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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第一章 新生ドラグニルと運命の出会い
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決断

「光よ……癒せ……」


ゲオルグは、己の腕の中に抱いた少女に、光魔法による回復を試みた、詠唱つきで。


この世界の魔法とは、いわば想像の事象化である。正しい詠唱などは存在せず、自分の中のイメージをより具体的に表現し、魔法にそのイメージを与える為に発するものである。例えば、炎で槍を作ろうと想像したならば、「炎よ、槍となれ」、というように。


ゲオルグはスキルによって、詠唱せずとも事象化したいものに最適な解を自動で解析し行使することが出来るが、そこに更に強いイメージを与えより強大な魔法を行使しようと思ったならば、やはり詠唱するのが最も確実で効率がいい。


その為、今回は詠唱も加えて行使したのだ、己の力の限界を尽くしてでも、この少女を助けたいと願ったからだ。


「な……なにをなさっ…」


「うるさい、黙っていろ」


困惑した様子の村人を一喝して黙らせ、ひたすら回復に集中する。


そして、数瞬の後、効果が現れた。それも激烈な。


醜く千切れ艶やかさも失っていた尾が、見るに耐えぬほどに痛々しかった耳が、全身の痣が、昨日今日のものでもない古傷ですらも、綺麗に消え、或いは復活し、今、ゲオルグの腕の中には美しい虎人族の少女がいた。


「よかった……………」


心の底から安堵した。いかにこれだけの力があっても、失ったものまで取り戻せるかは半信半疑だったのだ、それ故の詠唱である。


先程まで、か細い息しかしていなかった少女は、今は安らかな寝息を立ててゲオルグに抱かれている。


「奇跡だ………」


「これが………ドラグニルの……?」


「伝説は全部本当なのか………」


横からの場違いな声に、再び声を荒らげそうになるのをグッとこらえる。この少女を起こさぬ為に。


「お前らに聞きたいことがある、その答え以外の言葉は要らん、口答えは許さん、ふざけたことを抜かすなら滅ぼす、嘘偽りを並べ立ててこの場を凌ごうなどとは考えるな、その時は誰一人として生かしてはおかない、いいな?」


静かに、だが確かな怒りを感じさせる声音でそう言うと、村人誰もが一斉に息を飲んだのが分かった。恐らく、本能レベルでの恐怖を感じたに違いない。これまで数日間とはいえ共に過ごし、多少なりとも気安い存在であったドラグニルは、そこにはいなかった。


村人達は、ただ黙って頷くより他なかった。













村人達への尋問、もとい質問を終えた時、すでに夜は大分更けていた。ゲオルグは相変わらず、その腕の中に虎人族の少女を抱えている。この娘に、名前はないのだそうだ。


聞いた話を纏めると、人間にとって獣人とはこの国、というより、少なくともこの大陸では家畜の一種として扱われているらしい。人並みの知性は当たり前に持つし、力も人より優れた者がほとんどだというのに、なぜそうなったか。それは、数の少なさと謂われもない風聞による結果だという。


人間、獣人共に正確な人口など当然ながら判明していないが、少なくとも現在では獣人は人間の100分の1以下もいないだろうとのことで、10万人規模の大都市でも、貴族や豪商、または多くの農地を持つ豪農が買って飼育、奴隷のように扱う獣人が合わせて100人いるかいないかと言った程度。獣人だけで構成された集落というのは前世紀に軒並み人間に襲われ、今ではほとんど存在せず、数少ない獣人も毎日人間に命を脅かされている生活を送っている。


なぜそこまで数を減じたのか、それは、この大陸で最も栄えているハルミット教と呼ばれる宗教の中で、獣人とは人と獣との間の過ちによって生まれた罪の象徴、と言う教えがあり、それが多くの弾圧や差別を産み出し、ここまで獣人を衰退させたのだそうだ。ハルミット教とは、大陸各地で戦火が広がっている時に生まれた宗教で、不戦と愛と平和を説き続けた聖人ハルミットが興したものと言われ、それを聞いたゲオルグは鼻で笑った。平和と愛を謳った者のせいで滅ぼされそうになっている種族がいるなどとんだ笑い話だからだ。


そして、その後も似たような聞くに耐えない話を延々と聞かされ、ゲオルグはついに、決断した。


<この国、いや、大陸すべての獣人が集まる、獣人の楽園のような国を作ろう。いや、獣人に限る必要なんてない、人間が亜人と呼び蔑むあらゆる種族の集う国だ。人間だけが謳歌出来る世界など、俺が終わらせてやる………>


それは、力があれば出来る、などという簡単なものではないだろう。どこに拠点を置くのか、そこをどう繁栄させていくのか、どう人口を増やすのか、どうやって人間達の認識を改めさせるのか。


問題は山積みである。無論、己の力で解決できることも多かろう。しかし、己の力だけではどうにもならないことがあるのも事実なのだ。


だがしかし、あまり悩んでいる時間もない。今こうしている間にも、何処かで理不尽な力に殺されかけている者達がいるのだ。


「ん………くふ……」


腕の中の少女が僅かに身じろぎし、寝息をあげる。


「………やってやろう。どうせ、無駄に長い人生だ、100年200年くらい、くれてやるよ」


これはただの独善なのかもしれない。人間が財産として扱っている者を奪う行為になるかもしれない。だが、分かっていても、それを許容できるか出来ないかで言えば、出来ない。力尽くで人間達から財産を奪う、それは今、獣人達の権利を奪っている人間と同じ行為なのかもしれない。だが、それでも。


<こんな少女までもが、抵抗すら許されずに悶え苦しみ生きる常識なんぞ、許せるものか……>


改めて決意し、少女を撫でる。


優しく微笑みながら、慈しむように少女の頭を撫でるその姿は、まるで兄妹のようであり、親子のようでもあった………

やっとタイトル道りの流れになってきました。


ほのぼのした話が書きたかった筈なんだけどなぁ・・・

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