一番大切なモノ
誰もいない暗闇の中、ただ一人震えながら歩く青年がいた。血みどろになり、全身は傷だらけ。
十字軍遠征。
それは異教徒から聖地を奪還するはずだった尊く清い戦。しかし、回数を重ねる度に内容は醜く変容してしまった。
異教徒の街ならば虐殺をも厭わない。女子供老人でさえ斬り捨て犯し、弄ぶモノへと。
青年は分からなくなったのだ。
何が正しいのか、何を信じればいいのか。そして、自分は何をすればいいのか。
闇へと落ちる寸前。
彼は、答えを求めた。
道ゆく人に尋ねて回る。
返ってくる返答は、虐殺に加担した奴に教えたくない。青年は絶望した。
異教徒であろうがなかろうが、人に違いなかったのだから。なぜ自分は虐殺に加担してしまったのだろうと。
雨の中青年は叫ぶ。心の底からの慟哭はとても悲しいモノだった。涙も溢れて止まらない。
「どうしたのですか?」
青年が振り返るとそこには、傘を差す女性がいた。みすぼらしい服を着ているが、顔は非常に明るい。
「この世で一番大切なモノは何ですか……?もう何も分からないんです……」
なんだそんなことですかと女性はにこやかに笑う。太陽を見ているように青年は感ぜられた。この人なら答えてくれると思って、女性を青年は見つめた。
「簡単ですよ? それは『人を信じること』それ以上に大切なモノなんてありません」
「そして、自分が思い描く正義を執行すればいいんです。子供の頃に想っていた心は誰であろうと尊いモノなのですから! 」
青年は忘れていた。子供の頃の夢を。
『俺は正義の味方になるんだ!』
ああ、なんで忘れていたのだろうと彼は涙を流す。冷たい涙ではなく暖かい。
「ありがとう、俺は俺が正しいと思ったことをするよ。この剣を使う理由ができた。守る、誰かを守るために俺は戦う」
青年は立ち上がり雨が降る中、次の遠征地へと向かった。自らの正義を貫くために。




