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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第一章 新生ドラグニルと運命の出会い
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獣人との邂逅、そして残酷な現実

「あ、ゲオルグ様~」


「ゲオルグ様、この前植えて頂いた木に生っていた実が食べ頃になりました、最初の一つはゲオルグ様にと………」


「ゲオルグ様!!ようやく門が完成しました、是非見てやってくだせえ、若い衆が出来映えを披露したいと!」



村に来てから早5日、本当はとっくに村を出て放浪していた筈なのだが、あのチート振りを発揮した日からこんな感じで、中々出るに出れない。何度かそれとなく伝えたのだが、シュミット曰く。


「これだけの恩恵を与えて下さったのに、一宿一飯程度ではとてもご恩を返しきれません、何卒、今しばらくご逗留頂きたい」


とのこと。


「ん、今日も元気そうだなルック。ヘレン、その実はお前達がしっかり世話をしたからちゃんと育ったんだろう?、なら、最初の実はお前達の物になるべきだ。それとゲイル、門の出来映えは後でしっかり見に行くから、ちゃんと他の仕事をしろと伝えておけ、原因を作った俺が言うのもなんだが、今は結構忙しいだろうに」


村人達に受け答えしながら、内心で溜め息をついた。


<俺は獣っ子を愛でたいというのに、いつまで経っても会えんじゃないか………>


そう、そもそも放浪しようと思っていたのも、まだ見ぬ猫耳娘や犬耳娘に出会い愛でんがため、それが初っ端から足止めを食らい頓挫している、実に由々しき事態だ。とは言え、彼らの必死の引き留めを無理に振り払うのも気が引ける。これは、変なところで小市民な部分が残っている証である。


<なんとか理由を作って出て行かないとな………>


そう思案しながらも、あのシュミットを上手く諭す方法が思い浮かばない。多分、シュミットはそもそもゲオルグを村から出したくないに違いない。


あらゆる災厄を振り払い、多くの恩恵を与え、少なからぬ人々を救うことが出来る存在。そんな希少にして重要な者を、どうして自ら手放そうなどと思おうか。


<はぁ………全く、先の思いやられる……>


だが、獣人に会いたい、村を出たいというゲオルグの二つの願いは、意外な形で叶えられる。酷く残酷な現実を伴って………











それは、村に来て7日目の夜のことだった。ゲオルグが村人達からの干渉から離れ、一人思索に耽る為に村から離れ、随分夜更けになってから戻った時、村の中から、普段のこんな時間にはない喧騒が聞こえてきたのだ。


「何かあったか?………果樹園の方だな」


酷い罵声がヤケに響いている。聞きなれた声が多く、盗賊などの類いではないだろうとは思いながら、つい急ぎ足でそこへ向かう。すると、どうにも信じがたい光景が目に入った。


「てめぇ!!家畜の分際で盗みなんぞしやがって!!」


「この木はゲオルグ様が植えてくださった有り難いもの、それをそんな汚い手で触りおって……」


「これだから亜人は嫌なんだよ。品性の欠片もない」


「皆でなけなしの金叩いて買ったっつうのに、大した労力にもならねぇし、もう一度売っ払うぞこの盗人が!!」


果樹園にある木、その一つの下で、数人の村人が倒れている誰かに暴言と共に暴力を振るっていた。中には、大人の腕ほどの太さの木の棒を持った者までいる。


「そこで何をしている!!」


あまりにも凄惨な光景に我慢ならず、気がついたら声を張り上げて問い正していた。


「こ………これはゲオルグ様!」


「こ……この家畜が盗みを働いたもので、罰しておりました・・」


「お見苦しいものをお見せして申し訳ございません!!すぐに片付けますので!!」


そう言って、一人の村人が倒れている者を無理矢理立たせた。


「待て、それが家畜だと?、俺には人間にしか見えんのだが」


ゲオルグは、逃がさんと言わんばかりの圧力を持って声を掛けた。これがここの村人達の本性だと言うのなら、とてもじゃないが見逃せないからだ。


「い、いえ、こいつは卑しい亜人です。これまでは、このような汚ならしい物をゲオルグ様に見せてはならんと、小屋から出さなかったのですが………」


「こいつは勝手に出てきた挙げ句、ここの実を盗もうとしてたんです!!私達が一生懸命世話してた、ゲオルグ様に頂いたこの木からですよ!?」


亜人、という言葉に、ゲオルグは強い反応を見せた。人間は、獣人やドワーフ、エルフなどをそう呼んでいると知っていたからである。


「………見せてみろ」


「え?……いや……しかし………」


「いいからここへ連れてきて見せてみろと言っている!!」


この村に来てから一度として怒ったことのないゲオルグの、本気の怒りである。それに当てられた村人達は、短な悲鳴をあげ、恐る恐るそのズタボロな者をゲオルグの前に連れていき、そっと下ろした。


「………なんと…………なんと惨いことを……ッ!!」


優しく抱えあげたその人物は、小さく痩せ細った、虎人族の少女だった


虎のようにやや丸みを帯びているはずの耳はボロボロになり原型を留めておらず、美しくしなやかであったであろう尻尾は途中で途切れ、その途切れた部分はまともな治療も受けてはいないのだろう、僅かな腐臭がしていた。


ゲオルグは同情や憐れみよりも、激しい怒りと悲しみを覚えた。


これが人間の獣人への仕打ちか。


これが人間の獣人への常識か。


これが、この世界の獣人の在り様だと言うのか。


「……認めん………」


未だ、怯えきった表情でゲオルグを伺う村人のことなど、最早眼中にない。


「これが常識?これが?この酷く醜い現実が?………ふざけるなよ………」


こんなにも痩せ細り、血を流し、苦痛と悲しみに歪んだこの姿が、この国の。この世界の常識だと言う。


「ふざ……けるなぁぁぁっ!!」


夜空に、まるで泣いているかのような悲しい、されど天を割らんばかりの怒りを内包した、竜の咆哮が轟く。



ゲオルグは今この時、世界に喧嘩を売ること決意した。


それが、この目の前の、そしてまだ見ぬ獣人達を救うのに必要であるならば、と………

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