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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第一章 新生ドラグニルと運命の出会い
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ひとしきり泣いた後、少女は鼻をすすりながらゲオルグの顔を見上げた。


「あの………」


「なんだ?」


「私……本当にあなたに付いて行ってもいいんでしょうか……?…」


「何を今さら、お前が望み俺が許したというのに、誰に憚ることがある」


「だって………私は獣人で……一緒にいたら迷惑をかけ…」


「迷惑大いに結構。家族なら、多分そういうのが当たり前だろう。もうこの話は必要ない、あるとすれば、お前が俺から離れたいと願ったその時だ」


「そんなこと願ったりなんてしません!!」


「なら、もういいな。それより、そろそろ名前を決めよう」


「な…………名前……ですか?」


「あぁ、いつまでもお前、じゃ家族として示しがつかないだろう?」


「家族………私に……家族…………」


これまで何度も言ってきたのにまだ実感がなかったのか、俯きながら噛み締めるようにそう呟く。


「ん、お前は………そうだな、歳はいくつになる?」


「正確にはわからないです………多分、14か15くらいじゃないかなとしか………」


「なら、妹だな。俺もまだ17の小僧だが、なに、妹一人くらい養ってやれるさ」


「じゅっ………17歳なんですか!?」


その驚きは、もっと老けて見えたから故か。


だが見た目に関しては、ドラグニルの種族的特徴があるから致し方ない。ドラグニルは、生まれてからの成長が早く、およそ人間の4倍程度である。つまり、5歳にもなれば人間の成人並みの体格と知恵を持ち、7歳頃に体力的に最も成熟した状態を迎え、そこから1700年か1800年近く変わらぬ姿を保つ。


これは、外敵から身を守る上で非常に優れた資質と言える。弱く幼い時期が短く、最も強い状態を永く保つ。これが、世界で最も強い種族たる所以の一つであろう。ちなみに、あまり子を生そうせず中々個体数が増えないのもこれが原因らしいが。寿命の長さ故に、種を残そうとする本能が弱くなっているとのことだ。


「あぁ、生きた年数は大差ないってことだな。獣人も、本来なら150年くらいが寿命だというし、これからは長い付き合いになりそうだ」


「は………はい!!」


それは、少女に寿命を全うさせるという宣言。それに気付いた少女が、嬉しそうに尾を振りながら答える。なんとも愛らしい笑顔と動きだ。


<こうでなければな………>


なんとなく自分でも嬉しくなり、微笑む。ようやくこの獣人の笑顔を見れたし、その笑顔を自分で引き出したともなれば、少しくらい気持ちも浮かれるものである。


「さて………では名前か……何か。思い入れのある名前などはないのか?」


「いえ………生まれてから名前なんて一度もつけて貰ったことはありませんし………」


「そうか………」


「はい………なので、もしよろしければ……いえ、私は、貴方様に名前をつけて頂きたいです。私に、私としての生き方を与えてくれた貴方に………」


「………………」


背中がむずがゆかった


「………俺にセンスを期待するなよ?」


「大丈夫です、信じてますから」


「おうふ………」


その無条件のハードルは、さり気なく辛い。


<流石にタマとかはないだろうし………そもそも俺だって子供どころか結婚すらしてなかったのに、名付けは……手しかも外人の?………無理無理、いや、でもこの期待は裏切りたくないし………>


暫く唸りながら悩んだ後、ゲオルグは絞り出すように言った。


「………フェリス」


「え?」


「フェリス、フェリス・スタンフォードだ。ゲオルグ・スタンフォードの妹にして、唯一の家族」


結局、引っ張り出したのはゲームキャラの名前だった。しかも、ゲオルグというキャラと最終的に結ばれるヒロインである。


「フェリス………フェリス……はい。私は、今日からゲオルグ・スタンフォードの妹、フェリス。スタンフォードです!!」


そう、表情を綻ばせながら眩しい笑顔を向けてくる少女ことフェリス


<………言えん、知っている人物からの流用だ、などと、口が裂けても言えん………>


尻尾をぶんぶんと振りながら、自分に与えられた名前を何度も繰り返し呟くフェリスを前に、ひそかに嫌な汗を流すゲオルグだった。















「よし、それじゃあそろそろ行くか」


「え?………む、村に、ですか?」


急に表情を暗くするフェリスに、ゲオルグは慌てて否定の言葉を並べた。


「いや、あの村にはもう二度と行かん。とりあえずは宛もない宛探しの旅だ」


「そう……ですか」


ホッと安堵の溜め息をつくフェリス。やはり、あの村での記憶はトラウマになるには十分だったのだろう。何の許可もなく連れ出すのはどうなのかとも思うが、それ以上に、このまま少女を置いていけば遠からぬ未来に殺されてしまう未来が視えた。それに、確かにフェリスは村にとっては財産かもしれないが、村人にとってその価値以上の恩恵は与えたはずだ。


「ま、この世界のことを十分整理するだけの時間もあったしな………」


「………?」


「なに、独り言だよ」


あの村で逗留中に、この世界についての知識と情報を頭の中で整理する時間はいくらでもあった。その中には、狩猟の知識や獲物の捌き方まであったのだ(ドラグニルは割と狩猟民族らしいとその時知った)、来たばかりの時のような事態にはならないはずだ。


「ま、さしあたっては拠点になりそうな場所の発見と開拓、その後に理想郷ユートピア製作に向けた人口確保か」


「………?……よく分かりませんけど、頑張ります!!」


可愛らしく首を傾げてから、すぐに意気込んだ声を上げたフェリスに、ゲオルグは微笑みながら言葉を返す。


「ん、よろしい。じゃあそろそろ行くとしようか、妹よ」


「はい、兄さん!!」


二人は立ち上がり、そして。


「………の前に、フェリスの服の調達か」


「え?………あ、きゃあ!!」


回復魔法では、暴力でボロボロにされた服までは直せない。正直、真っ直ぐ立ち上がったフェリスの格好は、直視するには少々刺激が強かった。




なんとも締まらない二人である。

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