人口確保の為の道
獣人を集めようと決意した翌日、ガルディナ大森林上空をゲオルグとフェリスが風魔法を使い飛んでいた。
「ん~………やっぱりこれ気持ちいいなぁ」
「お気に召して頂けたようでなによりだよ」
「うむ、苦しゅうない」
「調子に乗るな、落とすぞ」
「ごめんなさいそれだけはやめて」
「分かればよろしい」
そんな軽口を叩きながら二人が目指しているのは人里。それも出来るだけ大きく人口も多い街を探している。
「それよりも、昨日はやりすぎじゃないかなぁ」
「散々肉料理を堪能しておきながらよく言う」
「そ………それを言われると………」
なぜ昨日の内に出発しなかったのか、それは、作った街周辺の魔物や獣を狩りまくっていたからである。
「折角作った街や畑を荒らされても敵わんしな」
「そっか………それもそうだよね」
久しぶりに竜化したゲオルグによる掃討作戦は、圧倒的戦果を上げた。元々、史上類を見ない堅牢さを誇るであろう城壁や城門、水堀で守られた街ではあるが、絶対はない。ゲオルグがいる間は魔物や獣は決して近付いては来ないが、離れてしまえばそれも効果はない。
家屋や城壁が多少壊されたくらいならいくらでも直せるが、畑の作物や果樹園はそうもいかない。もしそれらが荒らされたら、再び森の中から植え直し整備しなくてはならないし、獣人を確保次第すぐにでも次の行動に移りたいゲオルグとしては、それは許容出来ないのだ。
故に、街を中心に半径5Km程の魔物、獣を徹底的に狩り、それらの死体を森の外周近くに置いてくることで他の魔物らをそちらに誘導、更に余っていた木材で、水堀の外側に柵まで作っておくという念の入れようである。
如何にゲオルグが本気であるかの表れとも言えよう。
「それより、新しい人材を確保したら、お前が先達としてしっかり面倒を見るんだぞ」
「えぇ!!私がですか!?そんなの聞いてないです!!」
「言ってないからな」
「そうじゃなく!そんなの無理ですって!」
「俺の方が無理だ。俺は全員にずっと接してはいられない。街中や畑の整備、それから教育や、しばらくは食事の準備だってしなきゃならん」
「そんなぁ………」
「なに、ずっと一人で、なんて言わんさ。ちゃんと俺だって空いてる時間は面倒をみるし、お前に寂しい思いをさせないように心がけるつもりだよ」
「………本当ですか?」
「俺は、フェリスに嘘はつかない」
「………分かりました、頑張ります」
「よし、いい子だ」
そう言って頭を撫でてやると、頬を赤くしながら。
「そ………そんなんで誤魔化されないです」
「尻尾、動いてるぞ?」
「………………………」
素直で可愛らしい妹だった
「見えてきたな」
「大きいですね」
しばらく飛んだ先に、街が見えてきた。石造りの、以前見た村より遥かに規模がでかい。
「さて、じゃあここからは歩いていくか」
「は~い」
あまり近づかない内に地上に降り、徒歩で街へ向かう。
「あれはちゃんと持ってるな?」
「うん、落としてなんかないよ」
フェリスの手には、昨日のうちに作っておいた竜皮の服が握られている。今回は、これを金に換えて様々な物を調達する予定だ。主に、ゲオルグでは作れない服や毛布の類。
「これだけ規模が大きい街なら、それなりの商人もいるだろう。多少安く買い叩かれても、それでも一財産くらいにはなる………といいんだが」
「………普通の商人さんじゃ絶対買えないしね、それ」
「正直、俺からすれば自分の抜け殻というか、落とした皮膚の一部というか、こんなものに金を出す奴の気が知れないんだが」
「………なんか、ドラグニルって根本的に私達と価値観が違うんだなって、改めて思ったよ」
「そんなもんかね」
「うん……」
他愛のない話に花を咲かせながらも街に近付く。すると、少しずつだが、フェリスの歩みが遅くなるのを感じた。
「………怖いか?」
「………うん……隣に兄さんがいるから、大丈夫だと思ってたんだけど………やっぱり少し……」
「………そうか」
これまで人間から向けられてきた侮蔑の視線や暴力を思い出したか、僅かに青くなった顔を、フードを目深に被って隠す。
「なに、フェリスが顔を出す必要はない、全て俺が対応する。なんなら、今からでも戻って待ってるか?」
「それは嫌!兄さんから離れるなんて………」
「………一人になるほうが怖いか」
「うん………兄さんを信じてないわけじゃないけど……もし戻って来なかったらって……また一人になっちゃったらって思うと………」
「そうか………なら、離れるなよ」
「うん………」
僅かに震える肩を強く抱き寄せて頭を撫でてやると、安心したのか徐々に震えも収まり、歩みもしっかりしてくる。
「さ、門が見えてきたな、いよいよだ」
「うん………早く、家族が増えるといいな………」
そう感慨深く呟くその姿は、不安ばかりでなく、いくらかの期待も入り混じっているように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。
二人は、衛兵らしき者達が立つ城門へと足を進めた。




