結婚式 弐
作者がインフルエンザにかかった模様
なけなしの気力で書き上げたお話です。日間ランキングも大分落ち着いてきたので、12日か13日頃までお休みを頂くかもしれません。
それと、PV200万!!ユニーク12万!!本当にありがとうございます!!
そして、急遽決められた結婚式の当日、街の集会場(教会もどき)には、およそ50名弱の人の姿があった。
その中央には主役の狼人族の男「ルガ」と、兎人族の女「シェリル」。二人は各々の職場の仲間や、今回はどうにか休みを合わせられたニーナ、そしてゲオルグに先んじて来ていたフェリスなどから祝福の言葉を掛けられているようだった。二人とも、普段着る簡素な麻単一の服でなく、綿で出来たちょっとフワフワした服で着飾っていた。恐らく、ニーナが気を利かせて繊維加工業の連中に作らせてみたのだろう。
「ルガ、シェリル」
ゲオルグがその人垣の外側から声を掛けると、気付いた人々がサッと道を開けた。そして目を輝かせるようにしてゲオルグの開始の合図を待っているようだった。
「これはっ!……ゲオルグ様!」
「見てください!!こんなにも沢山の人が来てくれました!!」
尾を激しく振りながら意気込むルガに、その長い耳をピンと立たせて興奮を隠しきれぬ様子のシェリル。その様子を見て、ゲオルグは朗らかな笑みを浮かべながら応じる。
「ん、今日は天気も良い。外を見てきたが、もう食事会の準備もほぼ終わっているようだな」
今回、式自体は手短に終わらせ、その後に参加者全員で集会場外で食事でも摂ろう、と言い出したのはゲオルグである。食料も大分余裕が出てきたことだし、街で最初の結婚式くらいは多少派手にやってやろう、そして、全員とはいかないがせめて今日余裕のある者だけでも日頃の苦労を労ってやりたいという思いからである。
「はい!!皆が食材を持ち寄ってくれて……俺、こんなに贅沢な食事を見るのは初めてで……こんなに幸せでいいのか…」
感極まったその瞳を滲ませるルガに。
「わ…私も、同じ思いです。ルガとのことを皆に祝福して貰えただけでもこんなに嬉しいのに……ゲオルグ様にもこんなに気を使って頂いて…」
堪えきれずに涙を溢すシェリル。本当に幸せそうなのが、ゲオルグにも確かに伝わってきた。
「そうか…それだけ喜んで貰えたなら、俺も何も言うことはない。さぁ、では始めようか!」
「「はい!!」」
ゲオルグの一言に、その場にいた人々は集会場内の椅子に着席し、主役二人は教会で言うバージンロードの先に並んで立つ。そこには、腰ほどの高さの記帳台が二人の反対側を向くように置かれており、そしてゲオルグはその対面に立ち、ゆっくりと開始の言葉を告げる。
「それではこれより、狼人族のルガ、並びに兎人族のシェリル、この両名の結婚式を執り行う」
ゲオルグの厳かな宣言に、会場は一気に静まりかえる。それを確かめてから、ゲオルグは言葉を続けた。
「ルガ」
「はい」
「汝はその終生に於いて、シェリルを愛し、敬い、慈しみ、シェリルの愛を疑わぬことを誓うか?」
「…はいっ!誓います!」
「ん、よろしい」
ここまで来て緊張がピークに達したか、いよいよもって涙を堪えきれなくなったルガが鼻をすすりながら答え、それを聞いたゲオルグは今度はシェリルに向き直る。
「シェリル」
「は…はい!」
「汝はその終生に於いて、ルガを愛し、敬い、これを立て、ルガの愛を疑わぬことを誓うか?」
「はい…はい……誓い…誓います!」
「よろしい」
涙と嗚咽の堪えきれぬシェリル。両名の誓いの言葉を聞いたゲオルグは、更に言葉を続ける。
「愛は寛容にして情深く、また、妬まず、高ぶらず、誇らず、利益を求めないもの。愛する者のため、全てを耐え、忍び、信じることを、今二人はここで誓った。その誓いの証人はここにいる皆であり、私である。これに相違がなくば、これに署名を」
そう言って、用意していた誓約書と二本のペン、インク壺を記帳台の上に置き、それを二人へと向けた。二人はそこに置かれたペンを震える手で取り、先ずはルガから署名をする。
「……は、はは、震えて…上手く書けねぇ…」
ルガは空いた手でペンを持つ手を支えるように持ちながらなんとか書き上げ。
「本当に……一番最初に…何度も練習した字なのに……」
シェリルは片手で溢れる涙を拭いながら、ようやく書き上げた。
それを確認してから、ゲオルグは深く頷き、署名された誓約書を手に取り宣言する。
「ここに両名の誓約は成った。ここに居合わせた者はその全てが証人であることを認め、ゲオルグの名の元にこれを受け入れよう…さぁ、二人が家族となった証に、二人の家名を決めると良い」
元々名を持たない亜人達は、ここに来た時に好きな名を名乗ることを許されている。しかし、姓まで名乗る者は誰も居なかった。別にゲオルグが制約した訳ではなく、ただ姓とは貴族や王族でなければ許されないという固定概念があったからだ。
だが、その下らない常識も、今、ここになくなろうとしていた。
「「………」」
だが二人は、顔を見合わせ言葉を発さない。どうしたものかと尋ねようか、とゲオルグが考えた時、二人はようやく口を開く。
「我々の家名は……」
「ゲオルグ様に、頂きたいのですが…」
目を真っ赤にした二人が、そう告げてくる。
「俺が?」
「はい…我々には勿体ないこととは思いますが、今こうして晴れやかな気持ちでこの場に立てているのも……すべてはゲオルグ様のお陰です…」
「そのゲオルグ様に、家名を賜ることが出来たなら…私たちは先の誓約をより深く誓えると、そう思うのです」
「ふむ…」
ゲオルグは悩んだ。家名を、などと言われても、どんな基準でつけるべきかイマイチ分かっていないからだ。だがしかし、この場でこれを断るのも申し訳ない、ゲオルグは必死に記憶や知識を探り、そして口にする。
「……フォールティア」
「「フォールティア…?」」
「あぁ、勇気を意味する言葉だ。今、二人は一つの常識を打ち壊した、その勇気を讃え、この姓を贈ろう」
Fortia、ラテン語で勇気。現代の知識から引っ張り出した言葉だ。偉人の名言や格言などをよく調べていた時期(詳しくは語れない)に、たまたま見つけたワードだった。
「ゆ…勇気…」
「あ…ありがとうございます!」
「うむ、ではこれにて、ルガ・フォールティア。並びにシェリル・フォールティアの結婚式を終わる。皆、二人の新たな門出に力の限りの祝福を!!」
ゲオルグがそう締め括ると、聴衆は一斉に立ち上がり盛大な拍手を二人に贈る。どこからか花まで飛んできている。その様子にようやく泣き止んだ二人がまた泣き出し、そして周囲にからかわれ、その場を後にする。
「結婚か……いつかは、俺もするのだろうか」
一人残ったゲオルグはそう小さく呟く。今頃、外では料理を作り待っていた者たちが二人を出迎え、盛大な披露宴になっているだろう。そんな幸せそうな光景を思い浮かべると、なんとなく羨ましい気持ちになるゲオルグだった…
「結婚かぁ……私も…してみたいなぁ……兄さん…」
その頃、外で人の輪から外れたフェリスも、そんなことを一人溢していたとか。




