそろ失礼させて貰うか」
「えぇ~…もうちょっと見ていきたいです」
ゲオルグが帰る旨の発言をした途端、不満を露にするフェリス。よほど赤ん坊に対する興味が強いのだろう。
「フェリス、シェリルもまだ疲れているだろうし、何より親子3人の水入らずを長々と邪魔するものではない」
「う~……そうですよね。分かりました、それじゃあルガさん、シェリルさん、失礼します。それからガルシェ君、またね」
眠っている子を起こさぬように小声で挨拶し、シェリルとルガもそれに同じように応えた後、二人は家を後にした。フェリスはガルシェの寝ている部屋を出るまでずっとその寝顔を未練たらしく見ていたが、家を出ると諦めてゲオルグの隣に収まった。
「ねぇ兄さん」
「ん?」
「私も子供が欲しい」
爆弾発言である。
「………そうか」
ようやくそれだけ絞り出した。よく考えて見ればフェリスももう16歳にもなるし、ここ最近で体も大分成長してきている。少女だった頃の面影もまだ残っているが、女としての部分の成長も明らかであるし、なにより以前に比べて肉付きがよくなり血色も良好、綺麗で溌剌とした印象の虎娘になっていた。
<年齢的にはもう色恋沙汰があっても可笑しくないか……>
そう、普通このくらいの歳にもなれば、現代日本でも普通に恋愛に夢を抱く頃だ。今までは忙しさにそんなことは考えてこなかったが、そろそろそっち方面も考えるべきである。
「まぁ、まずは相手を探すところからだな。見つけたら連れてこい」
「……うん」
とりあえず当たり障りのない言葉を向けると、なにやら気の抜けたような表情でゲオルグを見つめるフェリスがいた。
「………どうした?」
「……ん~…なんでもない」
「…?……ならいいが」
「へへ~……兄さんっ」
一瞬考えるような表情を浮かべたかと思えば、突然笑顔を浮かべてゲオルグの腕を取るフェリス。
「なんなんだ急に」
「べっつに~」
「………全く」
呆れたような表情を浮かべながらも、その腕を振りほどくようなことはしないゲオルグ。
ニコニコと鼻唄を歌い歩く上機嫌なフェリス。
兄妹のような、親子のような、あるいは恋人のような不思議な雰囲気を纏いつつ、二人は仕事へと戻るのだった。




