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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第九章 歴史の幕開け
132/153

幕間  酒に罪はない。泥酔する者に罪がある。

一応上げてみる。


正直、削除しようか悩んでいる。


本編との整合性を鑑みて修正してみたものの、「流石にこれはないかな」と……



おまけ回的に見て貰えれば幸いです。




「むぅ……」


ゲオルグは今、ガルディナ森都の軍施設、兵舎の一角で腕を組みながら唸り声を上げている。


彼の目の前に置かれたのは酒樽である。


過日の戦争において、帝国と共闘しディナントの大軍相手に勝利を収めたガルディナ軍に、帝国軍、ラシードから「ささやかながら戦勝祝にございます」と贈られたものである。


城塞に備蓄していた分、そして自ら、そして援軍が持ち込んだ分と合わせるとそれなりの数となるそれの幾つかを分けて貰ったのだが、それはガルディナ軍全員に十分行き渡る程の量であり、総指揮官たるゲオルグにも是非、とヨハンが寄越した物である。


夜の帳も既に下り、ふと窓の外を見れば、そこには演習場で酒に飲まれた者達が大いに騒ぎ、踊り、謳っている姿が篝火に照らされよく見える。彼らは酒など飲んだことがない者が大半であっただろうが、一度飲んでしまえば、そして気分が高揚してしまえば、後はその場のノリである。


恐らく、明日にはこのあたり一帯、某ゾンビゲームの死者の街のようになっていることだろうが。


無論、出来ることなら彼らに交じって馬鹿騒ぎに興じたい気持ちもあるが、それ以前の問題が解決されていないのだ。


<俺は、酒を飲んでも問題ないのだろうか……?>


そう、彼はこの体になってから酒を飲んだことが一度もない。故に、もし酔ったとしてどんな行動を取るのか全く分からないのである。


状態異常無効のスキルでそもそも酔わないのか、もしくはそれと関係なしに酒には酔うのか。酔ったとして常日頃と変わらぬ体でいられるのか。それとも、酒乱の気でもあったとしたら、どのような乱れ方をしてしまうのか。


それを思うと、中々飲もうとは思えないのである。


<とは言え、少しくらいなら問題もなかろうか……>


ちびちびと飲んでみて、様子を見ながらならば、最悪、街から遠く離れてしまえばなんとかなるだろう。


それに、今後酒も産物として手に入れたい彼としては、一滴も飲めないのでは自ら出来栄えを確かめることも出来ない。


彼は、そう己に言い訳をして、酒樽に手を掛けた。


それが、全ての原因である。
















「閣下、どちらにいらっしゃいますか?」


兵舎の中を、ヨハンが二人の兵を連れて歩いていた。目的はゲオルグの確保である。彼らは外での宴、もとい馬鹿騒ぎに、ゲオルグも参加して欲しいと思ったのだ。


常日頃、誰よりも多忙な生活の中にあって、その上今回の戦でも人並み以上に精神を摩耗したであろう彼を思って。


「ゲオルグ様ー」


「閣下、居られましたらお返事をして下さい」


後に続く兵士もヨハンに続けて声を上げる。とは言え、広い兵舎の中でも、ゲオルグが行く場所というのは限られる。


この建物にゲオルグ専用の部屋、というものは存在しない。あくまでも軍の最高司令官はヨハンであり、そのヨハン専用の部屋、参謀たるジルの部屋というものはあるが。


故に、ゲオルグが一人でくつろぐ場所と言えば、会議室、食堂、休憩室、娯楽室、程度のものである。


ちなみに、娯楽室には現在ゲオルグが作成したオセロ、チェスなどが置かれていたりするのだが、それの作成に関する話は後日語るとしよう。


兎角、そういった理由から、ゲオルグは割と簡単に見つかった。見つかった、のだが。


「か……閣下……?」


ヨハンを始めとする軍の首脳達が会議を行う為の一室。そこにいたのは、どこか虚ろな瞳で杯に注がれた酒を飲んでいるゲオルグである。彼はヨハンらに気付いた様子もなく、杯を空にすると再び樽から注いでそれを口に運ぶ。


人で両手で抱える程度の大きさの樽、本来は栓を開けてそこから杯などに注ぐのだが、彼はそれを片手で掲げている。握力もさることながら、純粋な筋力も並々ならぬものであることを容易に想像させる光景である。


「あ、あの、ゲオルグ様?」


そんな光景に、一人の兵士が恐る恐る声を掛ける。その瞬間、彼の瞳がヨハンらを捉えた。その眼光には、どこか怪しげなものすら感じるであろう。


「あぁ、お主らか……ふむ、こちらへ来い」


そう言って樽と杯を机に置き、3人を手招きする。


どうしようもない不安に駆られる3名だが、とは言え主たるゲオルグからの命である以上、それに逆らう訳にもいかず、慎重に一歩一歩彼に近付く。やがて、彼我の距離があと2歩程度にまで縮まった、その瞬間。


「ぬん!」


「「「っ!?」」」


ゲオルグの体がブレたかと思うと、3名は床に押し倒されていた。


「かかかかか閣下!?」

「ご、ご乱心!」

「閣下がご乱心召された!」


「騒ぐな騒ぐな。うむ、相変わらず良い手触りだ」


その押し倒した張本人が何をしているかと言うと、押し倒した3名の耳と尾をこれでもかとまさぐっていた。


ヨハンは狼人族、残る2名は虎人族、狐人族である。


「お……おやめくだファッ!?」


「そこは……そこは駄目です!」


「力が……抜ける……」


人ならざる力を持った男が酒に酔った結果は、日頃から訓練を重ねる獣人男性3名の力で以てしても手が付けられないものであった。


ヨハンらは、なんとも言えない心地よさ、むずがゆさ、そして羞恥心によって、己の心が折れそうになるのを必死に堪えながら時間を過ごす。


だが、そこに一人の救世主が現れた。


「司令、何を御騒ぎに……」


ジルである。


彼女は、ヨハンらが「閣下を探してくる」と言って兵舎に入ってから、中々出てこないことが気になり、自分も探しに来たのである。


「こ……これは」


「ジル!! 良い所に来た!!」

「参謀! 助けて下さい!」

「ジル参謀!!」


男4人(うち一人は美形)が床で激しくもつれ合うという、腐った女子ならば鼻血ものかもしれない光景に、ジルが一歩、二歩と後ずさるも、ヨハン達の声で彼女の存在に気付いたゲオルグが、その瞳をジルへと向けた。


「…………」


「…………」


無言で行われる視線の交錯。そこには、狩る者、狩られる者の静かなせめぎ合いすら感じられた、とは、ヨハンの言葉である。


少しずつ、少しずつ後退するジルに、その一挙手一投足を見逃さぬよう、眼光を鋭くしていくゲオルグ。


どちらも俊敏性に優れた者である。ことジルに関しては、己の分が悪いことを理解しているからこそ、余計に慎重に、それこそ兎のような臆病さでもって相対していた。


だが、やがてその均衡が崩れる。


「っ!?」


後退を続けていたジルが、廊下の壁に踵が当たり、一瞬だけ、視線を背後へと向けてしまったのである。


「シッ!」


その隙を見逃すゲオルグではない。彼の能力は、例え酒に酔ったからと言って衰えることなどなく、十全に発揮されるのだ。


迷惑この上ない話である。


「えっ!? きゃっ!!」


男達の上から、その四肢をバネの様にして弾け飛んだゲオルグは、一瞬にしてジルを捕えると、まるで獲物を巣に引きずり込むかのように、部屋の中へと連れ去る。


そして、その一瞬に動いたのはゲオルグだけではない。


「ジル! お前の犠牲は忘れない!」

「参謀! この後は誰も通しませんので!!」

「どうかご無事のお戻りを!!」


ヨハンを含めた3人の男は、その身を翻しその場から逃げ出す。正に脱兎の如き素早さでもって。


「司令!?」


「存分に可愛がっていただけ!!」


「かわっ!?」


そして、無情にも扉を閉めてその場を去った3人、その後に残されたのは。


「……ん、相も変わらず、なんとも言えぬ肌触り」


「くふっ……ゲオルグ様……お、お戯れを、ふにゃっ!」


ゲオルグの凶行は、日頃のような撫でる、揉む程度に留まらず。


「あむ」


「あふんっ!」


耳や尾を甘噛みするにまで至る。


「んむ、ん」


「あっ、あっ……い、んん!!」


こうして、会議室の中からは暫く艶めかしい声が響いてくるのこととなる。


























翌朝、部屋から乱れた服を必死に抑えながら顔を真っ赤にして飛び出してくるジル、そして。


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」


頭を抱え床に蹲るゲオルグの姿が目撃されたとか。



致してはいない。

あくまで愛でただけである(真顔)

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