本音
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まさか一桁にランクインするとは・・・神棚に手を合わせてしまう程に有りがたいことです
翌日、人の溢れかえる大通りを、フェリスとゲオルグが腕を組みながら歩いていた
「兄さん兄さん」
「ん?」
「楽しいね」
「…………そうか」
以前は、人間の近くにいることに恐怖感を抱いていたフェリスだが、今はこうして、ゲオルグさえ側に居てやれば、その身を預けて楽しげな声を上げる
無論、顔は隠したままであるから、その表情は窺い知ることは出来ないが、そんなことをせずとも機嫌の良し悪しを察することが出来る程度には長い時間を共にしてきたのだ
「なぁフェリス」
「なぁに?」
「………フェリスは、あの街をどんな風にしてみたい?」
「そ……そんなこと急に聞かれてもなぁ………う~ん……皆が笑ってるなら、それに越したことはないけど」
「いや、もう少し具体的にお願いしたいんだが…………」
「だって、街なんか造ったことないもん」
「いや、それはそうだがな…………」
「それに、そう言うのは皆で考えて悩んで、それから決めた方が楽しいと思う」
「……そうか、楽しいか」
「兄さんは楽しくないの?」
そう聞かれ、言葉に詰まった。
何気なく聞いてみただけのこと、それなのに、まさかの切り返しである。
ゲオルグにとって、あの街を作ることは確かに自分の為でもあるが、それは遥か未来の自分のためであり、その為には現在の自分はある程度切り捨てることもやむ無し、と考えている
無論、適度に気と体を休めていたりはするが(モフったり)、それでも気苦労や悩みごとが多いのが現状だ。国を作ろう、そう言うのも誘うのも簡単だ。だが、いざそれを実行するとなると、途端に多くの課題が待ってましたと襲ってくるのだ
国土、人民、主権。国を構成する三大要素が全て揃えば解決、なんてことはない。むしろ、その三大要素は最低限必要なものでしかない。それらが揃って初めてスタートラインであり、そこからが本番なのだ
「………楽しくない、などとは言わん。だが、楽しいことばかりでもない、と言ったところだな」
それが、偽らざる本音である。だがそれも仕方のないことだ。いかに人材が育ちつつあるとは言え、いまだ多くの物事はゲオルグ無しには進まない。様々な部門の組織化も初期段階でしかないし、住民全てが文字と計算を覚えたからと言って、それがいきなり国力に直結することもない。
結局は、それら多くの課題と経験を積み重ねていかねば、国は豊かにならないし維持できない。結果、それらが出来るまでゲオルグが楽など出来る訳もないのだ
「………そっか、兄さんは大変だもんね。一人で街を作って、人を集めて、勉強を教えて、面倒まで見てるんだもんね……」
フェリスが、どこか悲しそうに呟く。いつだってゲオルグを一番側で見てきた彼女だからこそ、ゲオルグの苦労はよく知っている。だが彼女の知るゲオルグは、一度だって住民達の前で疲れたような表情や弱音を吐かなった。当然、フェリスの前でもだ
それ故の失念、失言とでも言おうか、彼女は自分の何気ない一言を後悔していた
「私も……早く兄さんの苦労を分けて貰えるように頑張るね?・・・だから」
そこまで言ったところで、ゲオルグの手がフェリスの頭に乗せられた
「馬鹿者、10年早い。若い内は若いなりの生き方があるだろうが」
そう言って苦笑を浮かべるゲオルグの顔を、フェリスは下から見上げた。そこには兄でもドラグニルでもなく、ただ一人の異性がいた
「な……な、何言ってるんですか、歳も大して違わないのに………」
慌てて俯くようにしたフェリスの顔は、やや赤みがかっていた。それは、悟られてはいけない想い。少なくとも、フェリスはそう思っていた
「俺はこの先、気の遠くなるような年月を生きる身だ。その内の100年200年程度、どうと言うことはない。そのたかが人生のなん分の1かで、お前を、あの街の人々を、まだ見ぬ獣人を、エルフを、ドワーフを、幸せにしてやれるなら、安いものじゃないか」
これもまた、偽らざるゲオルグの本音である。人生の20分の1から10分の1、人間の感覚で言えば五年か精々十年、それくらいで幾千、幾万の人々を幸せにできるというのだから、確かに安いものだろう。だが、そうは思わない者もいるということを、ゲオルグは知らなかった
「そ………そんなのダメ!!」
突然の大声に、思わず息を飲むゲオルグ。周囲の耳目もついでに集まってしまう
「ど……どうした急に……」
「兄さん、兄さんはそれでいいのかも知れない。でもね、私は、私たちはそうじゃない」
「い……いや、フェリス、せめて場所をだな……」
「私たちは、皆、兄さんに救われたの、命も心も身体も全部何もかも。それなのに、また兄さんにただ与えられるだけの幸福を望むような、そんな恩知らずにはなりたくないの」
「……………」
どうにも止まりそうにないと悟ったゲオルグは、魔法で周囲の風の動きを乱し、少しでも音が伝わらぬようにした
「兄さんの人生、その中の100年200年なんて、確かに兄さんからしたら大したことはないのかもしれないけど、私たちにとっては違う。こんなにお世話になってるのに、その上そんなにも長い時間をただ分け与えられるなんて、誰も望んでなんかないよ」
そう言ってから、フェリスは鋭くゲオルグを見上げ、そして
「私たちは自由を与えられた、その自由に基づいた私たちの意志、想い、嘗めないでよね」
そう、高らかに宣言したのだった
ゲオルグは思わず鳥肌が立つのを押さえきれなかった
<なんだ………思っていたより、随分強いじゃないか、それともこれが本来の気質か?>
獣人が本来、情の深い性格なのは知っていたが、これもそれに基づくものなのだろうか。そう言えば、あのゲオルグによく付いてくる二人のエルフも、時折りこのような目をする
<ニンゲンに抑圧されていたのが嘘のようだな………いや、案外、こういう気質だからこそ、古人は脅威として弾圧したのかもしれないな………>
だが今は、そんな歴史考察などはどうでもいい。大事なのは、目の前の妹とちゃんと向き合うことだ
「…………成る程、ただ甘やかせば良い妹は、もう卒業か」
「はい、そもそも、家族は迷惑を掛け合うもの、支え合うものって教えてくれたのは兄さんじゃないですか、私だけが支えられるなんて、不公平です」
「…………確かに、言われてみればそうかもな。これは、俺の負けらしい」
「そういうことです」
「……では、可愛くて頼りになる妹よ、明日にはいよいよ新たな住民を受け入れる訳だが、その前に目一杯、今日を楽しむのではなかったのかな?」
「え?……あっ」
気付けば、それなりの時間が経過している
「もう!!兄さんのバカ!!早く言ってよ!!」
そう言って慌てて腕を取り、引っ張るように歩き出す姿はやはりまだ幼さが残っていた
<やれやれ……まだ、頼りにできるほどにはなれないか>
だが、それもきっとあと僅かな間だけだろうと、どこか確信めいたものを感じずにはいられない、ある日の午後の出来事だった
どこかでこの二人の本音のぶつかりあいを書きたかったのですが、ようやくって感じです
ストーリーには大きな影響はないかもしれません。ただ、こんなことを彼、彼女は思ってるんだな、という程度に思って頂ければ幸いです
それと、フェリスの話し方についてご指摘頂きました。こんなにも普通に接して話せるのはどうなのか、というご意見ですが、その点については、次回彼女の詳しい生い立ちなどを書ければな、としか今は言えません。
今後変わることはないかと思いますので、その点だけはご了承頂たく思います。




