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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第四章 国家となるために
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三段論法

まだまだモフ…嘘です。ちょっと真面目な感じに戻ります。というより、街周辺の情報や季節などをあまり詳しく描写していないことに気付き、その補足説明的な意味合いの強い回です。あまりストーリーに影響はありません。


それから160万PV、ありがとうございます!!


そして、今のところ毎日更新でございますが、日間ランキングが6位以下になったら隔日更新に切り替える予定です。なんか自分でそう言う基準を作らないと、どこまで続けるべきか分からないのですw

「ふむ……塩の備蓄が…か」


「はい、現在の在庫、供給ペースを維持した場合、およそ2ヶ月程度で尽きるかと」


新住民受け入れからおよそ三ヶ月、季節は秋を過ぎ冬になろうと言う頃、ゲオルグは最近拡張した屋敷の、執務室にてフェリスと共にニーナから報告を受けていた。


街の状況自体は極めて順調だ。元々この地域の気候は年間を通して比較的温暖なものであり、雪が降ることもない、作物も冬の前だからと大量に備蓄することはないのだ。では夏は非常に暑いのかと言うと、湖が隣接しそこから風が抜けてくるためそんなことはないのだが。降水量は日本よりやや少なく感じる。


しかし、この広大な森の北側、湖を挟みおよそ30km程進んだ所にある帝国領との境界にある山脈を越えると一気に平均温度が低くなる。これは、帝国領西側に面する海はその沖合いを寒流が流れ、そこを通るように西風が吹くのが原因のようだ。そこから更に北へ進めば雪国、その先は凍った海である。


「それはあまりよろしくない報告だな」


「えぇ、残念ながら、多くの野菜や魚、それと数は少ないながらも動物の肉や卵も現在では生産可能な程豊かにはなりましたが……塩ばかりは…」


「ふむ……」


この世界において、塩と言えば海水を干し、あるいは煮沸して精製されるものが主であり、内陸部の国ともなるとその価値は、一昔前なら兵士の給料にもなった程だ。現在では岩塩なども一部の国で生産されているが、生産量、流通どちらも海の塩より数段落ちる。


そして、ガルディナは当然ながら海に面してはいない、しかもその存在も公ではなく、塩を流通させる商人もいない。


「動物の肉や血である程度は栄養としては代用が効くが……それはこの街では難しいな」


「はい…」


現在、この街で手にいる肉と言えば、休みの連中が狩猟に出掛けて取ってくるものか、もしくは少しずつ数を増やしてきた家畜をたまに食用として加工するものくらいである。そして狩猟の方も、ゲオルグのお陰で街付近に凶暴な獣や強力な魔物がいないのだが、逆に野うさぎや野鳥などの小物ばかりしかいないので一度に大量には肉を手に入れられない。


かと言って、塩も間単には手に入らない、これは大きな問題である。


「試しにこの街付近で岩塩が取れないか調べてみるか…」


「岩塩……ですか?」


「あぁ、昔海だったところが隆起して地上となった時の地層に出来るものでな、貝や魚の化石なんかが時折山の頂上なんかで見付かったりするが、まぁそれと似たような理屈だよ」


「はぁ…」


頭上に「?」を浮かべた様子のニーナ、地理の勉強など教えてないのだから致し方ないのだが。


「ま、在れば見っけもん、くらいの感覚さ。とは言え、なかったならばそれはそれで困るのだがなぁ……さしあたって、湖の対岸にある山でも見てくるか…」


この湖は元々山に囲まれるように出来ていたもので、その南側の岩山部分は完全にゲオルグが切り取ってしまったため今はその面影はない。東西にも山、というべきかは微妙な高さなものと、北側に山頂部が800mくらいの山がある。以前行った土魔法の地質調査では、鉱石と宝石を探索したために岩塩までは調べなかったのだが、もしもあればそれはかなりの嬉しい誤算である。


ちなみに、湖の規模は、面積は大体650平方kmくらい、外周はおよそ230km、幅は一番長くとれるのが東西におよそ23km、逆に一番短くとって南北に1.2km程で、深さは多分、一番深いところで100mくらいだろう。琵琶湖よりやや小さいものである。


「それでは、早速見てくる。後は任せた」


「え!?」


「いってらっしゃい」


ゲオルグがそう言うと、ニーナが驚きフェリスはただ見送る。この両者の反応の差は一緒に過ごす時間の差だろう。執務室は二階にあるのだが、その窓から風魔法で飛び立つ姿を対照的な反応で見送った二人は、やがて各々の仕事へと戻っていった













ゲオルグの調査の結果として、岩塩の採れる場所は見付かった。しかしそれは湖対岸の山ではなく、そこから更に12~3km程北にある森の中にぽっかり空いた更地、そこにある赤茶色の木々が少ない山であった。


「遠い………」


帰ってきた屋敷の自室で、そう溢した。そこまで道を作るのも良いだろう、すぐ近くに街を作るのもいいだろう、坑道を掘るのもいいだろう。だが人手は?この街はようやく新たな住民の受け入れによるゴタゴタが落ち着いてきたところだ、まだ教育も終わってはいないし、そもそもそんな遠方に割く人手はない。


更に言えば、それだけ離れるとゲオルグの存在による安全圏確保の恩恵は恐らく受けられない。つまり、そこに住むものは常に危険に晒されることになる。そんなことは決して許容出来ない。


だが、そこを使わないとなると、後は人間の国から手に入れるしかない。しかし、今はこれ以上人間に関わるべきではないだろう。前回の亜人集めで大分目立ったはずだし、そもそも今はまだ大量の塩との取引に使えるような物も生産されていない。


「やむを得ない……か…」


ゲオルグは、自分なしでも発展する街を最終目標に掲げ、現在ではほとんどその力を振るわなくなった。知恵を与え、経験させ、成長して貰うためにはゲオルグの力は無用だからだ。警衛隊に教える剣術や、大規模な街の拡張など、現在の人手では現実的に不可能なことに関しては使わざるを得ないが、それ以外では極力控えてきたのだ。


「…しかし、そうだな、最終目標はあくまで最終、過程に拘れるような現状でもないか。今は、今あるこの街を健全に運営することが最優先だ」


結局は、そう決断したが。


塩は必需品であるが、それを手に入れるために人間と関わる事は多くの厄介事を生む可能性がある。今でもすでに多忙であるのに、これ以上の仕事は出来れば抱えたくないし、なによりまだ赤ん坊のようなこの街をちゃんと守り成長させることの方が重要なのである。


「もう悩むのは止めた、しばらくは人間には関わらん、以上、結論!」


方針が決まれば早いもので、ゲオルグはそのまま就寝…


「兄さん…」


「ん?」


「なにやら決意したのはいいんだけれど、あの…いつまで私は尻尾を握られていれば良いのでしょう…?」


「?……おぉ」


ベッドに座っていたゲオルグが己の手を見ると、そこにはフェリスの尾がしっかりと握られていた。どうやら、帰ってくるなりベッドに腰掛け悩み始めた兄を心配し近寄って来たフェリスのその尾を、無意識に捕らえ今まで握っていたらしい。


「…言えば良いものを」


「なんか真剣に悩んでたから、声を掛けるのも…ちょっと…」


困ったように笑みを浮かべたフェリス、相変わらずの兄思いに、ゲオルグは


「………今日は疲れた、このまま寝る」


「え?いや、このままって……ちょっ…えぇ!?」


フェリスを体ごと捕まえ、いつぞややったようにその耳や尾を愛でながら眠り始めた。


「今の俺には癒しが必要である、そしてフェリスの耳や尾を撫でていると俺は癒される、即ち今の俺にはフェリスが必要である」


「いやっ、なんかそれっぽく言われても…」


「Zzzz…」


「嘘でしょ!?」


こうして、この日の夜は更けていった……

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