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reminiscence  作者: 水瀬白露
Episode 1 shinlia-赦し-
2/5

lia-光-

 何か重大な事件が起こるとき、それに切っ掛けなんて無いのかもしれない。

 ただ、今回のことにはしっかりと切っ掛けがあった。ただ、あまりにも唐突でそんな風に思ってしまっただけだ。

 事の次第はこうだった。

 フェンには同い年の幼馴染みがいる。

 村の子供は皆似たようなものだったが、しかしその幼馴染みだけは特別な親友だった。

 名前はチルロット=リンシェン。

 フェンは親しみを込めてロッテと呼んでいた。

 そのロッテがどういう訳か北の渓谷に行き、何か不吉なものに襲われたらしい。

 北の渓谷は風が強く吹く場所で大人でも時々よろけてしまう程の突風が吹くこともある。

 また谷も深く、一度落ちたら助からないと言われているうえに、谷底にはかつての化け物が進行してきた地の底とも繋がっているとの噂もあった。

 そのため、村の子供たちは北の渓谷には行かないようにきつく言い含められている。

 精霊の森にはさらりと入ることも多いフェンでさえも北の渓谷には行こうとしなかった。

 精霊は無闇に命を奪っては来ないが、地底の化け物は無差別に人を襲う。

 そしてロッテに呪いの瘴気を浴びせたのも、結界を破らんとする化け物の仕業に違いないと村の大人たちは噂していた。

 そしてその化け物から逃げようとしてロッテは村の近くまで来たものの、瘴気に体力を奪われ、倒れていたところを旅人が気づいてロッテの家まで連れて帰ってくれたそうだ。

「ロッテ!……っ!」

 フェンはそれを聞くやいなや真っ先にロッテの家に飛び込み、そして寝込むロッテを見て声を失った。

 ロッテは苦しそうに喘いでいた。頬も赤く熱もあるに違いない。

 そして何より、ロッテにまとわりつくように赤紫の瘴気が漂っていた。

 フェンが思わず寝込むロッテの投げ出された腕を掴もうとすると、旅人が制止した。

「触るな!移るぞ!」

 フェンは腕を引っ張りあげられ、ロッテから引き離されたが、フェンはロッテにまとわりついていた瘴気がほんの少しだけ指先に吸い込まれて行くのを見た。

「今は魔法で瘴気がまわるのを防いでいる。化け物さえ倒せば瘴気も消えるが、間に合わなければ、チルロットは体力を失って死ぬだろう。そうでなくても一度汚染された人間を助けるのは難しい」

「そんな」

「助けるにはそれこそ月光草なみの浄化のマナが必要だ。しかし神世と繋がっていないこの場所でそれを得るのは難しい」

 そう言って旅人は家から出ていった。

 フェンは慌てて旅人を追った。

「どこに行くの!?」

 旅人は振り返って、難しい顔で言った。

「せめて化け物は倒す。この事態は私の責任だ」

 苦々しげに、旅人が歯噛みした。

「この村にはその化け物についての情報を得るつもりで来たのだから」

 それが、全ての切っ掛けだった。






「私がチルロットの家族に化け物についての噂がないか聞いていたとき、チルロットは何か心当りがあるようなそぶりを見せていた。恐らく、化け物の影か瘴気でもちらっと見たことがあったのかもしれない」

 旅人は迷わず村を出て北へ向かったので、フェンはそれを止めるために追いかけ、旅人の腕を掴んだ。

「前にもロッテが北の渓谷へ行ったことがあるってこと!?」

「近くまで行ったのは確かだろう。だが私のためにチルロットが確めに行ったんだとしたら……!」

 いてもたってもいられないと言うように旅人はフェンの制止を振り切った。

「助けるためには今すぐ化け物を倒すしかない!」

 フェンにはなぜ旅人がそこまでロッテを助けようとしてくれるのかわからなかった。

 化け物を倒しに行っても、逆にこちらが殺されるかもしれないのだ。

 しかも突風の吹き荒れる渓谷でまともに戦えるとも思えない。

 そこまで、旅人は化け物を恨んでいるのだろうか。助けられなかった人が、いるのだろうか。

 でもフェンにはそれを深く考える余裕はなかった。

 旅人は今にもフェンを置いて走り出しそうな勢いだったので、慌てて声をかける。

「待って!月光草があればいいんでしょう!?」

「なっ……心当りがあるのか?」

「私のお婆様ならきっと持ってる!」

 それは勘でしかなかったが、しかし間違っている気もしなかった。精霊の森に住む、精霊に認められたただ一人の人間。そんな彼女が精霊の森に自生する便利な植物を持っていないはずがない。

「お婆様?君に?」

 訝しげに旅人が尋ねた。フェンの家族は両親と祖父だけだと思っていたのだろう。

「聞いてない?精霊の森に住む、村で一番愛されている美しき語り部。それが私のお婆様なの」

 フェンが自慢げにそう言うと、旅人は驚いたように目を見開いた。

「精霊の森に、住む……伝説ではなかったのか」

 旅人の言葉に、フェンは少しむくれた。

「お婆様はちゃんといるもん!勝手に都市伝説にしないでよ!」






 フェンが精霊の森まで旅人を案内したとき、さすがに旅人は入るのを躊躇した。

「あっ……」

 気づいてフェンが振り返ると旅人は苦笑してフェンの知らない言葉を口ずさんだ。

 すると青色の光が陣となって旅人の周りを囲み、回って、そして消えた。

「一度だけ魔法を無効化する魔法だ。自分の身を守ることならできる。それよりも……」

 フェンは首を振った。

「大丈夫。森の奥まで行かなければ、精霊は私を無視してくれるから」

 そういうと旅人はまた驚いたようにしげしげとフェンを見つめた。

「な、何?」

「ああ、いや……まあそうかもしれないな。行こう。案内してくれ」

 フェンはうなずくと、慣れた道を広場まで走った。

 そこには見慣れた小屋が建っていたが、フェンは思わず立ち止まってしまった。

「本当に森の中に住んでる人がいたとは……」

 旅人が感心したように呟く。

 しかし、フェンは言い知れぬ不安を感じていた。

 いつもと、様子が違う。何が違うとは言い切れないが、とにかく違うのだ。

「リーフェンリア?」

 旅人がフェンのどこかおかしい様子に気づいて呼びかけた。

 フェンはちらっと振り返り、旅人を見上げると少し泣きそうな顔をした。

 もう、フェンの予感は確信に近いものになっていた。

 それでも入らなければならない。シアンの家に。

 そうしなければ月光草は手に入らないのだ。その代わりに知らないままでいたかったことを知ってしまうのだとしても。

「平気。行こう」

 フェンが小屋の扉を開けて中に入ると、ささやかな風にあおられほこりが舞った。

 いつもシアンが座っている椅子はさびしくそこにあるだけだ。

 カーテンの閉じられた部屋は薄暗く、時間に置き去りにされてしまったかのようだ。

 そして、テーブルの上にはいつもシアンが身につけていたブレスレット、『朱の腕輪(あけのうでわ)』が普段シアンの手首にあるときのようにほこりをかぶらず輝いていた。

「……お婆様?」

 この様子はおかしい。

 もう何日もここに戻ってきていないようではないか。

 フェンが前に尋ねてから1週間しかたっていないが、それでも外出したにしてはずいぶん長いこと家を空けすぎているのではないだろうか。

「リーフェンリア」

 呼ばれて振り向くと、旅人が難しい顔をして外から小屋の中を覗いていた。

「この中を探してもいいか?」

 その言葉でフェンははっとした。

 そうだ、ここには月光草を探しにきたんだった。

 フェンがうなずくと、旅人は一言、邪魔する、と言って部屋のあちこちを探し始めた。

 フェンは朱の腕輪を手に取った。

 月光草も大事だが、この狭い家なら二人で探すよりも、慣れているらしい旅人に任せたほうがいいだろう。

 なぜ隠し戸など見つけられるのかはわからないが。

 そして、フェンにとっては、朱の腕輪だけを残して消えたシアンのこともまた気がかりだった。

 朱の腕輪は何か特別なものらしいということだけをフェンは知っていた。

 今までシアンは一度もそれを外そうとはしなかったのだ。どんなにフェンがそれをねだっても、駄目と言っていつも触らせてさえくれなかった。

 何かに惹かれる想いでフェンはそれを身に着けた。

 そのとき、一瞬視界がぶれて、その瞬間から、いつもとは違う身軽な格好をしたシアンが扉に手をかけてこちらを見つめていた。

「お婆様!」

 シアンがくるりと身を翻して外に出ると、フェンはとっさにシアンを呼んで追いかけた。

 シアンは森の奥へ駆け出し、そして現れたときのようにまたふっと消えてしまった。

「どうした?」

 小屋の中から旅人がいぶかしげにフェンを呼んだ。

 フェンは呆然とシアンの消えた場所を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「お婆様、森の奥へ行ったんだ……」

 旅人は表情を一転させて険しい顔つきになるとフェンを呼んだ。

「来い、リーフェンリア」

 フェンは後ろ髪引かれる思いで旅人の言葉に従った。

 小屋に戻って旅人が見せたのは一本のしなびた月光草だった。

 とたんにフェンは現実に引き戻されたように目を見開いてそれを見た。

「見つかったんだ!」

「ああ。だが、これはだめだ」

「……どうして?」

「マナがほとんど切れ掛かってる。蘇生させるにはマナを補填させなくては」

「そんなことができるの?」

「ここは外れとはいえ精霊の森だ。今の私には少し難しいがなんとか神世とつなげて神世の月(シン)のマナを引き出すことができるだろう。」

 フェンは旅人の言葉に少し違和感を覚えたが、できるというのでうなずいた。

「だが、失敗する可能性はある。……そしたら他の月光草が必要だ。そしてそれは森の奥にあるんだろう?」

 フェンは旅人が言いたいことを察した。

「そして、リーフェンリア、お前は消えた祖母を見つけたい。手がかりは森の奥にある。ならば」

「行く。私、行きたい。かならず月光草も持って帰る。お婆様も見つけてくる」

「だが、森の奥は危険だ。精霊もそこまで許す気はないかもしれない。だが、よく聞け、リーフェンリア」

 旅人はフェンの肩をつかんで視線をまっすぐ合わせた。

 旅人の間近で見るほど整った美しい顔は真剣にフェンに何かを訴えていた。

「お前はかつてこの森で精霊と共に暮らしていた精霊の森の民の末裔だ。あの村の誰よりも正統な。その証拠にお前の髪は肥えた土地のように艶のある茶髪であり、どこよりも深いのに光の通る森のような緑色の瞳をしている。精霊の森の民は精霊の森に立ち入る権利を持っているんだ」

 フェンは寝耳に水、というように驚きで固まっていた。

 シアンの語りでしか聞いたことがなかった精霊の森の民のお話。その末裔が自分だと言うのか。それこそシアンの言ったように、先祖がえりのように同じ特徴を持って生まれてきたのだと言う。

「だが少し足りない」

 旅人はそう言うとどこからか、一本の長い紐を取り出した。

「精霊の森の民は皆同じ髪型をしていた。それには理由がある。精霊の森の民たるゆえんだ。そしてその髪型に欠かせない、この月光草の繊維の織り込まれた飾り紐。かつての精霊の森の民と同じ条件でなら、森の奥まで行けるだろう」

「……どうしたらいいの?」

「まずは髪を切れ、左に一房だけ残して」

 フェンはためらった。

 フェンが髪を伸ばしていたのはひとえにシアンへのあこがれゆえにだったからだ。

 なのにそれを切らなければフェンはシアンを追うことができない。

 フェンは未練を振り払うように首を振った。

「わかった。旅人さん、切ってください」

 フェンはくるりと旅人に背を向けると髪をすべて背中に流した。

 旅人は何も言わずにフェンの髪をすくいあげると、2、3度ナイフを滑らせて左の一房を残して肩の高さまで髪を切ってしまった。

 それから旅人が残った一房に飾り紐を括りつけるとフェンの背中を軽く押した。

「これでいい。行け、リーフェンリア。だが明日までには必ず戻って来い。たとえ何も見つからなかったとしてもだ」

「うん」

 フェンは扉にかけよると、幻で見たシアンのように扉に手をかけて振り返って旅人を見つめた。

「ありがとう。旅人さん。私の名前長いでしょ。フェンって呼んでくれると嬉しいな」

 そう言ってフェンは小屋を出て精霊の森の奥深くへと走り去っていった。

 残された旅人は、それを見送ると、改めてその小屋を見渡した。

 その場所だけは精霊の場所ではなかった。この小屋のある辺りとフェンが通った道だけはこの小屋の主らしい人物のテリトリーとなっていたのだ。

 ここには主の許可した人物とその人物に案内された者しか立ち入ることができない。

 やれやれ、と旅人は嘆息した。

「いったいここにはどんな大魔道士が住んでいたのやら」






 フェンは夜になるにつれ、光が辺りを舞うように降り注ぐのに気づいた。

 優しい月の光だ。

 それが森の木々に降り注ぎ、透けるように地にまで降りてきているのだ。

 やがてフェンはあちこちに月光草が生えているのを見かけるようになった。

 だがフェンはそれを一瞥しただけで抜き取っていくことはしなかった。

 森は嘘のように静かだった。

 奥に行くにつれ、精霊と鉢合わせる確立も高くなっていくだろうに、ちらりとすら見かけなかった。

 なのに、いつものように精霊に無視されているようにも感じなかった。

 むしろ、見守られているような……。

 フェンはやがて一面に月光草の咲く広場にたどり着いた。

 広場の向こう側には何人もの人が暮らすことのできそうなどこか荘厳な建物が、しかし半分朽ちたような状態で建っていた。

 あれは、精霊の森の民が使っていた遺跡なのだろうか、とフェンの脳裏にそんな考えがちらついた。

 フェンがその広場に立ち入ろうとしたとき、後ろから人が来る音が聞こえた。

 その音に驚いてとっさに振り返ると、美しい銀髪を月の光と共に輝かせ、シアンのような黄金の双眸そうぼうでフェンをじっと見つめる神威ある美しい精霊がいた。

 その双眸は徐々に見開かれ、フェンから目をそらそうとしない。


「ナフィ?」


「……え?」

 精霊のもらした驚愕するかのような呟きにフェンは思わず聞き返した。

「ナフィ?」

 一瞬精霊の瞳が揺らいだように見えた。

「そうか……お前か」

 フェンは精霊の言葉に少したじろいだが、そのときふいに気づいた。

 この精霊は、私を害する気がない。

「あなたは……?」

 フェンは神威に圧倒され震える声で続けた。

「あなたは誰ですか?」

「まだ答える義理はない」

 まだとはどういうことだろう。

 フェンは不思議に思ったが、今は何を言っても意味がないだろうと思い口を閉ざした。

 すると精霊から淡々とした声で話しかけてきた。

「何をしに来た?」

「友人を、地の底の化け物から救うために、月光草を取りに」

「なら好きに持って帰ればいい。その代わり二度とここに立ち入るな」

 とぎれとぎれにようやくフェンが言うと、冷たく精霊が突き放した。

 フェンはくじけそうになったがなんとか気をしっかり持って首を振った。

「お婆様を探しに来たの。精霊と同じ瞳を持った女性ひと。名前はシアン」

 シアン(cserne)とは古代後であけを意味するのだと、シアンが教えてくれた。

「知らないな。そもそも人が立ち入ることのできる場所ではない。早く立ち去れ」

 精霊にまたも冷たく言い放たれると、フェンはさすがに肩を落として、さびしそうにシアンを呼ぶように呟いた。

「お婆様……」

 すると突然フェンの体から黄金の光が浮かび上がった。

 それは旅人が精霊の森に入る直前に行った魔法のように何かの陣の形をしていて、しかし旅人がやったのをまるで逆再生するかのように陣が解け消えてしまった。

 フェンは急に体が重くなったように感じ、思わず膝をついた。

 視界がぼやける。熱が帯びる。そして体中を締め付けるような苦しさを感じる。

 だんだん赤紫に染まっていく意識の中で、フェンは小屋で見た幻と同じ姿をしたシアンが木々の間からこちらを見ているのを見つけた。

「お、ば……さま……」

 そしてフェンは意識を失いその場に倒れた。






 フェンが目覚めたとき、最初に見たのは不機嫌な表情の精霊だった。

 わけがわからなくなって、フェンはとっさになにがあったのか思い出そうとして、そして叫んだ。

「お婆様は!?」

 がばっとフェンは起き上がると、突然驚いたように自分の手のひらをみつめた。

 体が軽い。

 瘴気が消えて、呪いもなくなっていた。

 だがそれだけじゃない。

 普段の自分よりも自由に体を動かせるような感じがした。

 なにかのリミッターが外れたかのようだ。

 それに、今まで一度も感じたことのない奇妙な感覚がフェンの体を巡っていた。

 それは精霊に感じた神威に近い……けれど優しい力だ。

 自分の体の変調に驚いているフェンをただ見ていただけの精霊は、唐突にしゃべりだした。

「シアンならもう行った」

 驚いてフェンは精霊を見つめた。

「さんざん脅して、そして消えた。おかげで私はお前と契約することになった……お前、名前は?」

 初めて見たときはシアンと同じくらいの歳に見えたのに、なぜか今はそれよりも若く感じる。

 それとあの時感じた神威はぐっと身近なものに感じられ、フェンは精霊が他人のようには感じられなくなっていた。

 それにしても精霊を脅すとは、いったいシアンは何者なのか、とフェンは驚いたが、精霊が無視されたと思ったのかさらに不機嫌そうな顔になったため、あわてて名乗った。

「リーフェンリア!リーフェンリア=シャル。フェンって呼ばれてる」

「リーフェンリア……reefenlia、我々の言葉で木々から零れる光の意味か」

 フェンは精霊の言葉に驚き、そして精霊の森の中を駆けたときの記憶がよみがえった。

 あのとき、森の中まで入ってきた月の光はとても美しく森と調和していた。まるで、この森のことを示しているみたいな名前だ。

「お婆様が名付けたの」

「だろうな。そうか、そういう意味か」

 精霊は何か得心がいったよううなずいた。

「もしかしてお婆様のことを知っているの?」

 フェンが聞くと、精霊はまたうなずいた。

「遠い昔の話だ。だが今はその話をするときではないだろう。私は……フェン、お前と契約することをシアンに望まれた。そのために汚い手段を使われたりもしてな」

 フェンは首をかしげた。

 シアンがフェンに精霊と契約を結ぶことを望んでいたというのも初耳だったからだ。

「シアンはお前に瘴気が回るのを阻止する魔法をかけていた。だがそれを解いて、契約しなければ死ぬことになると言ったんだ」

「お婆様が?」

 フェンは信じられないというように聞き返した。

「酷い奴だ。昔から。人間から生まれたくせに精霊のようで、だが考えていることがまったくわからない。……いや、知っていた。シアンの想いは。だが私はそれでも拒みたかったのに」

 ずるい奴だ、と精霊は呟くとつらそうに顔を伏せた。

 その表情は見たことがある。

 父と喧嘩をした後の母の顔だ。

 もしかしたら、この精霊はシアンのことが好きだったのかもしれない、とフェンは思った。

 だが、フェンはこの精霊の孫ではない。シアンの気持ちは祖父に向いていたのだから。

 二人はしばらくそのまま無言で物思いにふけった。

 しばらくして、精霊がため息をついた。

「フェン。お前はこれからどうする」

「どうするって……同じだよ。月光草を届けて、お婆様を探しにいく」

 聞きたいことも増えたし、とフェンは言った。

「ふむ。だがその姿で帰ると驚かれるだろうな」

「え?」

 フェンが聞き返すと、精霊はついて来い、と言って外に出た。

 外はあの月光草の広場だった。フェンたちがいたのはそこの建物の中だったらしい。

 精霊の後をついていくと、川辺に出た。

「川を覗いて自分の顔を見てみろ」

 言われるままに川を覗くと、フェンははっと息を呑んだ。

「精霊の森の民は唯一精霊と契約を交わせる民族だ。お前はその最後の一人で……そして民は精霊と契約をすると、契約した精霊と同じになった右の瞳を通して精霊のマナを共有し、左の一房の髪に契約の魔法を刻まれ魂をつなげる」

 ゆえに、右目は精霊と同じく黄金に輝き、飾り紐で括られた髪は銀に染まるようになる。と精霊は言った。

「シアンの足跡をたどれ、フェン。お前と私が契約したのはシアンの意思だ。シアンに追いついたとき、すべての真実がわかるだろう」

lia-光-

(物理的な)光

単体での読み方はリアだがShinliaのようにaを発音しない場合もある

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