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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第四章 国家となるために
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結婚式 壱

日間一位から四位にやっと下がったなぁ、と思えば週刊一位、本当に何事ですか……


ちなみにゲオルグさんは仕事ばかりに生きて婚期を逃す男街道全速前進中です。

あまり寒さを感じぬ冬が終わり、新たな年が明け、もう春になろうかという頃、街に目出度い出来事が起こった。


「ゲオルグ様!!俺……俺…この娘と結婚します!!」


「私!!この人と結婚します!!」


「お…おう、そうか……」


朝、いつものように屋敷をフェリスを伴って出たところを、狼人族の男と兎人族の女に強襲されたゲオルグ。あまりに突然な出来事に、面食らってまともな返事が出来ていない。


「つつつつきましては!!げ、ゲオルグ様に何か御一言賜れたらと思いまして…」


「こ、こうして朝早くから、無礼を承知でご挨拶に伺いました!!」


顔を真っ赤にしながら、言葉を詰まらせ、必死にそんな言葉を向けてくる二人に、ようやく状況整理が追い付いたゲオルグが返答する。


「そうかそうか……ん、おめでとう。我が街で初の夫婦か……これは、なんと言うか、筆舌に尽くし難い思いだ。二人の幸せを心から祈り、この目出度い門出を祝福させて貰おう」


「おめでとう二人とも!!末長くお幸せに!!」


ゲオルグとフェリスが交互に祝いの言葉を口にすると、それを受けた二人は顔を見合わせ表情を綻ばせた後、揃って「ありがとうございます!」と、元気に礼を言ってきた。


「ん……して、式はいつ挙げる?」


「え?……し、式…ですか?」


ゲオルグの何気ない質問に、男が首を傾げた。

ゲオルグは知らなくとも無理はないのだが、この大陸ではまだ結婚式というのは一般的ではなく、王候貴族でもない限りそんなものは挙げない。多くの庶民は、夫婦で教会に赴き洗礼を受けたり、あるいは身内だけを集め軽い食事会がてら報告だけで済ませる、というのが当たり前である。


まして、ついこの間まで家畜として人権すら有していなかった亜人達に、そのようなものとの縁があるはずもなく。結婚そのものも、ゲオルグがしばらく前に発布した簡単な法の中に書かれていなければ、しようとも思わなかったかもしれない。制度としてではなく、ただお互いの気持ち一つで一緒になる、ということだ。


ちなみに、ゲオルグが決めた結婚に関する法は以下の通り。


1・婚姻は双方の合意に基づくものでなければこれを認めない。

2・婚姻に至った場合には家名無き者はこれを名乗る事を認め、以降子々孫々に継ぐものとする。

3・家名を持つ者同士の婚姻に於いては、双方協議のもとに夫、あるいは妻側どちらの家名を継ぐか決めること。

4・又、婚姻関係が破綻したと認められた場合、その破綻原因と責任を有する者の意思に拠らず婚姻の解消を認める。

5・婚姻の解消に至った場合、家名は元に戻り、又、子供が居る場合にはその親権及び養育負担の割合は双方の協議、あるいは第三者を含む調停により決定するものである。

6・子供の養育義務は親子関係が明らかな場合に限り発生し、不貞を為し親子関係の証明が出来ない場合にはこの義務を負わないものとする。

7・婚姻に必要な誓約書は、婚姻する両名が直筆で署名した後、産業長官、或いは工業長官への提出を行うこと。


以上の7項目である。結婚する者は上記の第7項以外が記された誓約書に署名することで婚姻成立となり、上記に反する行動があった場合にはこれまたゲオルグが定めた「第3級罪・詐欺行為」に該当し、髪を全て剃った上で二日間、罪状の書かれた札と共に広場に晒されるという罰が待っている。離婚する場合には、まず双方の合意の上でその時の(現在ならニーナかケイル)産業長官か工業長官に申し立て、ゲオルグの手元に送られている誓約書を返還された後に、申し立てを行った両長官どちらかの前で焼却することで成立となる。


ちなみに犯罪は第1級から3級までであり、1級は殺人、放火、強姦などがこれにあたり死罪。2級は傷害、恐喝等で街からの追放。3級は窃盗、詐欺等の他者の心身を脅かさぬものである。これらはあくまで目安であるが、文章として明確にしておくだけで大分違いが出る。実際、証拠や証言で情状酌量や厳罰化なども有りうると最後に書かれている。


まぁそれはさておき、とにかく獣人達にとって結婚式というものはあまりにも馴染みがない、故にこの反応である。


「ん?…挙げないのか?」


「えぇと…」


「私達、これから誓約書に署名して、それで終わらせるつもりだったのですが…」


「兄さん、結婚式って、普通は挙げないみたいだよ?」


三者の反応に、ゲオルグは怪訝な表情を浮かべた。一生にそう何度もないイベントを、そんな味気なく済ませていいのかと思ったからだ。


「それはいかん、何のためにあんな物(教会もどき)を建てたと思ってる」


実際には現在、雨の日などに住民の憩いの場となっているが。


「どんなに質素だっていい、誰かの幸せを皆で祝う、その気持ちを育み大事にして貰いたい。それに、ここの者は皆家族、家族の幸せを祝ってやれん奴など居るまい?」


ゲオルグがそう言うと、他の三人は神妙な面持ちで頷く。


「それにな、ここには人間の常識なんて要らん。この街はこの街の文化を、歴史を、伝統を、常識を作りたい。それが俺の意思だ……とは言え、あくまでこれはお前ら二人の意思を尊重するべき事案だ。どうするかは自分達で判断してくれ」


ゲオルグの言葉に、しばらく顔を見合わせ相談する話し合いをする両人、そして3分程続いた時、結論は出たようで、意を決してゲオルグに対し返答した。


「やります。俺は、彼女との結婚を、皆に祝って貰えるなら、そんなにも嬉しいことはないです」


「私もです。それで……ゲオルグ様に、厚かましくもお願いが…」


女性の方が、やや俯いてそう言ってくる。


「なんだ?余程突拍子もない願いでない限りは出来るだけ叶えるよう力は尽くすが…」


そんな声に、二人はもう一度顔を見合わせ、そして大きく息を吸ってから、こう答えた。


「「ゲオルグ様に、立ち会って頂きたいのです」」


その表情は、まるで自分達の巣立ちを親に見せんとする子のようなものだった。と、後日、この街で最初の結婚式を挙げた二人について語ったゲオルグは言った。


「そのくらい、お安いご用だ。日取りを決めたのならまた連絡するといい。なんなら、立ち会いだけでなく二人の誓約の仲立ちもやろう。式には、進行も必要になるだろうからな」


そう言って軽くウィンクしてみせるゲオルグ。


こうして、この街で初めての結婚式が挙げられようとしていた。

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