旅
ほのぼの日常回
木漏れ日の差し込む森の中に、白いフード付きローブを羽織った二人の人影がある。
一人はゲオルグ、一人はフェリスである。
あの日、ゲオルグは鎧を脱いだまま竜化、服を鎧でなくこのローブにして人化、そしてそれを脱ぎ竜化、そしてまた人化、と、やや面倒なことを繰り返し、フェリスと自分の分の服を確保した。
自分は初日から着ていた鎧の上からローブを羽織り、フェリスはサイズの合わない服を袖や裾を巻くって着た上からローブを羽織っている。色はゲオルグの竜の時の姿に依存する為に白しかつくれないのだが、それでもあの服としての機能を欠いた布よりは遥かにマシだろう。
なんせ、性能は折り紙付き。竜皮の服、或いはローブとでも呼ばれるそれは、暑さ寒さを緩和し、布に見えても斬撃を防ぎ、魔法をも無効化するような恐るべき防具だ。
最初フェリスは。
「こここ……こんなもの着れませんよ!!」
などと言い、ゲオルグは。
「いや………そりゃ俺の体の元一部と思えば気持ち悪いかもしれないが………」
と落ち込み、二人してしばらく困惑したり喜んだり悲しんだり笑ったりと、カオスな空間を演出した後に。
「いや、貴重だとか恐れ多いとかそんなもん知るか、俺の精神衛生と理性を粉々にする気か」
というゲオルグの意見に纏まった。
その後、服の用意を終えてゲオルグから離れ着替えにいったフェリスが肩に落ちてきた大き目な蜘蛛に驚きほぼ全裸で走って戻って来たり、それを見たゲオルグが大いに赤面したり、我に返ったフェリスが悲鳴をあげながらゲオルグにビンタをかましたり、そのせいで余計にはっきりと色々見えてしまったゲオルグが思わず逃げ出したりと色々あったが、なんとかその場から出発出来た。
<無事に、とは言いがたいが………>
あの時のビンタは、なぜか効いた。叩かれた部分が赤くなったほどだ。火事場の馬鹿力というか、乙女の本領というか、なにやら末恐ろしいものを感じずにはいられない(実際は、人の姿の時の服や鎧に守られていない部分は意識的に防御しないとある程度のダメージが通ってしまうだけである)。
だがそんな日からすでに丸2日経過していた。目的地も、すでに目算をつけてある。
ガルディナ大森林、通称、魔の森。
そこは、この王国と隣の帝国の間に広がる相当広大な森林であり、その中央には巨大な湖、森の中には栄養の豊富な果物や野菜などが多く手付かずの状態で存在し、湖北側のに連なる山々は鉱石などを多く含んだ地層があるという。
なぜそんなものが、人間に荒らされることなく存在しているかと言えば、そこが強力な魔物や獣の多く生息する地域だからである。
かつて何度もそれらを駆逐するための軍を王国や帝国が派遣したそうだが、毎度毎度壊滅状態になり大した成果も上げられずに撤退。また、王国にとっても帝国にとっても、そんな危険地帯があるからこそ互いに侵攻出来ずに仮染めの平和を築いているという理由も合間って、今では完全に放置されているのだそうだ。
まさに、拠点を築くのにはうってつけである。
多くの魔物や獣は、その本能からか経験からか、まずドラグニルには近付かない(その為に狩猟は大体竜化して空中から一気に仕留めるスタイルが多くなる)。食物連鎖で、間違いなく自分より高位の存在に自分から食って掛かる生き物など、この世界ではまず群れた人間くらいのものだ。
ゲオルグがいるだけで、魔の森は本人やその周囲の人々にとって安全地帯に早変わりするのである。恐らく、ゲオルグが森林中央に行けば、逃げるように移動する魔物や獣達によって、森の外側の魔物の層がより厚くなり、天然の要塞のような状態になるだろう。
<………てか、今になって思えば、俺はこの為にこの世界に呼ばれたんじゃないかと思うほど都合がいいな>
この種族といい強さといい、さらには獣人達の置かれている現状や、それを直視する機会を得たことを考えると、そう思えてくる。
<ま、構わんがね。お陰でフェリスに出会い、目標を見つけ、生き甲斐を得たんだ、なんの不満があるものか>
初日にあったような、自分ではないナニかに侵食されるような感覚ももうしばらくない。それは、今自分の成さんとすることが正しいという証左ではあるまいか。ただいずれにせよ、まずはそこに辿り着くことが先決だ。
「フェリス、疲れていないか?」
「もう、兄さんは心配性ですね、ついさっき休憩はさんだばかりじゃないですか」
「兄が妹を心配して何が悪い」
と、こんな軽口を叩き合いながら、道なき道を行く。わざわざ森の中を行くのは、人目につかないようにと、後は食料確保の為だ。
「それに、いくら怪我は治ったと言っても、フェリスはまだ体力もしっかりとついてはないだろう?、あまり、無理はさせたくない」
「………全く、本当に過保護です、心配性です、甘やかし過ぎです」
「おう、俺はフェリスにはとことん甘くすると決めたからな」
「………もう」
そして、二人がここまで親密な空気になったのは、この二日間のゲオルグの努力の賜物である。歩く時は常にフェリスを守るように傍を離れず、食料を取れば優先的に与え、怪我をすればそれがどんなに軽いものでも即座に回復魔法を使い、眠るときは常に寄り添うように眠った。
ここまでして心を開けぬほど薄情なフェリスでもなく(元来獣人は人間より情に厚い面がある)、気付けば本当の兄妹のように気安い関係を構築していた。
<まだモフってはないがな!!>
下心がゼロでないのは、些か悲しい男の性、とでも言っておこう。
とにかく、この二人の旅はよくも悪くも上手くいっている、ということだ。




