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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第四章 国家となるために
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土台と基礎が一番重要なだけに一番難しい

この街が大規模な住民受け入れを行ってから約二ヶ月、その様子をダイジェストでお送りしようと思う。


初日、到着してからもまだ疑いや不安を隠しきれない者達はひとまず置いといて、僅かながらに健康の損なわれた者もいたため広域回復魔法でそれらを癒し、驚愕の目を向けられる。その後、とりあえず食事と衣服、毛布などを均等になるよう分け与え、各々好きなように2~3名の組み合わせになって貰い家を与える。


後に、想定を大きく上回る人数を連れ帰ったことに、ニーナとケイルから愚痴を溢される。


その翌日から、半分に分けて勉強を教え始め、並行して出来るだけ希望に沿った仕事に就けるよう職も割り振る。一日交代で仕事と勉強を入れ換え、一日でも早く戦力となって貰えるようにという苦肉の策。また、仕事も合間を見て先人達から勉強を教わるように指示。


初日から人を割り振るなんて話が違う、と各部門の長から小言を貰う。


それから、出来るだけ早くこことゲオルグに馴染み、信頼して貰えるようにと全員に櫛を配る。その後、久々にリーシェの尾を梳いてやる。広場で堂々やったため、新人達がその緩みきったリーシェの様子に深く感動を示す。


夜、微妙に不機嫌になったフェリスの髪を念入りに梳いてやり機嫌をとる。


そして、交流を深めるためにサッカーを紹介し一緒にやらせてみる。この段階で男性陣が大分落ちる。スポーツは偉大だ。


しかし後にボールが足らないとの苦情を受け、急遽ゲオルグが休憩時間を返上し増産する。


さらに、新たに手に入れた衣服の原材料となる植物(麻と綿花のようなもの)を植えたところで、女性陣が大いに興味を示す。仕立ての為の道具と資料の取り合いが始まり、ゲオルグがこの街で初めて竜王の威圧を用いて事態を沈静化。資料を何枚か複写して希望者に配るように指示する。


女性陣から怖がられたことにゲオルグが一晩凹む。


新たに水産業を始めようと桟橋や釣り竿などを作り教えてみる。しかし獣人らは水と触れ合う機会がなかった為か本能的なものか、水を嫌うものが多く頓挫。逆に慣れている者は飛び込んで素手で魚を捕らえてくる。


何か違う、と、いきなりの挫折を味わわされる。


気を取り直し坑道の開発を始めようとするも、まだ長時間保つ光源を開発していないと気付き、そちらの研究から入ることにする。


しかしすでに多忙の身、遅々として進まない。




以上、こんなことを延々繰り返し繰り返し、心が折れそうになること数え難くなった頃、ようやく落ち着いてきたのがここ最近である。つまるところ。


「もうしばらく働きたくない………」


「なに言ってるんですか、今日は新しく船を作ってみるって言うから、鉄工業担当と木工業担当の方々が兄さんを待ってるんですよ。ほら早く動く」


大分燃え尽きかけているゲオルグがそこにいた。


「そうは言うがな、明日やれることを今日やる必要はないと思うんだ」


「明日は定例会議の日です」


「あ………明後日……」


「明後日は農場と牧場の視察と指導、午後からは新しく組織した警衛隊の教練です」


「し、明々後日は!?」


「鉄工業と木工業の区画整備と貨幣鋳造の為の設備試作会議です」


「おうふ………」


最近、フェリスが有能過ぎて辛い。これも長きに亘る教育の賜物だろう、喜びこそすれ、悲しむことなんてあろうはずもない。


「………行くか」


「はい」


結局、己を奮い立たせて仕事に赴くゲオルグであった。







翌日、月に二度と決めた各部門の長との会議。


農産業、畜産業、水産業、鉄工業、木工業、繊維工業の長と、それらの産業と工業を取り纏める産業長ニーナ、工業長ケイル。


そして新たに組織された警衛隊の隊長、狼人族のヨハンと、その補佐となった豹人族のジル(彼女は元々商家で奉公させられていたらしく、文字と計算について高い素養があったこと、また、元からいた住民と新たな住民との間で格差が生じない為の抜擢である)。


そこにゲオルグとフェリスを加えた、合計12名による会議である。


ちなみに、産業や工業からの枝分かれではなく、完全に新規で組織された警衛隊は、500名を超える人口となった街の治安の維持を目的、と、表向きにはしている。実際には軍の設立の前段階として、士官となる人材の育成というのが事実だ。将来的には警衛隊と軍は完全な別組織とするつもりであるが、今回組織した者達は軍の指揮官候補としてそのまま移行させる予定だ。


その警衛隊だが、現在は総勢47名。3名一個分隊として、五個分隊15名で小隊とし、合計三個小隊の実働員と、総指揮官としてヨハン、副官としてジルが加わった形だ。そして分隊員を二等衛士、分隊長を一等衛士、小隊長を衛士長という階級を設け、ヨハンは警衛隊長、ジルは警衛副長という地位に収まっている。そしてこの組織は、完全にゲオルグ直轄の組織である。治安維持という役目を負っている以上、他の組織のような仲良しグループでは困るのだ。彼らには常に直接ゲオルグから命を受けるという名誉の他、他組織より厳しい規則に縛られることになる。街の住民は必要なことと納得してくれたが、しばらくはトライ&エラーの繰り返しになるだろう。それらを重ねてそれに基づくマニュアル作りが後々必要となるのも事実。やはり、課題は山積みなのである。


ちなみに、彼らには防具と武器がゲオルグから与えられている。未だ高品質の武器防具の製造に成功していない鉄工業部門の作った物ではなく、ゲオルグが作り出した最高品質の物である。最初の人員であること、また、いくつかの試作を与えて鉄工業の者達に見本も見せねばならなかったこともあったのでそのついでという意味もあるが、彼、彼女らの喜びようは凄まじかった。


機動性を重視した防具は胸や脛、腕の一部などにしか装甲を持たない軽装鎧ではあるがその信頼性は高く、間違いなく体の重要な部分は守ってくれるだろう。そして彼らが何より喜んだのは、与えられた武器がゲオルグと同じ二振りの片手剣であったことだ。これは、武器の扱いを教えられるのがゲオルグしか居らず、ゲオルグもまたスキルの問題で剣しか教えられず、特に双剣での戦いに特化しているから故である。


憧れのお方と同じ戦い方を、これが彼らの感動の理由である。そして時間を作り出してはゲオルグが手ずから剣を教えることになっていることもあって、現在、この街の男子連中の就職先一番人気が警衛隊である。募集はしてないが。


そして彼らこそが、後に獣人の首狩り双剣兵などと人間から恐れられる最強の歩兵部隊の礎となる。元より、健康で五体満足ならば人間より遥かに膂力も俊敏性も勝る彼らに対し、一対一で勝てる人間の方が少ないのだ。


また、警衛隊の設立に併せて医療研究会というものも設立したが、こちらは有志の中でも特に成績の良い者5名を選抜し、ゲオルグの持ち帰った資料の研究と実践を繰り返させている真っ最中なので、まだ会議には出席させていない。


兎にも角にも、こうして多くの変化を迎えたこの街での会議が、ようやく始まる。

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