基盤の完成
感想に意見を頂きまして、人族と鼠人族の読み方を変えました。ストーリーに影響はありませんので、敢えては取り上げません。
これからも多くの意見、評価を頂けましたら幸いです。
あれから4ヶ月。街は以前にはない活気を見せていた。住民達の教育がほぼ完了し、様々な施設が本格的に稼働し始めたのだ。
本来なら最低でも後一ヶ月は見越していたのだが、その学習能力や意欲の高さたるや、ゲオルグでも驚嘆を禁じ得ない。
文字は元より、四則演算もほぼ使いこなし始めた彼らに、いつまでも自分で教え続けるのもいかがなものかと思い、今では分からなくなった時だけ聞きに来るよう言ってある(まだ来たことはないが)。加えて、ゲオルグが教えたサッカーですら自分達でルールの詳細を煮詰め、明文化するほどにまでなった。
更に、糊を作ることも無事成功し、紙、チョーク、簡単な木製の工芸まで出来るようになったのは大きい(結局、購入した物資に含まれていた小麦粉を使ったでんぷん糊という最も原始的且つ簡単なものではあるが)。糊の製造に必要な小麦は残念ながら栽培していないため、これは新たに手に入れる必要がある。森の中に小麦なんてなかった。
現在では、畑や果樹園を管理する者、家畜の飼育を担当する者、紙と糊の生産をする者、また、家畜の飼料や畑の肥料の管理をする者とに分けられ、各々責任感を以て仕事に励んでいる(但し、糊は原材料に今は限りがある為、生産は控えめ。畑の肥料も今は堆肥と動物の糞などが主であり、嗅覚の強い狼人族は外された)。折角覚えた文字や計算を忘れさせないため、生産に成功した紙を使って細かな記録作りもさせているし、仕事によって疎遠になったりしないよう、週に一回は広場に集まり何らかのレクリエーション(大体は要望や提案を聞き検討するミーティングのようなものだが)を行ったりと、様々な取り組みを始めた。
そうなってくると、徐々にゲオルグ一人の手に余ってくるので、最近はフェリスにも色々な仕事を割り振っている。フェリスには個人的に様々な事を教えているので、今では立派なゲオルグ代行である。
他にも、エルフ達には文字、四則演算がほぼ教え終わった段階で魔法も指導した。元々彼らは特に学習速度が速く、一番最初に教育を終えたと言うのもあるが、何より魔法の素質が高いのに使えないままというのはあまりにも惜しいからだ。
彼らが魔法を上手く使えなかった理由としては、人間に使われている間は常に健康状態が芳しくなく、また、魔力というのは使わなければ使わないほどに本来は徐々に衰えていくもので(ゲオルグは何故かそうはならないが)、幼少から人間に酷使され魔力の扱い方も分からず使うことも無いまま長らく過ごした、というのが原因である。
そこでゲオルグが魔法の基礎、想像と詠唱を教えてから魔力を底上げする訓練をさせ(ただ魔力を使いきるまで魔法を連発させるだけ)、今ではこの街を支える重要な戦力となっている。ゆくゆくはその魔法と学習能力の高さ、寿命の長さから(平均650年~800年)、この街の中核を担うことになるだろう。決して特別扱いする気はないが。と言うより、彼らは非常に謙虚で慎ましい性格をしており、余程のことがない限りは威張り散らしたり傲慢な態度をとったりはしないだろう。この世界のエルフは非常に良い子なのである。
また、ドワーフはその自慢の膂力を活かし、試作鍛冶工房で働いて貰っている。彼らは元々、鍛冶師の元で使われていることが多く(重い金属などを扱う場で彼らは重宝されるからだ)、その設備などをよく覚えている者が居たため、こちらも順調だ。あとは、人手を確保して金属の採掘を専門とした者を育成することが目下の課題である。現在はゲオルグが魔法で鉱石を掘り出しているが、それでは何の文化的発展にもならない、ゲオルグがいなくとも十分に機能する街を作るのが最終目標なのだから。
こうして、急速に発展しつつあるのだが、まだまだ不十分であるのは間違いない。栽培している野菜ももっと種類を増やしたいし(現在はジャガイモ、ニンジン、レタス、カボチャ、トマト、ゴボウである)、貨幣の製造、治安維持、防衛能力を持った軍事組織、領地運営の為の内政機関の設立など、国家となるために必要な課題は山積みである。
<一気に進めないのが歯がゆい、まさしく、ローマは一日にして成らず、だな>
そうゲオルグが思ったのも仕方のないことである。
「差し当たって取りかかるべきは、小麦の育成、人材の確保と教育に、それに伴う街の拡張、食料の生産性の向上も必須だな。貨幣の製造はまだ時期尚早だが、適正価格の制定と、雇用関係の創出に最低賃金の取り決めくらいは考えておかねばならないだろうな………」
「………頭が痛いよ、兄さん」
「諦めろ、と言うか受け入れろ。フェリスは今、実質この街のナンバー2なんだからな。時機に運営に適した人材を育成できた時はちゃんと補佐をつけてやるさ。目下有力なのは、ニーナとケイルか」
「あのエルフの二人かぁ………真面目だもんね。それに、今でも兄さんにべったりくっ付いて色々勉強してるでしょ?」
「あぁ、魔法を教え始めた頃からずっとだな、まさに忠臣だ」
「エルフって力が弱くてひ弱だからってかなり安く売られてたみたいだし………その分劣悪な環境で働かされてたんだって、ニーナが言ってた。だから、そんな環境から拾い上げてくれて、怪我も綺麗に治してくれて、勉強を教えてくれて、魔法まで使えるようにしてくれた兄さんに、生涯を捧げるんだって息巻いてたよ」
「………そうか。打算もあったとは言え、そこまで言ってくれたのでは、期待に応えない訳にもいかないな」
「責任重大だ」
「そりゃそうさ、国を作ろうなんて馬鹿げた夢に付き合わせているんだ。責任も負わずにそんなこと出来るわけがない」
「誰も、馬鹿げてるなんて思ってないよ。みんな信じてる、兄さんと、兄さんの掲げる夢は、いつか必ず現実になるって」
「……………なら、叶えるか。皆で一緒に」
「うん、みんなきっと、どこまでも付いていくよ。私も、たとえこの荊の道の先が救いようのない地獄であっても、最後の最期まで、ずっと………」
「馬鹿が、どこの世界に妹を地獄の道連れにする兄がいる」
「だったら、ちゃんと歩かなきゃだよ、兄さんの描く理想の世界に」
「……………全く、最近は余計に知恵がついたな」
「誰かさんが一生懸命色んなことを教えてくれるからね」
そう微笑みながら告げるフェリスの表情は、まさに天使のそれのようで。
「やるぞ、フェリス。世界を変えてやろう、俺達で」
そう返す兄は、まさしく気高き竜として。
そして寄り添い合う二人は、何者にも侵しがたい神聖さに満ちていた。
間もなく、住人の第二段の補充を行う予定であり、この街は大きな成長期を、そして、歴史と常識は大きな変貌を迎えようととしていた。
後に、ガルディナ王国暦元年となる年のある日のことである。
なんだかほとんど説明だけになってしまいました・・・
次回、いよいよ住人の新たに受け入れます。それがどんな結果をもたらすのか、それを書くのは、もう少々先のこととなりそうです




