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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第十章 そして世界が廻り出す
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幕間  ~フェリスの恋のライバル~

「はぁ……」


議事堂3階のテラスで、一人溜め息をついているのはゲオルグの妹、フェリスである。


「ジルさん、いいなぁ……」


定例会議が行われた今日は、比較的仕事に余裕がある。想定よりもは早く会議自体が終わったから、というのも理由の一端である。やはり出席者達が仕事にも会議にも慣れ始めてきた、というのが最も大きな理由であろう。


そして、会議が終わった今、少しばかり暇になったフェリスはこうしてテラスで時間を持て余している。普段ならゲオルグの傍に侍っているところだが、今、ゲオルグはジルを捕まえてモフっている最中であったりする。


いつもならば「次の仕事がありますから」と言って適当な所で強制的に引き離すのであるが、今日のようなそんな建前の通じない日はどうしようもない。


そんな日は、こうして席を外し一人嘆息することが多い。


他の者ならいざ知らず、ジルに対する感情は複雑なものがある。フェリスは、ジルがゲオルグに好意を打ち明けていることを知らないが、それでなくともジルがゲオルグに好意を抱いている事は明白であるし、それを恐らく兄も察しているであろう、くらいには思っている。


「なんで兄妹だったんだろう……」


今更ながら、自分を「妹」として受け入れたゲオルグに対し僅かばかりの不満を感じてしまう。勿論、彼が彼女にとって一番信頼出来る存在になるという意味で、「家族」として、年齢差も考慮しそうしたのであろうと理解はしている。


だがいざ彼に対する想いが胸の中でざわつく度に、兄妹として過ごした数年間という月日と思い出がそれを表に出すことを邪魔するのだ。


血の繋がりなんてないのだから、そんな今までの関係など無視してしまえばいい。そう思ったことも一度や二度ではない。だが、彼が自分に向ける家族としての愛情が、恋人としてのそれに代わってくれるという保証はない。


それどころか、今あるものを失う可能性があると思えば、臆病になってしまうことを責めることは出来ないだろう。


彼女にとってゲオルグは、自分を救ってくれた恩人であり、色々なことを教えてくれた師であり、そして共に苦労し、楽しみ、互いを慈しみあう家族である。そこにそれ以上の価値を付加しようとして、全てを失う恐怖。それは、本人にしか理解し得ないものであろう。


だからこそ、余計にそうジルが羨ましいのだ。


自分から関係性を深める様に踏み出せる彼女の事が、羨ましく、そして妬ましい。


「私って、嫌な女……」


妬みという感情を抱く自分に悪態をつく。そもそも、ゲオルグが誰かを好きになる事も、誰かに好かれることも、本来フェリスが関知すべきものではない。それを分かってはいるのだが、それでもどうしても納得のいかない自分に自己嫌悪してしまう。


これで相手が自分の嫌いな人物であれば、もしかしたら悪態を口に出してすらいたかもしれない。こうして、一人で思い悩む程度で済んでいるのは、偏にジルの人となりを信頼しているからだ。


彼女はガルディナ正規軍の参謀として、その職務と責務を果たすべく日々研鑚を重ねている。それでなくとも現在の正規軍の多忙さは知れている。そのナンバー2である彼女がどれだけの重責を担い、それを果たしているか、フェリスには想像がつかない。ガルディナを治めるゲオルグの補佐をしているフェリスも無論多忙であるには違いない。だが、有能に過ぎるゲオルグの補佐というのは恐らく他の部署の長やその補佐よりかは余裕がある。


好意を抱くゲオルグとの関係をより深めようと努力しながら、それと同時に己の責務を果たし続ける。それを妬み暴言を吐くことなど、到底できそうにない。


「どうしよう……」


それが何を意味する言葉なのか、自身にも分かっていない。


今の家族としての関係を維持していれば、少なくとも兄は兄として自分に愛情を向け続けてくれるだろう。例え、そこに兄ではなく男としての感情が混じったとしても、それを押し殺して。


以前なら、それでもよかった。だが、こうしてゲオルグとジルが仲を深めていく姿を見せつけられると、そうも言っていられない。


誰よりも早く出会い。だれよりも彼を信じ、誰よりも好いているという自負はある。


だが、それだけでは足りない。それだけでは、ジルに及ばない。ゲオルグの恋人には、最も特別な関係には、なれない。


「兄さん……ゲオルグ……さん」


今になっては、彼を名前で呼ぶことに違和感すら感じてしまう。それだけ、兄妹としての関係が長く良好に続いたという証だ。


嬉しくもあり、悲しくもある事実なのだが。


「はぁ……」


結局、彼女はこれまで通り、決断を下せないままでいる。


このままでは、いつかジルが彼を射止めるかもしれない、そう分かっていても。


いつから、自分はこんなにも臆病になってしまったのか。


分かり切ってはいるのだ。かつてと今では、比べ物にならないくらい、失うものが多いからだ。そしてそれらは全て、ゲオルグが与えてくれたといっても過言ではない。


理不尽だとわかってはいても、どこかゲオルグを恨めしく思ってしまう。


もし、兄妹でなければ。

もし、ゲオルグが国を興そうなどと考えず、二人だけで旅を続けていたならば。

もし、自分に想いを打ち明ける強さがあったなら。


これまでにも何度も思い浮かんだ「もし」であるが、きっとこれからも何度も考えるだろう。


そこに意味などないと分かっていても。


その大きな瞳に涙を滲ませて。


「つらいなぁ……」


街の喧噪をどこか遠くに感じながら、フェリスは今日も一人、悩み続ける。

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